インテリアの「らしさ」は?
長い時間を過ごすインテリアだから、そのデザインにもこだわりたい。装備や質感だけではプレミアム度は測れないもの。乗り手を満足させる個性はあるか? ブランドイメージはどう表現されているのか? インパネを中心に3車を比較していこう。
■ボリュームは大きいが重々しくない…BMW 5シリーズ
先代7シリーズ=E65型などと同様に、メーターとナビ画面それぞれにフードを設けた「ダブル・フード」がこのインパネの特徴のひとつ。ただしナビ・フードのラインが助手席側に滑らかなカーブで延びていくのは、E65型との大きな違いだ。それと呼応するように、センターのオーディオの下からもカーブしたラインが左右に広がる。どちらのラインもドアトリムには連続せず、インパネ両端で止まる点にも注目したい。
これは「フローイング・ライン&フローティング・サーフェス」をテーマに、流れるようなラインでインパネを括り、あたかもそれ全体が宙に浮いているように見せたデザイン。フローイングの動きで優雅なダイナミズムを醸し出し、フローティングで軽快なスポーティさを表現している。大画面ナビを含めてインパネの絶対的なボリュームは大きいが、けっして重々しくないところがBMWらしい。
なお、フローイング・ラインはドアトリムやコンソールにも及んでおり、室内全体の統一感をもたらしている。コンソールのフローイング・ラインがドライバーの手を自然にi-Driveに誘うというのも、見逃せない美点だ。
■広さと安心感を提供する機能的デザイン…メルセデス・Eクラス
Eクラスのインパネも2つのバイザーを備えるが、5シリーズより一体感を持たせており、ナビ・バイザーやその下のエアベントにかなりシャープなラインを使う点も対照的だ。
じっと眺めていると、ナビ画面を囲む角張ったバイザーは異形角型ヘッドランプを彷彿とさせ、逆台形(もしくは五角形)のエアベントはフロントグリルを連想させる。そう言えばCクラスではボンネットの中央を走る折れ線の仮想延長線として、センタークラスターの中央にシャープな折れ線を配した。表現は違うが、エクステリアとインテリアに何か一貫性を持たせよういう意図はEクラスも同じ。その結果、こういうシャープなカタチが生まれたわけである。
インパネとドアトリムを連続的な形状としたのはA6と同様だが、A6がインパネ全体がドアにラウンドしていくのに対し、Eクラスは主としてロワー部(加飾より下)でラウンド感を表現。スポーティさはA6より弱いとはいえ、アッパー部で空間の広がりを見せつつ、ロワー部で安心感を提供するのは巧いデザインだ。広さ感も安心感もデザインが表現すべき大事な機能であり、その意味でメルセデスらしい機能的デザインの伝統を宿すインテリアと言えるだろう。
■コクピット・スタイルは伝統として根付くか…アウディ A6
A6のインパネはメーターとセンタークラスターを逆L字型に一体化した、いわゆるコクピット・スタイル。かなりトラッドな印象だが、ナビ画面を見やすい高さに置きつつダブル・フードにせずにシンプルにまとめるには、こういう逆L字型がリーズナブルなのだろう。ただ、70年代から90年代までBMWが長く使い続けたスタイルでもあるだけに、ブランド表現としてはいささか疑問だ。
しかしどうやら、これは確信犯(?)らしい。「技術による進化」を標榜し、いつも新技術の話題に事欠かないアウディだが、デザインは新しさばかりを追求しているわけではない。
エクステリアの「シングルフレーム・グリル」は戦前のアウトウニオンをひとつのモチーフに生まれた。クーペのA5はかつてのクアトロからブリスターフェンダーと台形リヤピラーを引用し、モダンに解釈し直したデザイン。A4は後ろ下がりのキャラクターラインで、古典的なエレガンスを表現している。
進化のなかに回顧を織り混ぜるのが最近のアウディ・デザインの手法。A6に続いて、A4/A5もコクピット・スタイルのインパネを採用したことを見ても、それは明らかだ。しかしこの路線をどう評価すべきか? コクピット・スタイルがアウディの伝統として定着するには、まだ長い歳月がかかると思うのだが……。
千葉匠│デザインジャーナリスト
1954年東京生まれ。千葉大学で工業デザインを専攻。商用車メーカーのデザイナー、カーデザイン専門誌の編集部を経て88年からフリーのデザインジャーナリスト。COTY選考委員、Auto Color Award 審査委員長、東海大学非常勤講師、AJAJ理事。