ダイナミズムはどう表現されているか
ドイツのプレミアム・ブランドを買う、あるいはそれに惹かれる人にとって、最大の関心事はデザインよりむしろ「走り」かもしれない。知恵とコストをしっかりかけて作り上げられた動的な質感は、昔も今も日本車の目標だ。ならば、その走りの味わいはデザインにどう表現されているのか? 見るからに上質な走りを連想させるデザインになっているか? それぞれのフォルムに見るダイナミズムを検証してみよう。
■緊張感とエレガントさを兼ね備えたダイナミズム…BMW 5シリーズ
5シリーズのエクステリアが醸し出すダイナミズムは、3車比較のなかではEクラスとA6の中間と言えそうだ。プロポーションは水平基調だが、ルーフラインはアーチ型。Eクラスほどアグレッシブに見えない反面、A6に比べると肉感的な匂いが漂う。
BMWのデザイナーを代弁すれば、実はこのデザインは先代7シリーズと先代Z4の中間に位置する。7シリーズでは彫刻的なカタマリ感を求め、Z4では面と線を強く抑揚させた。両者の美点を兼ね備えるのが5シリーズだ。フォルム全体はひとつのカタマリとして強い存在感を醸し出しながら、凹面と凸面を切り返すことでダイナミズムも表現している。
例えばボンネットは、バンパーへと降りていくシャープな折れ線を境に内側は凸面、外側は凹面と切り返す。ボディサイドは凹面のショルダーからキャラクターラインを挟んで、凸と凹を組み合わせたS字断面へと続く。デザイナーたちがイメージしたのは、薄い布をまとって踊るダンサー。動きに応じて布の表面は凹と凸を行き来し、ダンサーの鍛え上げられた肉体のエネルギーを間接的に表現する。そういう緊張感とエレガントさを兼ね備えたダイナミズムが5シリーズの特徴だ。
優美で力強いダンサーの姿を思い浮かべながらステアリングを握れば、このデザインと走り味の共通点をきっと発見できるだろう。
■台形シルエットへの回帰とFRらしさの強調…メルセデス・ベンツ Eクラス
先々代W210型はCピラーを強めに寝かせ、「クーペのようなプロポーション」を謡った。先代W211型はさらに滑らかなルーフラインでダイナミズムに磨きをかけたが、新型はちょっと違う。アーチ型の丸いルーフラインのセダンが多いなかで、あえて台形シルエットのキャビンを採用。クーペ的ダイナミズムを指向するトレンドとは一線を画している。
そのかわりに新型Eクラスのダイナミズムの鍵になっているのが面と線の扱い方だ。ボディサイドの強くウエッジしたキャラクターラインは、最近のメルセデスに共通する要素。Eクラスではドア下部からリヤバンパーに向けてキャラクターラインと平行のラインを延ばし、ウエッジのダイナミズムを強調している。
これに加えて新型だけの特徴となるのが、ブリスター風に膨らませたリヤフェンダー。EクラスのルーツであるW120型(53年発表)の「ポントン・ライン」に原点回帰しつつ、後輪の存在感を際立たせた処理だ。後輪で路面を蹴るというFRらしいダイナミズムの表現と言える。ただし、メルセデスの走り味の伝統からすると、このスタイリングはややアグレッシブすぎるかもしれない。
■要素を減らして純化させたフォルム…アウディ A6
Eクラスとは対照的に、A6はまさにクーペ的なプロポーションの持ち主だ。6ライトの長いキャビンを活かし、伸びやかなアーチ型のルーフラインを引いている。ショルダーを走るキャラクターラインもウエッジではなく水平基調。ドア下からリヤバンパーにラインが駆け上がる点はEクラスに似ているが、直線的で勢いのあるEクラスに対して、A6のそれはゆったりとカーブする。こうした伸びやかでエレガントなダイナミズム表現はアウディならではだ。
ベルトラインを境にフォルムを上下に分け、ロワーボディの上にキャビンを載せるというのはアウディの伝統。ピラーとフェンダーも区切られるから、ショルダーに張りのある凸面を通すことができる。この力強いショルダー面はアウディのダイナミズムの大事な源泉と言ってよい。
Eクラスの「ポントン・ライン」のような目を引く造形処理はないのも、アウディらしいところ。要素を減らして純化させたフォルムは、スムーズで緻密な走り味を予感させてくれる。