【神尾寿のアンプラグド 特別編】環境重視の「21世紀のホンダらしさ」。伊東新社長に感じたこと

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【神尾寿のアンプラグド 特別編】環境重視の「21世紀のホンダらしさ」。伊東新社長に感じたこと
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7月13日、本田技研工業(ホンダ)が、新社長である伊東孝紳氏の合同取材会を実施した。すでにレポート記事でも紹介したが、これは伊東新社長の所信表明であると同時に、今後のホンダの方向性を明確に示したものだ。

21世紀のホンダは、どこに向かうのか。今回のアンプラグドは特別編として、合同取材の様子から、新しいホンダの姿について考えてみたい。

◆ハイブリッドのホンダへシフト

ホンダらしさとは何か。20世紀、その答えは比較的シンプルであった。本田宗一郎という偉大な創業者がおり、その薫陶を受け継ぐ経営幹部、そして象徴的なF1などモータースポーツへの取り組みが、20世紀的なホンダ像を作りあげていたからだ。

しかし、これからのホンダは違う。本田宗一郎は過去の人になり、F1からは撤退。エコロジー意識の高まりと消費者の関心低下から、モータースポーツを取りまく環境は厳しい。そのような中で、どのようにして「ホンダらしさ」を再構築できるかが、伊東体制の課題になっている。

「本田宗一郎の薫陶を受けているのか、と問われれば私は違う。直接、(本田宗一郎と)話したことは数回しかない。しかし、距離があったからこそ見えるものもある。私なりに本田宗一郎のイメージを構築している」(伊東氏)

合同取材会の質疑応答において、本田宗一郎との関係を問われた伊東氏ははっきりと明言した。その上で、F1やモータースポーツのみが“ホンダらしさ”につながるという考え方にも疑問を呈した。

「F1撤退は残念なことは残念ですが、今の時代でいうと、そんなにレースが重要ではない。少なくとも、今のF1などレースの在り方には疑問を持っている。今後のホンダらしさでいえば、『環境と性能』がマッチングするようなものがふさわしいと考えています。例えば、そういった(環境技術や環境性能が競える)レースやモータースポーツの在り方があるのならば、是非とも参加していきたい」(伊東氏)

“環境重視”は新たな「ホンダらしさ」の軸足となる部分であり、そこでの具体的なアプローチとして、伊東氏はハイブリッドを強く掲げる。その強調ぶりは、ハイブリッドの老舗であるトヨタを上回るほどだ。

「僕は今後は『エンジン』と『トランスミッション』、(電気)『モーター』と(並列に存在すると)いう時代ではないと思っている。これからの新商品領域では、『モーター』はどこかにあってあたりまえ。エンジンの技術開発、化石燃料側からのエネルギー抽出量の向上は今後も続けますが、それはあくまでモーターと組み合わせた形での技術革新になっていくでしょう。ですから、今後のパワートレイン開発は、モーターをどのていど使うのか、(モーター主体での)商品企画ということになる。

あと20年くらいはハイブリッドカー領域での(技術の)最適化が進んでいく。ここでどれだけ先に行けるかということが、商品の競争力でとても重要になる」(伊東氏)

これは自動車メーカーのコア技術が、今後は「エンジンとトランスミッションから、より総合的なハイブリッドシステムに移る」ことを明確に示す姿勢と言えるだろう。フォルクスワーゲンのTSIを筆頭に、エンジンとトランスミッションの技術革新でも燃費向上効果は得られる。しかし、今後の“伸びしろ”で見れば、電気系のモーターとバッテリー技術の方が技術革新が続く可能性が高い。

さらにハイブリッドシステムは、全体のシステム構成やソフトウェア制御領域の最適化でさらなる燃費向上が可能であり、ここの先進性は“先行技術”としてブラックボックス化・付加価値付けがしやすいという一面がある。エンジン技術より環境性能の向上が期待でき、EVよりもコモディティ化しにくいのだ。

伊東氏は、今後の警戒すべきライバルとして「中国メーカーの成長」をあげたが、ハイブリッドシステムを競争軸に据えることで、ホンダはこうした中国メーカーとの直接競合を当面は回避できる。ホンダがハイブリッドシステムに注力する背景には、21世紀の自動車メーカー勢力図において、“新興国メーカーの台頭に対して布石を打つ”狙いもあるだろう。

◆小型化は全ラインアップに拡大する

ハイブリッドカーへの注力と並んで、伊東氏が強調したのが「小型化ニーズへの対応」だ。ここ最近のホンダは、フィット、フリード、インサイトと小型車のヒットに恵まれているが、それに満足することなく、ラインアップ全体で小型化への取り組みを強化するという。

「クルマの小型化ニーズは世界的な流れであり、たとえ景況が回復したとしても、今後も続くと考えています。ですからハイブリッドと小型化は並行でやっていきたい。

フリードなどは特徴的だったのですけれども、例えばミニバンなどでも、使い勝手を変えずに小さくしてほしいというニーズがある。(クルマの)小型化技術は重視しています」(伊東氏)

クルマの小型化は燃費性能の向上・環境面で有利なだけでなく、都市部での使い勝手のよさにも繋がる。小型化技術を高めることは、"クルマのサイズを変えずに車内空間を拡大する”ことにも繋がるため、きわめて応用性が高い。

また、「小型化とハイブリッド化」をセットで考えていることも、今後のホンダの強みになりそうだ。実際、今回のインサイトに搭載されたIMAは、当初からフィットへの実装を念頭に開発されたものだ。新技術を小型車前提で開発することは、搭載車種のラインアップ拡大や、普及価格帯への展開で有利に働く。

GMなど米国ビッグスリーは、SUVやピックアップトラックなど、大型で利益率の高い商品が売れるからといって、そこに依存した経営に陥ったために市場環境の激変に対応できず破綻した。一方のホンダは、小型化とハイブリッド化に注力することで、環境変化に対する「耐性」を強化しようとしているのだ。

◆都市化と消費者の成熟に適応できるか

20世紀から21世紀初頭にかけて、自動車ビジネスを取りまく環境として、大きく変化した要因がある。それが都市化の進展と消費者マインドの変化だ。

都市化は日本・欧州など先進国の一部と、中国などBRICs市場で顕著に起きている現象である。これは経済と情報の集約化や、人口や経済圏の縮小均衡を受けてのこと。そして、「若者のクルマ離れ」を極端な例とする消費者マインドの変化は、ネットなど情報メディアの発達による価値観の多様化と、若年層を中心とした消費者の経済感覚の変化を受けて起きた現象である。

これらはまさしく「クルマが売れない」大きな要因になっており、それにどう対応するかは、自動車メーカーが等しく突きつけられた「課題」になっている。ホンダはそれにどう向き合うのだろうか。

「まず都市化においては、四輪車だけでなく二輪も、駐車場の確保が難しいなど厳しい状況にある。(都市はクルマにとって)利便性が悪い環境というのは、どうにしかしなければならない。都市部で利便性がないと、お客様に(クルマが)訴求できない。これは自動車メーカーだけでなく、関係各所とも連携をとりながら、どうにかして解決していかなければならないでしょう。

「一方、若年層のクルマ離れですが、僕は『若者がクルマが嫌いになった』とは思っていません。むしろ、将来の生活における不安だとか、都市内部ではクルマが使いにくいといった点が相まって、若い人たちの心がクルマから離れてしまっている」

「その中でも僕は、(若年層の)将来の生活に対する不安というものが、『クルマを買わない』という心理に大きく影響しているのではないかと感じています。ですから、やはり経済の活性化と、明日への夢が持てる社会環境ができないといけないと感じています」(伊東氏)

都市化の進展、そして若年層のクルマ離れのどちらも、自動車メーカーが一朝一夕に解決できるものではない。なぜならそれは、「魅力的なクルマを出せば解決する」というような、プロダクトでどうにかなるものではないからだ。

しかし、その一方で、“都市部のクルマ”を利用しやすくする環境整備や、都市部や若年層が利用しやすいサービス型ビジネスの提供など、自動車メーカーが「クルマを売って終わり」というビジネスから視点を変えられれば可能となるアプローチは数多く存在する。伊東新社長が率いる新たなホンダが、そこまで踏み込めるか。先見性と手腕が試されるところだろう。

◆新しいホンダを作ろうとする姿勢

今回の合同取材会を通じて、伊東社長と言葉と表情に垣間見えたのが、「20世紀のホンダからの卒業」である。それは“尊敬する歴史上の人物は?”、と問われたとき、伊東氏が答えた「本田宗一郎」という言葉に表れていた。新しいホンダの社長にとって、本田宗一郎は同時代の人ではないのだ。

筆者はこれはとても好ましいことだと思う。

21世紀に入ってから10年が過ぎようとしており、自動車産業を取りまく環境は大きく変化している。過去100年余りのビジネスモデルや商品の在り方を大きく変えて、企業ブランドやイメージも再構築しなければ生き残れない。そんなのっぴきならない状況に、今の自動車メーカーは置かれているのだ。そのような中で、過去を尊重しながらも一線を引くことができる新たな経営者の存在は、とても重要だろう。

“環境重視”に軸足をおき、新世代の楽しいクルマ作りをめざすホンダ。同社が新たな企業価値を広め育てていけるか、今後に期待したい。

《神尾寿》

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