【フランクフルトモーターショー09】EV普及がFCV開発を加速させるか…メルセデスベンツ

自動車 ニューモデル モーターショー
ダイムラーAGの先進開発・研究グループ担当のHerbert Kholer副社長
ダイムラーAGの先進開発・研究グループ担当のHerbert Kholer副社長 全 15 枚 拡大写真

全方位で取り組むエコカーの先端技術

フランクフルトモーターショーは、これまでの報道を見るように文字通り「エコカーショー」とも呼べる内容だった。脱化石燃料時代をにらみ、ハイブリッド(HV)からプラグインハイブリッド(PHV)、電気自動車(EV)に燃料電池車(FCV)まで、幅広いパワートレインを搭載し、それらの多くが単なるコンセプトモデルではなく、具体的なモデル投入時期を明らかにした上での出展が目立った。なかでも、ひときわエコカー展示に力を入れていたのはメルセデスベンツだ。

今回のフランクフルトショーで、メルセデスが出展したおもなエコカーの出展車は次の通り(★印はフランクフルトショーのワールドプレミア)。
『ブルーゼロ E-CELL プラス』(PHV)★
『ヴィジョンS500プラグインハイブリッド』(PHV)★
『ブルーゼロ E-CELL』(EV)
『スマートed』(EV)
『F-CELLロードスターコンセプト』(FCV)
『F700syu』(HV)

◆ベルリンに100台のEVと500か所の充電ステーションを整備

燃料電池車からディーゼルまで、あらゆるパワートレーンの開発に取り組んでいるメルセデスだが、エコカー戦略の本命はなにか。ダイムラーの先進開発・研究グループ担当のHerbert Kholer副社長は「われわれは、特定のパワープラントを決めてそれだけの開発を集中させることはしない。利用シーン、マーケットや顧客層によってそれぞれに最適なパワープラントを提供する」と語る。今後もメルセデスは現状考え得るパワートレーンの開発を同時並行でおこなっていくことを明らかにした。

このうちEVについては、ドイツの首都ベルリンで「eモビリティ」と呼ばれる大規模実証実験を年末から実施する。この実験では、『スマート フォーツー』のEV仕様100台を用意し、参加するモニター顧客に対して4年間・走行距離6万kmをメドにリース。政府・経済技術省から助成金が出されており、インフラの整備を含めた検証をおこなうという。EV普及にとって不可欠なインフラとなる充電ステーションの設置は、欧州最大の電力会社RWE AGが担い、2010年までに市内に500か所もの充電ステーションを設置する予定だという。

◆特定の電池メーカーとのジョイントはない

日本の自動車メーカーでは、トヨタがパナソニックと、ホンダがGSユアサと、あるいは日産がNECのグループ会社とそれぞれ提携して二次電池の開発にあたっている。またドイツでもつい先日、フォルクスワーゲンが同じくドイツの電池メーカー大手ファルタ・マイクロバッテリーとの提携を発表した。

これに対して、電池開発におけるメルセデスの動向も注目されるところだ。Kholer副社長は「FCV/EV/PHVは二次電池の技術力に依存する。品質面を維持しながら、電池の低コスト化を実現しなければ普及は見込めない」と電池開発の重要性は認識するものの、「電池の開発に特定企業とのジョイントベンチャーは作らない。取引先との関係を通じて、自社で品質やコストの課題をクリアしていく」と明言する。

◆充電時に通信して決裁情報をやりとり

eモビリティの実験では、400V/63Aという高電圧・高電流の急速充電ステーションも整備。「充電コネクタには、通信用ソケットも含まれており、電力料金決裁のためのクレジットカード情報をやりとりするとともに、将来的にはステーションと電力会社のデータセンターを結んで、夜間電力を利用して充電する仕組みも整える。利用者にとっては充電コストを低減でき、電力会社にとっては安定的な電力供給を実現するだろう」(Kholer副社長)という。先日発表された日産『リーフ』と同じように、スマートフォンによる充電のモニタリングにも対応するとのことだ。

EVの普及見通しについて、Kholer副社長は「当グループだとスマートやAクラスといったスモールサイズでショートレンジのコミューターがメインになるだろう」と語る。それ以上の距離は、今回発表された『ブルーゼロ E-CELL プラス』や『ヴィジョンS500プラグインハイブリッド』に挙げられるようなPHVが担うという考えだ。PHVならばEVインフラが無駄にならず、これまで培ってきたエンジンの技術も活用できる。

とはいっても、Kholer副社長は「最終的に行き着くのは燃料電池車。当社ではそれを見据えた開発も進めている」という。メルセデスではひとつのプラットフォームでEV/PHV/FCVに対応できる『コンセプト・ブルーゼロ』シリーズを年初のデトロイトショーで発表しており、同シリーズの燃料電池ユニット搭載モデル『ブルーゼロ F-CELL』を年内に少量生産することを明らかにしている。また、ジュネーブモーターショーには燃料電池車コンセプトの『F-CELLロードスターコンセプト』を出しており、トヨタやホンダ以上にFCV開発の進展をさかんにアピールしている。

◆EVの普及がFCV普及を加速させる

EVの航続距離が伸びて全ての車格レンジに普及していくシナリオは、全ての自動車メーカーが歓迎するところではないだろう。言われるようにEVは電池やモーター、ITなど異業種企業の参入を呼び起こし、自動車メーカーはそれらとの競争にさらされる可能性を持っているからだ。おそらくメルセデスとしては、EVはせいぜい小型車・ショートレンジの普及にとどめておき、それ以上の距離レンジは当面PHVで対応し、燃料電池の性能向上とコスト低減を待って、FCVへバトンタッチするロードマップを描いているはずだ。このタイミングが数年でも遅れ、EVの普及が本格化するようなことにもなれば、自動車/IT/電機/電池メーカーを巻き込んだ業界の大規模な再編は必至だ。

今回のフランクフルトモーターショーでは、主要メーカーだけなくインドのREVAやアメリカのテスラ、フィスカーといったEVメーカーも具体的な参入時期を明確にしてEVを出展した。またドイツやフランスでは政府や電力企業が率先して充電ステーションの設置を急いでいる。なかなか普及しないと思われてきたEVだが、この様相を見る限りでは“今度こそは”本格的な波が来る。EV普及の進展に危機感をおぼえたメルセデスがFCVの開発を加速させることも十分に考えられる。

《北島友和》

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