【神尾寿のアンプラグド特別編】無償“Googleナビ”の登場でカーナビ市場はどう変わるか?

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Google Maps Navigation(β)
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10月28日、米GoogleがAndroid 2.0(※)搭載携帯電話向けGPSナビゲーションサービス「Google Maps Navigation」のβ版を発表した。

この“Googleナビ”は、まずは11月6日に米国で発売されるMotorola製スマートフォン「Droid」に搭載。このサービスを使うことで、他のGoogleサービス同様に無料でカーナビゲーションサービスを利用できるようになる。Google Maps Navigationは今後、Android搭載機を手始めとして、成長著しいスマートフォン向けサービスとして広がっていく見込みだ。

(※)Android…Googleが開発するモバイル端末向けOS。主にスマートフォンで利用されており、HTCやMotorolaのほか、ソニー・エリクソンやNECなども採用を表明している。

Googleの本格参入でカーナビゲーション市場はどのように変化するのか。今回のアンプラグドは特別編として、Googleのカーナビ分野参入の影響について考えてみたい。


◆カーナビの基本機能に優れる"Googleナビ"

Googleというと、検索サービス最大手であり、“インターネット企業”というイメージが強い。実際、Googleのコア事業はインターネットビジネスであるが、この数年、同社の姿勢は常にリアル(現実世界)への進出と浸透の方向を向いていた。

その代表的な例が、「Android」の開発だ。GoogleはAndroidをオープンなスマートフォン向けOSとして公開し、多くの携帯電話メーカーに無償で提供している。携帯電話が高機能化し、いつでもどこからでもGoogleのサービスにアクセスできる。それを狙っているのだ。

そして、Googleにとってもうひとつ重要なターゲットになっているのが、ナビゲーションサービスだ。実は同社は2005年時点では「カーナビ」を戦略ターゲットに定めていた。当時、Googleはフォルクスワーゲンと共同でカーナビゲーションの研究開発を行っており、Google MapとGoogle Earthを組み合わせた研究用プロトタイプを筆者も見せてもらった。このようにGoogleは2000年代前半から、人々の生活と行動に密着する「スマートフォン(携帯電話)」と「カーナビゲーション」を重要視していたのだ。

今回のGoogleナビは、そうしたGoogleのリアル戦略が結実したもののひとつと言える。同サービスでは、Google MapsのデータとスマートフォンのGPS機能を用いて、カーナビゲーションを実現。地図や施設データなどはGoogleのクラウドサービス(サーバー)側にあり、通信を用いて常に最新データを利用することができる。地図上には渋滞状況などの交通情報を表示でき、デスクトップ版と同様にサテライトビューとストリートビューに対応する。

そして、もうひとつ注目なのが、UI (ユーザーインターフェイス)の部分だろう。Google Maps Navitgationは、Android端末の音声認識機能に対応するほか、目的地検索ではGoogleの強力な検索機能と膨大なデータベースが利用できる。Googleが公開したデモンストレーション映像を見るかぎり、目的地検索やルート計算はとてもすばやく、その精度も高そうだ。

筆者は以前から、据え付け型・PNDを問わず、ネットに繋がらない単体型カーナビゲーションの弱点は“検索機能の貧弱さ”だと考えていた。これまでの単体型カーナビは内蔵HDDやメモリー内にある情報しか検索対象にならず、地図や施設データがすぐに古くなる。さらに情報量や検索キーワードの柔軟性・探しやすさといった点では、ネット上に膨大な記憶容量と処理能力を持つクラウドサービスとは雲泥の差だ。Googleナビの優位性は、カーナビの基本機能である「地図」と「検索」の部分にあると言っていいだろう。


◆iPhoneもカーナビに。TomTomも参入

Google Maps Navitgationは、あのGoogleが本格展開するカーナビサービスであり、しかも「無料」であることから注目を集めている。しかし、スマートフォンをカーナビとして利用する動きは今年に入って活性化しており、その一部はすでに日本でも利用できる。

その中でも、特に成長が著しいのがAppleの『iPhone』向けカーナビアプリだ。iPhoneシリーズはいま、世界各国で爆発的に普及しているスマートフォンであり、日本でも「今年上期だけで約70万台が出荷されている」(関係者)という。累計出荷台数は100万台を突破し、今年度中に200万台を突破するのはほぼ確実だ。

このiPhoneでもカーナビサービスは人気のカテゴリーであり、複数の会社が専用アプリを提供している。例えば、「全力案内!ナビ」(ユビークリンク)、「いつもNAVI」(ゼンリンデータコム)など国産アプリのほか、PNDメーカー最大手であるオランダのTomTom社も「TomTomアプリ」を発売。専用の車載接続キットも発売されるなど、iPhoneをカーナビとして使う動きは徐々に活発化しているのだ。

これらiPhone向けカーナビサービスも、価格は1年間の利用料込みで1000 - 3000円前後。かなり本格的なカーナビサービスを提供するTomTomでも、北米価格で99ドルだ。据え付け型カーナビはもちろん、一般的なPNDに比べても割安といえる。


◆無料・割安なスマートフォンナビが「第2のPND」に

近年のカーナビ市場では、据え付け型のハイエンドカーナビの販売数が伸び悩む一方で、PNDや安価なカーナビが伸びるという傾向が顕著だ。とりわけ市販カーナビ市場では高性能・多機能のハイエンドモデルはユーザーニーズを喚起できず、ニッチ化の道を邁進しているのが現状である。

そして、今回のGoogle Maps Navitgationをはじめとするスマートフォン向け「カーナビアプリ」の登場は、PNDの台頭以上にカーナビ市場の値下げ圧力になりそうだ。これらのカーナビアプリは無料もしくは安価なだけでなく、モバイル通信とサーバー連携によって、最新の地図とリアルタイムコンテンツ、そして高度な検索機能が利用できる。それでいてPNDや据え付け型カーナビを買うよりも圧倒的に安いのだ。今後、国内外でスマートフォンの普及率が高くなり、その上でGoogleナビなど無料もしくは安価なカーナビアプリが広がったら、その価格破壊力はPND以上になるだろう。

むろん、Googleナビなどスマートフォン向けカーナビアプリにも弱点はある。これらの優位性は“モバイル通信によるクラウド(サーバー)連携”にあるが、それは裏を返せば、“通信が使えない場所では本領発揮にならない”ことでもある。また、スマートフォンを端末として使うため、画面サイズは3.5 - 4インチ程度に留まり、クルマ側のセンサーや機能との連携は難しい。測位精度や各種運転支援機能などで見れば、自動車メーカー純正カーナビを筆頭とする“専用カーナビ”には及ばないのは確かだ。

だが、その一方で、クラウド(サーバー)連携をすれば、その機能や使い勝手は単体型カーナビを大きく上まわる。PNDより安く手軽に利用できて、クラウド連携による機能・サービスでは、ネットに繋がらない従来型カーナビを上まわる部分が出てくるのだ。これは既存カーナビの割高感を際立たせるのに十分な要因になるだろう。


◆「モバイル通信対応」「サーバー連携」が生き残りの鍵に

カーナビゲーションの今後を中長期的に考えれば、「カーナビ」は特定のハードウェアに依存する製品ではなく、サーバー連携・提供型の「ナビゲーションサービス」へとシフトしていくだろう。クルマに取り付けられるのは、ナビゲーションサービスを利用する端末、ということになる。そこで使われるのがスマートフォンなのか、それともPNDや据え付け型の専用機なのかは、ユーザーが好む利用スタイルとUIの問題になっていく。

そのような中で、カーナビメーカーのビジネスも変わっていかなければならない。誤解を恐れずにいえば、据え付け型カーナビやPNDも、「モバイル通信対応」と「サーバー連携」が必須になる。Googleナビのように高度なクラウドサービスを提供しないまでも、サーバー連携により、ドライバー支援やカーナビそのものの価値を向上するテレマティクスサービスが必要になる。通信非対応・テレマティクスに消極的なカーナビでは、Googleナビなどサーバ連携で無料・安価な"スマートフォンナビ"や、ホンダのインターナビやトヨタのG-BOOKなど通信対応カーナビに対して、基本機能やサービス進化のスピードでまったく歯が立たなくなるからだ。

幸いなことに、カーナビを「通信対応・サーバー連携」させる環境はここにきて整ってきている。

これまでカーナビの通信対応では“ユーザーの通信料金負担”が利用促進のハードルになっていたが、ウィルコムやソフトバンクモバイルが中心となり、カーナビ向け低料金プランが続々と登場。今年10月にはソフトバンクモバイルが、ユーザーが利用中のパケット定額サービスにプラス210円を支払えばカーナビ利用通信分も定額適用となる「カーナビプラン」を発表した。このようにカーナビをネットに繋ぐ手段は、急速に整ってきているのだ。

また、汎用的なテレマティクスプラットフォームを目指す「ナビポータル」の登場や、Yahoo! Japanなど大手ポータルサイトもクルマ向けのサービス展開に積極的になるなど、コンテンツプラットフォームの面でも環境は整い始めている。また、ナビタイム・ジャパンやユビークリンクのように、すでに携帯電話向けにサーバー提供型ナビゲーションサービスを展開しており、コンテンツやサービスの外販をしている事業者と提携する手もあるだろう。このように出荷台数の多い大手自動車メーカーの純正カーナビでなくても、通信対応・サーバー連携型カーナビは作りやすくなってきているのだ。

Googleのカーナビ市場本格参入は、TomTomやGARMINなど海外PNDメーカー台頭以上の「黒船」になる。これは間違いないだろう。しかし、周知のとおり、日本は世界初のカーナビを作った国であり、これまでカーナビ市場を力強く牽引してきた。ホンダのインターナビやナビタイムジャパンのNAVITIMEのように、いち早くモバイル通信とサーバー連携に着目し、世界をリードする革新的なサービスを作り上げているのも事実だ。これから始まるナビゲーションサービス時代にあわせてビジネスモデルやハードウェア/サービスを変えていけば、グローバル市場で十分に競争できると筆者は考えている。今後の動向を期待をもって見守りたい。

《神尾寿》

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