【井元康一郎のビフォーアフター】なにがエコなのかを考える2010年

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“石油脱却”はまだ早い

21世紀もはや2010年代に突入した。今日、石油一辺倒からの脱却という“100年に1度の変革”が始まっているクルマにとっても、新しいステージとなる10年だ。

もちろん変革には時間がかかる。10年といえば長いように感じられるかもしれないが、クルマにとってはフルモデルチェンジたったの2回分。10年でEVが道路交通の主役に躍り出ることはまずない。そればかりか、世界の乗用車の過半がハイブリッドカーになるということすら、ほとんど考えられない。

しかし、技術開発の世界では、この10年はとりわけ重要な意味を持つディケイドになる。クルマのエネルギーの多様化を実現するためのコアテクノロジーである電気関連技術をめぐっては、特に激しいバトルが予想される。また自動車、エネルギー、電機、化学その他、多くの業界で、強者同士の戦略提携から弱小企業の救済合併まで、様々な再編が巻き起こる可能性も高い。まさに目が離せない10年と言える。

◆COP15の二の舞とならぬよう産業と政府の交流が必要

1月5日、経済三団体(日本経団連、日本商工会議所、経済同友会)の賀詞交歓会が帝国ホテルで開かれた、その席上で、鳩山由紀夫首相は「多くの企業に負担がかかるが、世界に名だたる日本の企業の存在を示せる」と、温室効果ガスの排出量を1990年比で25%、2005年比で30%超削減するという政府目標を堅持する構えを見せた。

この政府目標は実情を踏まえれば荒唐無稽であることは各方面から指摘されているが、もともとアメリカや中国など、排出量の多い国がすべて削減枠組みに乗ってくることを前提条件にしていたものでもあった。COP15・気候変動防止コペンハーゲン会議が事実上何の成果も生み出すことができなかった今となっては、国際公約でない政府目標にすぎない。

2010年11月にはメキシコでCOP16が開催されるが、「世界情勢によほどの重大な変化が起きない限り、COP15の二の舞となることは火を見るより明らか」(経済産業省関係者)。ここで改めて妙な約束を世界に向かってしないよう、各産業は今度こそ政府としっかりコミュニケーションを取らなければならない。

一方で、出来なかったときのペナルティがない政府目標としては、およそ実現不能な温室効果ガス1990年比25%削減という数字は、悪いものとばかりも言い切れない。

◆2010年は環境関連技術に注目

世の中の技術革新は、今あるものをベースに改善していくというやり方と、実現性を無視した理想的な目標を最初に掲げ、それをどうやったら実現できるかをゼロベースで考えるというやり方の2つがある。

世界では今日、ワークデザイン法と呼ばれる後者の手法が流行している。

オバマ政権の途方もない脱石油プロジェクトであるグリーンニューディールもそのひとつだ。このワークデザインは実際の社会では諸刃の剣で、現実から目をそむけてしまって致命的な失敗につながることもよくある。が、石油依存からの脱却のように、実現が果てしなく困難な課題に立ち向かうのにはなかなか使えるシステムである。

日本は風土的に、みんなで物を考えたり、日々の経験から斬新な着想を得たりするのは非常に得意だが、今まで積み上げてきたものを無にしかねないような劇的な変化に対しては拒絶反応を示すという特色がある。第二次世界大戦で国をほぼゼロベースで作り直すことになり、それがいかに大変なことであったかが文化の骨身にしみているからかもしれない。 

日本人は積み上げ法で環境技術含め、様々な素晴らしいものを作り上げてきた実績を持っており、その得意技を捨てる必要性はない。が、脱石油は、クルマ分野に限ってみても、単独で成し遂げられるわけではない。クルマの性能向上やEV、プラグインハイブリッドへの給電インフラ整備ができればいいというものではない。発電や送電をどう変えるのか、再生可能エネルギーをどう導入していくのか、水素エネルギーをどう活用するのかといった、社会のグランドデザインをゼロベースで組み立てなおすという発想は大事だ。

国際公約でない限りは、鳩山首相の25%削減をそう嫌う必要はない。ゼロベースで物事を考えるという“苦手科目”のトレーニング代わりと考えればいいのだ。また、ゼロベースの発想を常に持っていないと、仮にNAFTA、EU、中国などがゼロベースで効率的な社会作りを行うことに万が一成功した場合、トレンドに乗り遅れてしまう恐れもある。

2010年はそれこそ、資源・エネルギーをはじめ、環境関連技術が各方面から続々と発表される1年となるだろう。が、スタンドアロンのテクノロジーの素晴らしさだけでは世の中は作れない。

電力はもちろん、水素、バイオマスなどの新エネルギーを社会に導入する方法をトータルで考えつつ、一方で相当に高価になっても結局は石油エネルギーを使うことが、トータルで最もエコであるという可能性も残っていることを念頭に、社会のデザインを考えていくことが求められる。そうした取り組みもまた、2010年の注目点と言えるだろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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