【池原照雄の単眼複眼】トヨタのリコール、「安全」と「品質」は弱体化したのか

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台数が本質を見えづらくする

アクセルペダルの不具合によるトヨタ自動車の大量リコール問題は、顧客の獲得が進めば進むほどリスクも膨らむという大量生産型産業の課題を改めて突きつけることとなった。

リコール台数の多さに圧倒されると、問題の本質が見えづらくなるが、要は当該企業の「安全」への対応と「品質」への方針が弱体化しているかどうかだ。その点、今回のトヨタのケースは同社の持続的な成長を損なうような、根の深い問題は抱えていないと見ている。

まず、安全への対応についてだが、リコールは本来、顧客の安全確保のための自主的・積極的なアプローチだ。もっとも、その対象台数が増えれば顧客の不安を増幅し、当該ブランドの信頼性にも影響を与えるというジレンマがある。しかし、安全にかかわる不具合を放置したことが露見した時のダメージがいかに大きいかは、これまでの事例で証明されている。

リコールの発生は少ないにこしたことはないが、その数字が膨れても、筆者は当該企業のガバナンスの健全さの現れとの視点ももつことにしている。日本メーカーの場合、リコールの決定は品質保証部門が、他部門から独立して下す仕組みを採用している。

◆設計ミスはなぜ起きた

ビジネスの要素が加わると、決定を歪める可能性が高まるからだ。トヨタの場合は「品質保証本部」が決定権をもち、ここでの決定は取締役会などに諮ることもないという。ただ、今回のリコールは対策の策定以前に、リコールの実施そのものを最優先して当局に届け出たため、対策が決まるまで情報が発信できず、混乱につながった。難しいところだが、そこは課題だろう。

一方の「品質」への方針。今回のリコールについて、トヨタは部品メーカーに問題はなく自社の「設計ミス」と認めている。ミスは防がなければならないが、今回のケースは品質を軽視するような体質から出たミスとは思えない。

230万台をリコールした米国の場合、クレームは十数件で、幸い事故につながったケースはない。不具合は、部品と部品がこすれ合ってそれぞれの部品が鏡面状態になり、そこに暖房などによる結露の水分が入り込んで、ペダルが動きにくくなるというものだ。ガラスを2枚重ね、間に水に挟むと動きにくくなる状態である。

クルマを使う地域の気象条件に左右されるのか、この部分への結露の発生自体は極めて少ない。果たして、それでも結露の発生と不具合の可能性を予見し得なかった設計者に問題があると責めることができるだろうか。

◆部品共通化などに反省点が

今回のリコールにトヨタとの合弁生産車であるポンティアック『ヴァイブ』約9万9000台が含まれるGM(ゼネラルモーターズ)のリコール発表文(1月29日付)に、興味深い一文があった。今回の不具合は「GMの経験をもとにすると、(リコール対象の)ヴァイブは安全に運転できる」というものだ。

「大丈夫だけど、トヨタの方針に従ってウチもやります」というニュアンスだ。そんな会社が、トヨタ車を狙い打ちにした販売キャンペーンをやるのだから、開いた口が塞がらない。巨大メーカーにとって、ライバルのリコールは「明日はわが身」のはずなのに。

もちろん、今回のリコールはトヨタにとって多くの反省点を残した。原価低減に直結する部品の共通化をどこまで進めるかという古くからのテーマもそのひとつ。とくにアクセルのような重要保安部品については原低効果と不具合発生時のリスク分散を勘案した共通化の「適正値」があるはずだ。

《池原照雄》

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