スズキが初めて手がけたDセグ車ということで、その実力のほどが大いに気になるところだが、概ねよくできているというのが率直な第一印象だ。
数年前ならいざ知らず、今のスズキにとって「スズキとしてはレベルが高い」というのは失礼だろう。今のスズキで最初からこのレベルのクルマが出てきても何ら不思議はない。このまま欧州勢とも十分に渡り合えると思う。
ただし、このクルマに対しては、よくできているという反面、もう少し煮詰められているべきという両方の思いがあり、細かい話もないわけではない。
ひとつは静粛性で、パワートレイン系の振動、ノイズのキャビンへの侵入は、もう少し抑えられているほうがいい。
フットワーク面では、ステアリングフィールはいまひとつスッキリしないし、足まわりのフラット感は高いのだが、ややつっぱった印象もある。もう少し素直にストロークしてくれたほうが、乗り心地もよくなるし、ロールなど一連の動きも自然になるはずだ。
タイヤの空気圧も、燃費向上の要件は外せないだろうが、4WDで1560kgという車重で4輪とも2.6Kというのは少々高いように思うし、ハンドルの切れ角ももう少し欲しい。内外装の質感についても、ずいぶんがんばったという見方もできれば、もう一歩という印象もある。
また、たとえば『アテンザ』や『レガシィ』、『ティアナ』らと比べたときのアドバンテージは何かと訊かれたときに、明快に即答できないのも現実だろう。「キザシだからこそ」「キザシならでは」という部分が見えてこないのだ。
ただし、300万円を切る車両価格で、安全装備や快適装備がほぼフルに標準で付く装備の充実ぶりは特筆できる。それがこのクルマの本質ではないし、そこを評価しても始まらないクルマかもしれないが、その点では買い得感のあるクルマには違いない。
また、ワゴンモデルやV6エンジンなど将来的な展開が不透明となり、このモデルも日本では受注生産となるなど、せっかくもともと崇高な目標を掲げたプロジェクトが、事情はいろいろあるのだろうが、現時点ではいささか中途半端になっているのが惜しいところだ。時代が好転し、スズキのチャレンジ精神が勢いを取り戻すことを期待したい。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
岡本幸一郎|モータージャーナリスト
1968年富山県生まれ。学習院大学卒業後、自動車メディアの世界へ。自動車情報ビデオマガジン、自動車専門誌の記者を経て、フリーランスとして活動を開始。最新モデルからヒストリックカー、カスタマイズ事情からモータースポーツ、軽自動車から輸入高級車まで、幅広い守備範囲を自負する。現在は WEB媒体を中心に執筆中。「プロのクルマ好き」としての見地から、読者にとって役に立つ情報を提供できるよう心がけている。