【神尾寿のアンプラグド試乗編】“ほぼEV社会”は近い!? プリウスPHV の実力を見る

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プリウスPHV
プリウスPHV 全 6 枚 拡大写真

自動車業界における、今年の注目キーワードのひとつが「EV(電気自動車)」だ。昨年、三菱自動車が発売した『i-MiEV』の一般向け販売が本格化し、日産自動車もEV『リーフ』を今年後半に発売する。

国内では、EV向けの充電設備設置を発表する事業者が相次いでおり、昨年のハイブリッドカーブームに続いて、一般メディアではEVが脚光を浴びる機会が増えている。

しかし、EVが本格的に一般普及するには、充電インフラの整備はもちろんのこと、「航続距離の短さ」や「充電時間の長さ」などシステム的な課題も少なくない。すでに普及しているクルマのように使うには、技術や運用面で解決しなければならないハードルが残されているのがEVの現状である。

そのような中で、すでに実用化・一般普及段階にあるハイブリッドカーを改良し、短距離利用であればEVのように使える「プラグイン・ハイブリッドカー(PHV)」への期待が高まっている。すでにトヨタ自動車が、3代目プリウスをベースにした「プリウス・プラグインハイブリッド」を試験的に販売。日米欧で特定顧客向けに600台を出荷し、2011年には一般販売も開始するという。

筆者はこのプリウス・プラグインハイブリッドに試乗する機会を得た。そこで今回は、同車の試乗レポートを踏まえながら、プラグインハイブリッドの可能性について考えてみたい。

◆PHVは、EVとHVのいいとこ取り

周知のとおり、EVの最大の弱点は「航続距離の短さ」である。

電気を貯蔵する電池は、保存できるエネルギー密度の量がガソリンの50分の1しかない。そのためガソリン車並みに航続距離を伸ばすには搭載する電池を大きくするしかないのだが、大型電池を積むとクルマの総重量が増えて、エネルギー利用効率や運動性能が悪くなってしまう。EVの利用形態が近距離用途で、なおかつ街中に多数の充電インフラが必要とされているのは、このためである。

PHVは、この「EVの弱点」を現実的なアプローチで解消する。従来のハイブリッドカー(HV)より大型の電池を搭載して“EVモードの走行距離”を伸ばす一方で、ガソリンエンジンとのハイブリッド機構も搭載しているため、電池切れで走れなくなる心配はない。クルマとして、エネルギー利用効率と運動性能を鑑みながら、搭載する電池のサイズを決められるのだ。しかもPHVの電池は家庭用電源や急速充電器から充電できるので、EVモード中心で走れば、“ほぼEV”として利用できる。EVのように完全な排出ガスゼロは見込めないが、航続距離など使い勝手の面で無理がなく、クルマのバランス設計でも無理をしなくていいのが、PHVの特長と言える。

むろん、PHVがすべてにおいてEVに勝るわけではない。PHVはEVより機構が複雑であり、将来的な低コスト化が難しい。また制御システムも複雑であり、EVに比べると、PHVの製造が可能なメーカーは限られるだろう。モーターとバッテリーをモジュール化し、水平分業型のメーカービジネスモデルを構築するのも、PHVでは難しいと言える。

前置きが長くなったが、ここでプリウス・プラグインハイブリッドの概要を紹介しよう。

プリウス・プラグインハイブリッドは3代目プリウスの「Sグレード」をベースに、外部電源から充電するプラグイン機構を搭載。バッテリーを従来よりエネルギー密度の高いリチウムイオン電池に変更したものだ。モーターと、エンジンやハイブリッド機構そのものは3代目プリウスから変更されていない。充電系装備とバッテリー、制御ソフトウェアの変更のみでPHV化されたプリウスである。

フル充電状態でのEV航続可能距離は23.4km(JC08モード準拠で測定)。EVモードでの最高速度は100km/hである。

EVモードの航続距離である23.4kmは、多くのEV専用車が航続距離として掲げる160km前後からすると短く感じる。しかし、国土交通省の調査資料によると、乗用車1日あたりの走行距離分布では、航続距離20kmまでで平日利用の53.7%、休日利用でも51.2%のニーズがカバーできる。実感覚としていえば、多くのユーザーが“ほぼEV”的な利用ができる計算だ。

また、もうひとつ気になるところが、環境性能(エコロジー)と経済性(エコノミー)だろう。プリウスプラグインハイブリッドは、プリウス同クラスのガソリン車に比べて約62%のCO2が削減可能であり(電力製造時排出分を含む)、30km走行時のランニングコストでは、通常電力での充電でマイナス58%、深夜電力を併用すればマイナス77%のコスト削減になる。

こうして見ると、劇的な環境性能・経済性能を持っているように感じるが、3代目プリウスと比較すると、その向上幅はささやかだ。現行プリウスは、同クラスガソリン車と比較してのCO2削減率が約55%、30km走行時のランニングコスト削減率が約53%。プリウス・プラグインハイブリッドとの削減率の差は、CO2排出量で7%、コストで最大24%(深夜電力契約・深夜電力利用)である。プリウスと比べると「プラグイン化しても思ったほど数値が伸びないな」と感じるが、これは3代目プリウスの環境・経済性での基本性能がそれだけ高いことの証左とも言えるだろう。

◆都内での試乗では「ほぼEV」

今回の試乗コースは、水道橋のトヨタ自動車東京本社から、お台場地区のテーマパーク「MEGA WEB」までの往復で行われた。ルートにもよるが、距離は片道15kmほどで、プリウス・プラグインハイブリッドの基本スペックであれば、「片道ならば、すべてEVモードで行くことも可能」(トヨタ自動車)な範囲だ。また、MEGA WEBで急速充電が行われるので、帰りもEV主体で走ることができる。

トヨタ自動車の地下駐車場で受け取ったプリウス・プラグインハイブリッドは、当たり前ではあるが、外見は3代目プリウスにそっくりだ。違いは左前に設けられた充電ソケット(充電インレット)で、ここに外部電源につながった充電ケーブルがつながっている。

充電ケーブルを外してクルマに乗り込み、スタートボタンを押す。エコドライブモニターのUIは、3代目プリウスとほぼ同じであるが、エネルギーモニターのバッテリーアイコンの横には「EV走行可能距離」が加えられている。フル充電なので、走行可能距離23.4kmと表示されていた。

プリウス・プラグインハイブリッドの走りは、3代目プリウスの「EVモード」そのものだ。アクセルを踏めばスルスルと動きだし、スムーズに加速していく。それもそのはずで、同車のモーターやハイブリッドシステムは3代目プリウスのものを使っている。走らせた感覚は、まったくの「プリウスの走り」である。

一方で、両者の違いが現れるのは、60km/hを超えてから。プリウス・プラグインハイブリッドでは100km/hまでEVモードで走れるため、首都高速に入って制限速度にあわせて流れに乗っても、エンジンはかからない。開発者によると「加速時など必要な出力がモーターだけだと不足すると判断すれば、(システム側が)100km/h未満でもエンジンはかかる」とのことだが、筆者が空いている首都高を走ったかぎりでは、一度としてエンジンはかからなかった。

プリウスなどハイブリッドカーに慣れると、急加速・急減速を避けてスムーズな運転をするクセが身につくが、そういったスムーズな運転すれば、100km/h未満でエンジンがかかることはほとんどなさそうだ。また、フル充電からEVモードのみで走っていても、バッテリーがみるみる減っていくという感じはなかった。都内の走行パターンだと回生ブレーキによるエネルギー回収も積極的に行われるため、EV走行の目安である航続距離23.4km以上に走れるケースもありそうだ。

結果として、筆者がお台場に到着したときのEV走行比率は100%。燃費は99.9km(エンジンを一切使わなかったので)というスコアを叩きだした。これは別に筆者が過度にエコドライブをしたわけではない。プリウスに慣れたオーナーならば、おそらく似たような結果になっただろう。その点でプリウス・プラグインハイブリッドは、極めて完成度が高い。プリウスをちょっと改良しただけで、ここまで“ほぼEV”なクルマになってしまうというのは、あらためて驚きである。

また、プリウス・プラグインハイブリッドの「EVモード」以外のところに目を向けると、高速走行時の安定性や静粛性、完成度の高いブレーキシステムなども高く評価できる。これはベースとなった3代目プリウスで大きく進化したメリットを継承したからであるが、三菱のi-MiEVなどEV専用車と比べると、“普通のクルマ”としてみて完成度が高い。また各種安全装備が充実している点も忘れてはならないポイントだろう。プリウス・プラグインハイブリッドは、無理にクルマの利用スタイルを変えなくても、特に不自由なく、日常的な利用シーンではEVっぽく使うことができるのだ。

◆PHVは家庭での充電が前提

水道橋からお台場まで、EVモードオンリーで走りきってMEGA WEBへ。ここで充電を行うのだが、1時間ほどの休憩時間では「満充電は難しい」(トヨタ自動車)とのこと。充電ケーブルを接続すると、エネルギーモニターに充電完了までの残り時間が表示されるのだが、残り2割程度のバッテリー状態で、充電完了予測時間は1.9時間だった。もともと昼間にEVモード主体で使い、夜に自宅で(深夜電力で)ゆっくり充電するという利用シーンを想定しているため、外出先で急速充電することはあまり考えられていないという。

「PHVの強みは、バッテリー切れがエネルギー切れで走れない、ということではないこと。電池のサイズも無理のない範囲に抑えていますし、利用シーンでも無理して充電スタンドの利用を考えなくていいようにしてあります」(トヨタ自動車 商品開発本部 トヨタ第2乗用車センター製品企画主査の田中義和氏)

あくまで主体は“家庭での充電”ということだ。なお、プリウス・プラグインハイブリッドでは回生ブレーキからの充電もできるが、そもそも外部電源からの充電を想定しているので、回生ブレーキだけで十分な充電をするのは難しい。しかし、「バッテリー系の大容量化が図られた結果、充電効率そのものは3代目プリウスよりも向上している」(田中氏)という。

さて、MEGA WEBでの休憩後にクルマに戻ると、充電ができた量は全体の7割弱程度。そのため水道橋までの復路はEVモードのみというわけにはいかず、全体走行の4%ほどはガソリンエンジンを使ってしまった。しかし、往復で約30kmのほとんどのEVモードのみで走れたことは、十分に評価に値するだろう。

◆PHVの課題は「家庭内の充電環境整備」

プリウス プラグインハイブリッドは現段階でかなり高い完成度を誇っており、価格の高さを抜きにすれば、今すぐ一般販売しても十分に通用するクオリティだった。筆者の率直な感想では、3代目プリウスに50万 - 80万円程度のプラスαであれば、“ほぼEV”として乗れる点を鑑みても魅力的だ。EV専用車のように、街中の充電スタンド整備を待たなくても安心して乗れるため、販売価格次第で、すぐにでも一般普及が狙えるクルマだと思う。

しかし、筆者はたとえその価格で市販されても、プリウスプラグインハイブリッドを買わない。というか、買えない。なぜなら、自宅マンションに「充電に必要な電源」がないからだ。

これはPHVに限った話ではないが、ガレージ付きの一戸建て住宅でもないと、駐車場に充電用コンセントはない。分譲・賃貸マンションの敷地内駐車場や、屋外の一般駐車場にクルマを駐車している人は少なくない。そこに充電環境がなければ、PHVやEVが欲しくても買えないのだ。

むろん、この課題は、自動車メーカーではなく、まずは不動産開発業者やマンションオーナーが考えるべきものではある。プリウスプラグインハイブリッドの完成度の高さを鑑みれば、PHVは利用環境さえ整えば、一般ユーザーにとって「現実的な選択肢」になり得る。マンション側でもそういった新時代にむけて、“駐車場充電設備”を整備し、物件の付加価値にするべきだろう。しかし、その一方で、PHVやEVを作る自動車メーカーにも、ひとつの事業として駐車場への充電環境の整備を真剣に取り組んでもらいたいとも思うのだ。自動車メーカー単独で駐車場整備に乗り出せないのならば、パーク24など駐車場管理事業者と提携して、マンションなど大規模集合住宅の駐車場整備・管理ビジネスに進出するという手もある。今後、PHVやEVを作るメーカーは、充電設備を普及させる事業を戦略的に行うことも視野に入れていくべきではないだろうか。

PHVやEVなど“インフラにつながるクルマ”は、クルマそのものの完成度を高めるだけでなく、その利用環境を整えることも重要になる。今回のプリウスプラグインハイブリッドの完成度が高かっただけに、トヨタにはぜひ、PHVの利用環境整備も含めた普及戦略を考えてもらいたい。

《神尾寿》

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