【人とくるまのテクノロジー10】エンジン開発支援ツールの進化がもたらす恩恵…AVL

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AVLジャパン 岡田尚己社長
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AVLリスト・ゲゼルシャフトは、パワートレイン開発のためのソリューション提供や、エンジン開発受託などを幅広く行っている。とくに開発ソフトウェアが有名で、すでに世界で幅広く使われており、日本でもF1エンジン開発などでは必須とされてきた。

今回出展された「The True Efficiencyコンセプト」は、シミュレーション、設計、計測など多くのソフトを統合した進化形。この種の高度な開発支援システムが登場すれば、クルマの効率化技術のコモディティ化が一気に進む可能性がある。

「これまで、例えば吸気ダクトの形状一つとっても、各メーカーがいろいろな形状のものを無数に作ってはテストを繰り返して、いいものを編み出してきました。私たちAVLが目指しているのは、そういうテストを大幅に簡略化することです。ダクトの形状をどのように変えれば、エンジン内部での燃焼やポンピングロスがどう変化するかということをシミュレーションできますし、また膨大なパラメーター値の中から試すこと自体が無意味と思われるパターンを統計学的手法で最初から排除することで、さらに開発の高速化を図ることができるのです」

これまで、シリンダー内の燃焼をどれだけ素晴らしくするか、エンジンや車両のフリクションをどうやって減らすかといった効率化を果たすうえでモノを言ってきたのは、長年にわたって技術開発、実験、生産などを通じて得てきたノウハウだった。膨大な費用と人員、工数がかかる試作、実験が効率化される恩恵を最大限に受けるのは、新興国メーカーだろう。もちろん、開発支援ソフトを使ったところで、元のアイデアを出すのは人間であるため、先進国メーカーのノウハウがすぐさまキャッチアップされるわけではないが、先進国メーカーに近い性能のエンジンや電気駆動システムを作り出すための手間が大幅に省けることは間違いのないところだ。

一方、欧米メーカーもF1のみならず、市販車やEVなどについてAVLのシステムを使うケースが増えている。内燃機関開発の世界では今、ガソリン、ディーゼルとも、ターボを使ったダウンサイジング(排気量縮小によるエネルギー損失削減)、次世代吸排気制御システムの採用、摩擦損失のさらなる低減など、新技術が続々と出てきている。

内燃機関の効率向上の最先端競争については、今後10 - 15年程度が事実上“最後の挑戦”となるものとみられている。ロードマップが見えているものについては、各メーカーともさっさと終わらせたいところで、開発高速化のために支援ツールを続々導入しているのだ。

こうしたデジタル開発支援ツールの進化が世界の自動車産業の勢力図をどのように変えていくか、興味深いところである。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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