オーストリアのパワートレイン・エンジニアリング会社AVLは、F1エンジン開発支援からE-REV(発電用エンジンを備えたレンジエクステンダーEV)を含めた市販車のパワートレイン開発受託まで、幅広いエンジンビジネスを展開している。人とくるまのテクノロジー展で、来日したヘルムート・リスト会長が、今後のクルマのパワートレインのトレンドについて語った。
「次世代のパワートレインに関するロードマップは非常に明確です。将来的にはレンジエクステンダーやピュアEVなど、電気エネルギーにシフトしていきますが、それにはかなり長い時間がかかります。内燃機関は今後も長い間、使われ続けることになりますが、今後、そのエンジンをめぐってエネルギー効率向上の技術革新が起こるでしょう」
「ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンとも、トレンドは大きく変わりません。エンジンの内部損失を減らすことで、25%の効率向上が見込めると考えています。その中で非常に重要な項目となるのは、フリクションロス(摩擦損失)の低減。また、シリンダー内の燃焼も、改善の余地が多い分野です。これらについては、コンピュータ設計技術をうまく使うことが実現のカギになります。排熱ロスについては、排気熱を電気エネルギーに変えるコンバーターを付けることで、6 - 7%ほど効率を上乗せできるでしょう」
フリクションロス低減で今日、注目されているものとしては、小さい排気量のエンジンをターボチャージャーやスーパーチャージャーで過給する、いわゆる「ダウンサイザー」、そしてエンジンのピーク性能への依存度を減らせる「ハイブリッド」があげられる。
「ハイブリッドとダウンサイジングは、これからも非常に重要な技術になります。15 - 20%程度、効率を上げるのに役に立ちます。今日、こうした技術はすでに登場していますが、今後は単にダウンサイジングをするのではなく、人間のフィーリングの研究もすべきです。たとえば小さな出力でもユーザーがそれを十分なものと感じられるようなパワーの出し方を実現させられれば、より小さなエンジンですむようになる」
一方、マスメディアがさかんに取り上げられているEVについては、バッテリーコストの制約から、本格的に普及するのは先のことと見ている。
「EVの普及は、世界各国におけるインセンティブを考慮してもなお、当面限定的なものになると思う。ただ、バッテリー搭載量の少ないレンジエクステンダーEVについては、比較的早期に普及が始まる可能性が高い。特に欧州では、早い段階で飛躍的に台数が増えると思っています」
日欧米でCO2排出規制が格段に厳しくなりつつある昨今、パワートレインの将来技術に関心が集まっているが、一般ユーザー向けの技術はあくまでアフォーダブルなコストを実現できて、初めて普及段階に進むことができる。そのトレンドは今後も注目に値する。