【D視点】普段着のスーパーカー…R8 5.2FSIクワトロ

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R8 5.2FSIクワトロ
R8 5.2FSIクワトロ 全 14 枚 拡大写真
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 威張るために登場?

2シーター・ミッドシップ・スポーツカーのアウディ『R8』の高性能仕様、「R8 5.2FSIクワトロ」。目玉はV10エンジン搭載で、クルマの性格がコンセプトカー『ルマンクワトロ』に近くなり、従来型R8ファンのブーイングも無くなっただろう。

「R8 4.2FSIクワトロ」に対して、全長が10mm、全幅が25mm、そして車両重量は125 kg増えた。ボディサイズは長4445mm×全幅1930mm×全高1250mmとなり、5.2リットルV10気筒エンジンは525馬力を発揮する。車両重量は1690kgで 、車両価額は1994万円からとなっている。

前後の部品の大胆なグラフィックスで見た目の印象は力強くなったが、2シーター・ミッドシップカーの典型ともいえるデザインは相変わらず地味だ。また、街乗りをする限り、2ペダルMTや軽いブレーキなど、アウディの量販車と同じフィーリングで安心して運転できる。

“普通”をチャームポイントと見るならば、前後のデザインやサイドブレードが大人しい4.2FSIクワトロの方が、リーズナブルで魅力的といえる。いっぽう、スーパーカーと肩を並べたい顧客に用意した大馬力仕様が、5.2FSIクワトロだ。


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 豊かさを満喫する先進市場

スーパーカーを、所有できないが故に特別のクルマとして夢を膨らます人がいれば、庶民の憧れを所有して優越感に浸るために、スーパーカーを購入する人もいる。しかし、単に高性能、高品質なクルマとしてスーパーカーを購入するのが、豊かさに慣れたインテリ層であろう。

アウディの量販車と同じフィーリングで運転できることや、目立たないデザインもここまで徹すると、R8の個性であると認めざるを得ない。このクラスではエンジンを選択出来るのは珍しいが、量販車の顧客に馴染んだ木目細かいサービスとして納得がいく。

R8は、アウディのラインアップ最上位に位置するイメージリーダーカーなので、アウディ車の仲間であることを示す必要がある。シングルフレームの大きな顔だけではなく、高性能でもスーパーカーであることを主張しない地味なデザインも、商品戦略の一環と捕らえるのが正しい。

ブランド製品を追い求めるだけではなく、真に良いものを購入する傾向は、豊かさを満喫した先進市場の特徴だ。庶民が想像する夢のスーパーカーとは一味違った、親近感のもてる普段着のスーパーカーの誕生も、このような傾向の現われと見れば、存在価値の大きいことが分かる。


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 新技術はノーブランドの武器

ファッションブランドの「プラダ」は、1913年創業の伝統のある皮革製品店で、富裕層に人気が高かった。創業者の死後、ブランド凋落を招いたが、78年に創業者の孫娘が、パラシュートの素材を使用した旅行用の鞄を開発し、プレミアムブランドを再興した話は有名だ。

キラ星のような輝かしい実績や、歴史を持つ先達のスーパーカーに対抗して、新参者アウディR8にも、プラダ神話との共通性を感じる。具体的には、アウディ「R8レーシングカー」のレースで培った高性能のDNAを継承することにより、新技術でプレミアムブランド市場に登場した点だ。

ルマン24時間耐久レースで5勝を挙げ、世界各国で行われた耐久レースで62勝を誇るアウディR8レーシングカーの技術には説得力もある。実際、「FSIガソリン直噴高回転型エンジン」の技術がR8に生かされたと伝えられている。

デザインについてもR8レーシングカーのデザインチームが担当した。R8レーシングカーが主役の技術やデザイン展開のドラマからは、単なるイメージリーダーカーを越えるための、入念な筋書きを感じる。ルマン24時間耐久レースに先立って、R8誕生の計画があったとさえ考えられる……。


D視点:
デザインの視点
筆者:松井孝晏(まつい・たかやす)---デザインジャーナリスト。元日産自動車。「ケンメリ」、「ジャパン」など『スカイライン』のデザインや、社会現象となった『Be-1』、2代目『マーチ』のプロデュースを担当した。東京造形大学教授を経てSTUDIO MATSUI主宰。【D視点】連載を1冊にまとめた『2007【D視点】2003 カーデザインの視点』を上梓した。

《松井孝晏》

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