大矢アキオ『喰いすぎ注意』…サルコジ御用達パンと韓国製ルノー

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ラティテュード
ラティテュード 全 11 枚 拡大写真
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 15区のブーランジェリー

ルノーの新世代フラッグシップ『ラティテュード』。ボクは、このラティテュードに今日のフランスパンを重ねて考えてしまう。そのワケは……。

ラティテュードはパリモーターショーにも展示されていたが、モーターショーが開催される「パルク・デゼクスポジシォン」がある15区は、ちょっと奥に入れば庶民感覚に溢れている。常に財布の中身がケブラー級にライトウェイトなボクが滞在するのに嬉しいエリアだ。

【画像全11枚】

その15区に1軒のブーランジェリー、つまりパン屋さんがある。名前を「グルニエ・ド・フォレックス」という。「フォレックス(・フォール)通りの屋根裏」という意味である。ただし、店舗は1階の、それも角地にある。そして外からもパン生地を捏ねているところを眺められるようになっている。日本のうどん屋さんのイメージである。

セーヌ左岸のどこにでもあるようなパン屋さんの店構えなのだが、ショーウィンドーにこんな文字が輝いていた。「伝統バゲット・グランプリ 2009第1位」。めでたいことらしい。


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 職人の仕事が伝わる

店に入ってみると、バゲットを求める人が次から次へとやってきて、店員さんも小気味良いリズムで対応している。やがてボクの番になったので、例の文字を指しながら、とりあえず「おめでとう!」と言ったら、店員のお姉さんから「Merci!」と、元気な言葉が返ってきた。

ところで、「伝統バゲット・グランプリ」って? 後日知ったことも加えて記すと、「伝統バゲット・グランプリ」は、毎年春先にパリ市によって開催されるイベントだ。2010年には第17回を迎えた。

市内のパン屋さんがつくるバゲットを審査員が評価し、トップ10を決める。1位、つまり優勝者となった店は1年間、大統領府であるエリゼー宮に毎日15〜20本のバゲットを納品できるという名誉が与えられる。つまり、サルコジ大統領に食べてもらえる、というわけだ。

15年イタリアに住んでいても、イタリアの無味なパンにだけは慣れないボクゆえ、フランスパンのイベントとは。聞いただけで羨ましい。カー・オブ・ザ・イヤーの審査員には関心ないボクだが、この「伝統バゲット・グランプリ」の審査員にはいつか選ばれたい。と思ったら、テイスティングするバゲットの数は、160以上に及ぶという。かなりハードな仕事であろう。

さて、時計を見ると昼が近かったので、ボクは奮発してチキンと卵入りを選んでみた。そして貸しアパルトマンの部屋に戻って、さっそく頬張ってみる。バゲット表面の堅さと、内部のやわらかさ、そして、きめ細かさの度合いのバランスが絶妙だ。バネ上重量とバネ下重量がよくチューニングされたクルマのごとくである。職人の仕事を感じた。サルコジ大統領は、毎朝こんなにうまいパンを女房のカーラと一緒に食べてたのか。


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 コストカッターの時代

しかしブーランジェリーといえば、いっぽうでこんな現実もある。近年パリのブーランジェリーで、ボクが「うまい!」と思った店に、翌年もういちど行ってみると、閉店してしまっていた、なんていうことが幾度かあった。

背景には、年々厳しくなる小さなブーランジェリーの経営がある。フランスの求職サイト「ジョブアントレ」は、「朝早くから仕込みをし、休・祝日も営業しなければならないことから、後継者不足が起きている」とブーランジェリーの人材不足を指摘する。

同時にボクが察するに、大型チェーンによるパン販売が増えたこともある。ふたたび「ジョブアントレ」によれば、フランス国内でパン製造従事者は今や、主に自営職人が3万3000人に過ぎないのに対して、従業員として働いている人は11万人に達するという。

たとえ味はそこそこでも、より手頃なチェーンのパンを選んでしまうフランス人たちが増えていることが窺える。マーケットは確実に変化しているのだ。

そこで話は冒頭のルノー・ラティテュードに戻る。メーカー自身はそう称していないものの、ラティテュードは2009年末をもって生産終了した『ヴェルサティス』の後継車である。

ヴェルサティスは2001年に、パトリック・ルケマン率いるルノー・デザインの、いわばシンボル的存在として登場した。インテリアの木目パネルひとつとっても、なにやらデザイナーズホテル風で、そのモダーンさはドイツ車と一線を画していた。

世界のテレビを通じてヴェルサティスがその姿を映し出されたのは、2007年のフランス大統領選だろう。サルコジ現大統領は選挙期間中も、当選直後にパパラッチに追いかけながら移動するときも、ヴェルサティスを使用していたからだ。

しかし、実際の市場では、強固なブランドイメージを確立していたドイツ車を前に、ヴェルサティスは惨敗だった。モデル最終年である2009年の生産台数は、僅か1162台にとどまった。

いっぽう、新しいラティテュードは、韓国ルノー-サムスン・モータースにおける既存のミドルクラス車種『SM5』をベースとしたものだ。そのSM5は、ルノー・ラグーナと同じDプラットフォームを使用している。

外観・インテリアとも、ヴェルサティスに比べて、よくいえばインターナショナルだが、別の言葉でいえば、より無国籍になった。西ヨーロッパで販売される仕様は、既発売のミニSUV『コレオス』同様、ルノー-サムスンの工場で生産したものを輸入する。コストカッターの別名をもつ、カルロス・ゴーン率いる今日のルノーらしいプロジェクトである。

フランチの粋をぷんぷんと匂わせていたヴォルサティスが職人の勝負バゲットなら、ラティテュードはコスト意識を高め、味も万人好みを狙ったチェーン店のバゲットである。ここ10年でドイツ車に流れてしまったフランス人が、この新世代ルノー高級車にどのくらい関心をもつだろうか。

しかしながら、もうひとつ気になることがある。国産3ブランドを満遍なく使うのが今日のフランス大統領府だ。ということは、このままだと、いつかラティテュードも大統領専用車になる。初の国外工場製フランス大統領車誕生を、まもなく見ることができるかもしれない。バゲットしかり、クルマしかり。フランスは変化の只中にいる。


喰いすぎ注意
筆者:大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)---コラムニスト。国立音楽大学卒。二玄社『SUPER CG』記者を経て、96年からシエナ在住。イタリアに対するユニークな視点と親しみやすい筆致に、老若男女犬猫問わずファンがいる。NHK『ラジオ深夜便』のレポーターをはじめ、ラジオ・テレビでも活躍中。主な著書に『カンティーナを巡る冒険旅行』、『幸せのイタリア料理!』(以上光人社)、『Hotするイタリア』(二玄社)、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)がある。

《大矢アキオ Akio Lorenzo OYA》

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