【池原照雄の単眼複眼】日野が今、国内新工場を立ち上げる狙いとは

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日野は1月20日、中大型トラックの生産拠点を日野工場から茨城県に建設する新工場に移管すると発表した
日野は1月20日、中大型トラックの生産拠点を日野工場から茨城県に建設する新工場に移管すると発表した 全 1 枚 拡大写真

500億円超の大型投資で古河市に建設

日野自動車が先月の新年会見で発表した国内工場の移転・新設計画には驚かされた。普通(大中型)トラックの国内需要は5年前の半分に落ち込んでおり、今後も大きな回復は望めない情勢にあるからだ。しかし、白井芳夫社長の説明を聞くとグローバルな生産体制構築に向けた決断であり、合点がいく。

白井社長はこのプロジェクトにより、国内の仕事量は今後5年で3割程度の増加が見込め、「日本の雇用はまったく心配していない」との自信も示す。多品種少量生産というトラックの特性に着目、日本のモノづくりの空洞化を回避しながら海外市場の開拓は可能という戦略を導き出した。

計画によると、新工場の立地先は茨城県古河市で、2012年春の稼動開始を計画している。普通トラックを生産している主力の日野工場(本社工場)から順次機能を移管し、20年までに完了させ、日野工場は閉鎖する。

新工場の用地は約66万平方mと日野工場の2倍相当であり、20年までに累計で500億~600億円の大型投資を行う。まず海外向けのKD工場を移し、その後、中核部品の生産や車両組立ても順次移管していく。本社と研究開発部門は日野市に留まる。

◆グローバルで生産分業を加速

工場移転は、日野工場が戦時中の創設で老朽化する一方、周辺も市街化して能力の拡大が困難となっているからだ。このままだと早晩、新興国を中心に成長する「海外市場での販売増には対応できない」(白井社長)事態に陥る情勢となってきたのである。

それでも、円高が進んだこの時期に、なぜ国内投資なのかという疑問が湧く。乗用車についていえば、まさにそうだが、トラックとなると事情は相当違ってくる。

白井社長は、「大量生産の乗用車は海外移転も容易だが、多品種少量生産のトラックは投資が膨れるので、そうはいかない」と指摘する。つまり、需要地生産にこだわると海外での投資が拡散して、むしろ効率が悪化するというわけだ。

そこで日野は、新工場の設置とともに、グローバルでの生産分業を加速させるという「モノづくり改革」を同時に進める方針を打ち出した。たとえば、国内でリアアクスル(後輪の車軸)などの中核部品を集中生産し、海外のKD拠点では各国のニーズに合致した製品を現地組立てを主体に取り組むというものである。

◆国内を見れば構造不況業種だが…

同社のグローバル生産に占める海外KD生産の比率は、すでに09年に完成車生産を上回っている。海外KD生産比率は2010年代半ばには7割程度を占め、台数も09年比で3倍強に拡大が可能と踏んでいる。

その拡大する海外向けKDセットの供給を日本の新工場が担っていくわけだ。ただし、こうしたグローバル分業を軌道に乗せるには、設計段階からの見直しも必要になる。

KDの仕向け地によって膨大になる多品種生産を効率良く実現するには、部品のモジュール(一定のかたまり)を再編成し、日本と海外で最適な生産分担を探さなければならないからだ。いわば「トラックの造り方の変革」(白井社長)ということになる。

国内市場だけを見れば、構造不況業種とも言えるトラック製造業だが、国内の雇用創出や経済活性化にも貢献できうる可能性を、日野は新たな挑戦で実証しようとしている。

《池原照雄》

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