大矢アキオの『ヴェローチェ!』…アメリカン・ランチア登場

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 本国イタリアが冷静な理由

フィアットオートモビルズは2月14日に、3月3日から一般公開されるジュネーブモーターショーへのランチア・ブランドでの出展車両を明らかした。主なラインナップは以下のとおり。

●イプシロン5ドア
フィアット『500』のプラットフォームを活用した新型。発売は6月の予定。
●テーマ
提携先の新型クライスラー『300』のランチア版。1994年まで存在したランチアのフラッグシップの名称を復活
●グランドボイジャー
クライスラー『グランドボイジャー』がベース。従来のワンボックスワゴン、ランチア『フェドラ』の後継車となる
●フラビア・コンセプト
クライスラー『200』セダン&コンバーティブルをベースに、1960〜71年に存在したネーミングを復活。

テーマに用意される3.6リットルV6エンジンは、イタリアで製造されたものが搭載される。さらに、クライスラー『200』/センチア『フラビア』に使用されている「Cプラットフォーム」は、今後数年に登場する他のフィアット系モデルにも積極活用されるとみられる。

またこれを機に、英国およびアイルランドを除くヨーロッパ圏でクライスラー・ブランドは廃止され、ランチアに統一される(ジープは存続)。

2000年初頭のフィアット経営危機時代はブランド廃止説まで浮上したランチアが、今回クライスラーのモデルを活用してラインナップ急拡大を図る。この変化に、日本では戸惑いを示すファンも多いことと思う。

たしかに、数々の独自技術を誇った往年のランチア関係者が草葉の陰で泣いていそうなプロジェクトにも見える。筆者も、「外国ブランド好きユーザーが多い欧州では、いっそクライスラーのままのほうが売れるのでは」と思った。

しかし、本国イタリアでは意外に冷静に報道されている。自動車愛好家も、拒否反応を示す人は少ない。

1960〜70年代にランチアを所有していたという60代の男性は、こう語る。「1969年に大衆車メーカーのフィアット傘下に入った時点で、すでに本当の高級車だったランチアは終わっている」。つまり、今日のランチアがどのように発展しようと、あまり関心がないという意見だ。

ディーラーの反応はどうか。筆者の住む街のランチア・ディーラーのベテランセールス、アンドレア氏に聞いてみた。彼は、向かいに構えるメルセデスベンツ販売店を眺めながら、「イタリア市場で高級車はドイツ系が圧倒的に強いことはたしかです」と、けっして平易な道のりでないことを滲ませた。

筆者も同意見である。新型ランチア『テーマ』が目指す需要は、公用車やカンパニーカーだろう。だがベルルスコーニ首相以下多くの閣僚が外国製公用車に乗っているのを見てもわかるように、この国の公用車/カンパニーカー選びは、きわめてリベラルだ。したがって、たとえクライスラー300にランチアのバッジが付いても、“愛国者需要”を期待するのはあまり期待できないだろう。

それでもアンドレア氏は、「もちろん(クライスラー系新型ランチアが)好調に推移することを願っています」と期待をみせ、じっくり取り組む姿勢を示した。発売直後の出足はスローなことは十分覚悟の上だという。たとえば今日イタリアでフィアット『パンダ』は登録台数ナンバーワンの常連だが、2003年に初代から切り替わって以降、ユーザーに認知されるまでかなりの時間を要したからだ。

しかし気がつけばアンドレア氏との会話は、いつの間にかクライスラー系ランチアから、ジュネーブモーターショーで同時公開される新型ランチア『イプシロン』5ドアへの期待に移っていった。

「イプシロンが5ドアに変身」といった報道が主流となっているが、彼によれば実際には、現行の3ドア版もしばらくは継続販売されるという。そうした彼のムードからは、主力車種イプシロンのラインナップ充実のほうが、クライスラー系モデルよりも目下ディーラーの関心事項であるとみた。

クライスラー系モデルは、新時代のランチアを宣言し、イプシロン5ドアをサポートする打ち上げ花火で終わるのか。それとも個人需要では惨敗ながら大量のパトロールカー需要で救われたアルファ『159』の如く特定のユーザーを掘り起こすのか。ウォッチャーとしては、かなり面白いストーリーになってきた。

大矢アキオの欧州通信『ヴェローチェ!』
筆者:大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)---コラムニスト。国立音楽大学卒。二玄社『SUPER CG』記者を経て、96年からシエナ在住。イタリアに対するユニークな視点と親しみやすい筆致に、老若男女犬猫問わずファンがいる。NHK『ラジオ深夜便』のレポーターをはじめ、ラジオ・テレビでも活躍中。主な著書に『カンティーナを巡る冒険旅行』、『幸せのイタリア料理!』(以上光人社)、『Hotするイタリア』(二玄社)、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)がある。

《大矢アキオ Akio Lorenzo OYA》

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