独立行政法人放射線医学総合研究所が、東北地方太平洋沖地震(東日本大地震)に伴い発生した原子力発電所被害に関して、ヨウ素を含む消毒剤、うがい薬などを飲まないよう注意を呼びかけている。インターネットなどで根拠のない情報が流れているようだ。
原子力災害が発生した場合、放射性物質として「放射性ヨウ素」が周辺環境に放出されることが考えられる。放射性ヨウ素が大量に体の中に入った場合、健康への影響を低減するため、内服薬である「安定ヨウ素剤」を医師が処方する場合がある。
いっぽう市販品としてヨウ素を含んだものはたくさんあり、ヨードチンキ、うがい薬、のどスプレー、消毒用せっけん、ルゴール液などがそうだが、研究所ではこれらを安定ヨウ素剤の代わりに飲むのは絶対にやめるように、という。
理由は、うがい薬などの市販品は内服薬ではないこと。これにはヨウ素以外の成分が多く含まれ、体に有害な作用を及ぼす可能性のある物質も含まれる。たとえ飲んだとしてもヨウ素含有量が少なく、放射性ヨウ素が集まるのを抑制する効果がない。
また、ワカメなどの海藻にもヨウ素が含まれるが、安定ヨウ素剤の代わりとしては十分な効果がない。含まれる安定ヨウ素が一定ではないこと、吸収までの時間がかかることが理由だという。
安定ヨウ素剤は医師が処方するものだ。放射性ヨウ素を体の中に取り込んでしまった場合(内部被ばく)に、安定ヨウ素剤を指示通りに服用することが重要となる。
放射性ヨウ素は体の中にはいると甲状腺に集積する。放射性ヨウ素が入る前や直後に安定ヨウ素剤を服用し、放射性ヨウ素の取り込みを阻害したり、希釈して甲状腺への影響を低減させる。
ただし、ヨウ素剤の服用によってはアレルギーなどの副作用をおこす場合がある。さらに、安定ヨウ素剤は、放射性ヨウ素が体の中に入った場合に甲状腺への放射線被ばくを低減するのに有効で、他の臓器への内部被ばく、外部被ばく、他の放射性核種による被ばくには効果がない。
従って、服用の必要があるかないかは、環境中への放射性ヨウ素の放出量から受ける被ばく量を推定し、医学的観点から決定すべきものだ。