日産 リーフ “世界最高水準の省電力LEDヘッドランプ”はどう実現したのか…市光工業 開発者に聞く

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市光工業 研究開発部 P2P3プロジェクトチーム1 プロジェクトマネージャ 村橋克広氏
市光工業 研究開発部 P2P3プロジェクトチーム1 プロジェクトマネージャ 村橋克広氏 全 9 枚 拡大写真

LEDの個数を減らしてコストダウン、リフレクターの構造を改良して明るさを確保

日産の電気自動車『リーフ』のヘッドランプにはLEDが使われている。LEDは、これまでもハイマウントストップランプや室内灯、テールランプなどに利用されていたが、明るさや製品コストの問題から一部の高級車種を除いてヘッドランプへの採用はほとんどなかった。しかし、動力だけでなく、エアコン、照明、灯火類をすべてバッテリーでまかなうEVにおいては、電装品の低消費電力化は、航続距離など車の基本性能に直結する重要事項だ。そのため、EVにおいてはLEDヘッドランプの意味は大きい。モーター以外の消費電力が低いということは、航続距離性能にも貢献するはずだ。

このリーフ用のLEDヘッドランプを開発したのは、市光工業である。LEDヘッドランプ自体は、高級車ではレクサスやアウディなどでの採用例がすでにある。ハイブリッド車ではプリウスにもLEDヘッドランプが搭載されているが、市光工業のLEDヘッドランプはEV向けということで、これらの先例との違いはあるのだろうか。

リーフのLEDヘッドランプ研究開発を取り仕切った同社研究開発部プロジェクトマネージャの村橋克広氏はつぎのように説明する。

「まず、リーフ用のLEDヘッドランプは消費電力が23WとこれまでのLEDヘッドランプより格段に低くなっています。れは主にヘッドランプに使用しているLEDの個数の違いによるものですが、今までのヘッドランプはLEDを3つ以上使います。今回、リーフのために開発したヘッドランプは2個のLEDで500ルーメン以上、色温度を5500Kに設定し、必要十分な明るさを実現しています。これは、低消費電力だけでなくコストダウンにもつながります。現在、LEDヘッドランプはプロジェクター型が主流ですが、こちらは反射型とプロジェクター型の特長を組み合わせた、独自の光学系となっています。部品単体の工作精度は要求されますが、部品点数を減らすことができます。」

EV向けということで低消費電力という要求は至上であったこと、車格としては大衆車であるリーフ向けにできるだけ量産コストの低い製品を開発する必要があったことの2点が同社の製品の特徴づけにもなっているようだ。さらに、反射型としたことで、デザイン性も増したという。

◆「LEDは次世代のヘッドランプ光源の主流を担う」

市光工業は自動車の灯火類の老舗メーカーのひとつだが、LEDヘッドランプについてはいつごろから取り組んでいたのだろうか。また、その開発の背景はどのようなものだろうか。村橋氏は次のように述べる。

「ヘッドランプの光源に白色LEDを、と開発を始めたのは7年以上前です。当時は、色効率や明るさなどの面からイルミネーションや室内灯など一部の商品化のみでした。当然、ヘッドランプとしては暗い、コストがかかりすぎるなど、とても実用にはならないものでしたが、シールドビーム、ハロゲン、HIDとヘッドランプの光源が10、20年単位で進化していく中で、次世代の光源はやはりLEDだろうという考えのもと、開発をスタートさせました。そのときは、とくにEVということは意識していませんでしたが、そうした中、5年ほど前に日産自動車やフィリップス・ルミレッズ・ライティングと共同のEDヘッドランプの開発プロジェクトがスタートしました。」(村橋氏)

そのプロジェクトとは、フィリップス・ルミレッズ・ライティングが高性能のLEDチップを開発提供し、ヘッドランプ開発と量産化を市光工業が担当するというものだ。フィリップス・ルミレッズ・ライティングのLEDチップは、4つの発光素子を集積したマルチチップタイプで、高光束(明るさ)なものだ。独自の反射型光学系と合わせて、他社製品よりLED数を2つに減らすことに成功した。EVというクラスレスな存在のリーフだが、車格的にはあくまでもCセグメントクラス。そのため、開発に当たってはあくまでも“大衆車・標準搭載”であることを意識していたという。

◆発熱、組み付け精度、配光など、様々な課題を解決

省電力LEDヘッドランプの開発にあたっては、課題も少なからずあった。

「製品開発にあたってはコストや熱対策、配光パターンなど、解決すべき問題は多くありました。電子機器に使われているLEDは発熱が少ないと言われていますが、それは数mA、数十mAといった極めて小さい電流での話です。家電での電球型LEDがそうであるように、照明光源として使うような場合は放熱対策が必須となります。量産化についてはPM設計部門や生産技術部門・量産スタッフがさまざまな工夫を凝らしてくれました。熱対策、配光パターンや特性、信頼性など基本設計の部分が開発部門で取り組んだところです。」(村橋氏)

と、設計でこだわった部分を述べる。その設計思想の根底に流れるのは「他とは同じことはやらない」だそうだ。これは、EV専用モデルとしてスクラッチからデザインされたリーフのコンセプトにもマッチしている。プロジェクター型ではなく反射型の採用もそのこだわりを反映している。

「反射型を採用したのは、他と同じではおもしろくないという理由もありますが、それだけではありません。EVだからといってコストを度外視するわけにはいきません。プロジェクター型はレンズやレフが各々別でユニット数の分、部品が増えてしまいます。今回我々が開発したリーフの主な部品はリフレクター1枚とヒートシンク、シェードそれにマルチチップのLEDが2個だけです。それに、反射型の場合、プロジェクター型に比較してリフレクターの各セグメント形状で配光パターンを細かく制御できます。よって、必要とされるところに、より細やかな光配分ができます」

革新性というのは、単に人と違うことをするのではなく、技術的な課題に対して合理性やブレークスルーを伴ったものということだ。リーフの登場によって、大衆車へのLEDヘッドランプの普及に先鞭はつけられたが、村橋氏は今後のLED光源の進化への取り組みをどのように考えているのか。

「当然いろいろ考えています。ハイビームへの展開はもちろん、ADB(Adaptive Driving Beam)やAZB(Adaptive Zone Beam)への応用も考えています。LEDチップも発光効率やコスト面でも改善の余地があると思っています。1個のLEDで十分な光量(明るさ)を確保できれば、1個でヘッドランプが可能になり、消費電力やコスト面で、適用可能範囲は更に増えるでしょう。技術的には道筋がついていますのでそうなれば、EVに限らずLEDヘッドランプが標準的になってくる可能性があります。早ければこれは数年後に実現するかもしれません。」

《中尾真二》

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