【スマートグリッド最前線】ファンドでビジネスを活性化

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おひさまエネルギーファンド 募集・広報担当 マネージャー 永田光美氏
おひさまエネルギーファンド 募集・広報担当 マネージャー 永田光美氏 全 3 枚 拡大写真

 東日本大震災による原発事故を機にエネルギー政策をどうしていくべきかという論議が沸騰するさなか、ソフトバンクの孫正義社長は「全国の作付けをしていない農地にメガソーラー(大規模太陽光発電所)を建設したい」と発言。それと前後して商社、重工業など多くの分野の有力企業が続々と日本での再生可能エネルギービジネスへの参入を表明。再生可能エネルギーは日に日にその存在感を増している。

 しかし再生可能エネルギー技術はまだまだ発展段階。すでに実用化がかなり進んでいる太陽光、風力でも、発電量のわりに設備費が高くつくという弱点がある。いったん設備を作ってしまえば、火力発電所や原子力発電所とは異なり燃料費はかからず、メンテナンス費用も大型発電所と比べるとはるかに安いため、発電した分がまるまる利益になっていくのだが、発電所を作って発電事業を軌道に乗せるところまでが大変なのだ。

 投資をすべて自己資金でまかなう場合、再生可能エネルギービジネスの大型案件に手を出せるのは孫氏のような富豪や有力企業など資金力に余裕のあるプレーヤーに限られてしまう。実際、個人で再生可能エネルギーに手を出そうとしても、自宅の屋根にソーラーパネルを設置して小さな電力を売る以上のことをやるのは難しい。

■注目を集めるエネルギーファンド

 その再生可能エネルギービジネスの活性化で注目を集めている手法のひとつが、事業に必要な資金を証券化して広く投資家に買ってもらうというエネルギーファンドである。たとえば立ち上げに10億円かかる事業の場合、100万円×1,000口を集められれば、投資家の資金だけで設備を整え、運用を開始できることになる。投資家は発電などで得られた利益の一部を利回りとして受け取ることで、投資の見返りを得る、といったシステムだ。

 もちろん実際に販売される金融商品の設計はこのような単純なものではないが、再生可能エネルギーの割合が大きい欧州ではすでにメジャーかつ安定性の高い投資対象として認知されている。日本ではようやくその手法がクローズアップされはじめた段階であるが、実は投資可能な商品を提供しているファンドはすでに存在している。2004年に設立されたおひさまエネルギーファンド株式会社はその草分け的存在だ。

 おひさまエネルギーファンドで金融商品の開発を手がけている募集・広報担当 マネージャー永田光美氏は「東日本大震災が起こった3.11以降、再生可能エネルギーに対する人々の関心が急速に高まっています。問い合わせは震災前の4倍ほどに、実際の出資も人数で2倍、出資額では3倍になり、さらに増加傾向を示しています」と語る。

 さらに永田氏は「再生可能エネルギー電力は近い将来、大きく伸びます。それも1.5倍、2倍といった単位ではなく、10倍、20倍、あるいはそれ以上というスケールで伸びていくことになるでしょう。日本は少子化が進み、多くの産業が頭打ちとなるなど苦境に立たされていますが、その日本経済を活性化させるパワーを持つ有望分野になると確信しています」と、再生可能エネルギー技術の普及に自信を見せた。

■再生可能エネルギー普及への課題

 おひさまエネルギーファンドが実際に運用を開始している投資商品は4件。そのすべてがメガソーラーだ。「これまでのところ、全部の案件についてきちんと配当を出し続けられています。また新規の案件についても設立当初は年1件ペースだったのですが、昨年から年2件ペースへと、徐々にスピードが速まっています」(永田氏)。

 おひさまという名がついているが、太陽光専業というわけではない。新規案件のなかにはメガソーラー以外の再生可能エネルギー発電もある。株式会社アルプス発電が計画を進めている「立山アルプス小水力発電事業」を材料とする投資商品はそのひとつだ。

 この事業は富山県魚津市にある小早月川の砂防ダムに水路を設け、そこに水車を設置して発電するというもの。今日、小水力発電は再生可能エネルギーの新分野としてしばしば取り上げられているが、発電ビジネス化は初めてである。総事業費10億5,000万円で、売電収入は年6,500万円を見込む。配当利回りの目標は一口50万円の商品の場合で年利3%、一口300万円の商品の場合は年利7%。金融商品としては充分に魅力あるスペックと言える。

 しかし太陽光、風力、小水力など、再生可能エネルギーの多くは気象、気候によって発電量が左右される。安定性が高いのは微生物培養型のバイオマスや地熱発電くらいのものだ。予定発電量を達成できないというリスクはどうしても付きまとう。

 ソーラーパネルメーカー大手、京セラのある幹部は震災前、「再生可能エネルギーは非常に有望なエネルギーソースなのですが、日本では胡散臭いものというイメージを持たれがちです。その大きな要因は不確かさと小ささにあると思う。確実性、信頼性を好む日本人の気質がそうさせているのかもしれません」と、日本で再生可能エネルギーが普及するためには、拾えるエネルギーは何でも利用するという方向に意識が変わることが大事だと語っていた。

 震災の悲劇は一方で、その意識の変化を生むきっかけともなった。安定性が低いというネガティブな捉え方が後退し、捨てられているエネルギーを有効利用可能にする技術というポジティブな見方が増えた。

 「日本はエネルギー資源が極端に少ない国だけに、サスティナブル(持続可能性)ということについては世界一関心が強いところがある。(不安定ではあるが)クリーンな自然エネルギーは、その日本人を惹きつける魅力があると思う」(永田氏)

■外資系金融から再生可能エネルギー業界へ転身

 そう言う永田氏自身、再生可能エネルギーの持つ“引力”に引き寄せられてこの世界に足を踏み入れた。かつては欧州系の総合銀行世界大手に在籍し、ファイナンシャルコントローラーを務めていたという金融のスペシャリストであった。

 外資系金融機関における専門職の待遇は、日本企業とは桁違いである。が、「自分の給料ばかりを考えていても疲弊するばかり。一回立ち止まって、生物多様性や自然エネルギーなど、以前から興味を持っていた分野を見てみようと思った」と永田氏は務めていた会社の退社理由を述べた。その後、たまたまおひさまエネルギーファンドのスタッフ募集を見て連絡を取ってみたところ、「あなたの経歴ならばファンドマネージャーをやれる」と言われ、今の仕事に落ち着いたのだという。

■再生可能エネルギー普及を促す仕組みづくり

 金融のプロフェッショナルの目にも、潜在可能性が魅力的なものに映る再生可能エネルギー。その導入を促すための再生エネルギー特別措置法が現在国会で審議されているが、なかでも目玉のひとつとされているのが再生可能エネルギーで発電された電力を一定期間、全量を高い価格で電力会社が買い取ることを義務付けるフィードインタリフ(FIT)という制度である。

 再生可能エネルギー技術はまだまだ進歩の余地が大きいと、装置産業のエンジニアは口をそろえる。先にビジネスを始めることによる先行者利益と技術革新によるコスト低減を天秤にかけて、どの時点で投資するのが最も得することになるかという読みは非常に困難なのだ。そこで早い段階で参入した事業者には、技術が低くコストが高いというハンディを、高い電力買取価格を設定することである程度カバーすることで、参入を促進するというのがFITの狙いである。

 「FITが実現すれば、事業者、投資家の両方にとってリスクは確実に減る。日本には1,400兆円の個人資産があるとされていますが、魅力的な投資分野がなければ、ただ取り崩していくことになりかねない。自然エネルギーへの出資という形でその個人資産を活用することは、経済活性化にプラスになる」(元外資系証券ディーラー)

 もちろんFITの制度設計の内容がどうなるかはまだわからない。いくら新規参入を促すといっても、低レベルな技術のメガソーラーを大量に作れば、事業者側はノーリスクで利益を上げ、国の電力コストは一気に跳ね上がるということになってしまう。とりわけ買取価格が高い段階では、導入量をシビアに抑制すべきという声も根強い。

 「再生可能エネルギービジネスが本当に受け入れられるようになるには、なるべく早い段階で補助金なしで発電所を建設しても利益を上げられるようにする必要があります。そこは真剣に考えなければならない」と、永田氏も先行きを楽観視してばかりはいられないと指摘する。しかし「とはいえ、再生可能エネルギーへの人々の期待は本物。とくに3.11以降は、単にクリーンエネルギー、脱石油といったことばかりでなく、脱原発、分散型エネルギーといった観点からも注目されるようになりました。ファンド方式は国や大資本が手がける発電事業と違って、自分の出した資金が純粋に再生可能エネルギー発電のみに使われることが明確であるという点でも、エネルギー政策への参加意識を持ちたい市民投資家のニーズに合っていると思います」(永田氏)。

 再生可能エネルギー発電の普及のカギを最終的に握るのは、それがビジネスとしてペイするものになるかどうかということだ。いくら崇高な理念を唱えても、ビジネスとして利益が上がらなければそれ以上の発展性はない。エネルギーファンドは今後、日本でも増えていくと考えられている。どのように投資市場が拡大してくか、その行方は大いに注目に値しよう。

【スマートグリッド最前線(Vol.4)】再生可能エネルギーは普及するか?

《井元康一郎@RBB TODAY》

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