ダウンサイジングと言うけれど、日本でトレンドなのは「大きなクルマから小さなクルマに乗り換える」こと。でも、そこには我慢が付きまとう。室内空間やトランクは狭くなるし、車格感や質感、装備が物足りなかったりする。
そんな我慢を解消してくれるのが、「エンジンだけダウンサイジング」した新型『パサート』だ。エンジンは先代の1.8リットル/2リットルターボに換えて1.4リットルのTSI。アイドルストップやオルタネーターのエネルギー回生により、モード燃費は同じエンジンの『ゴルフ』をも凌ぐというから驚きだ。で、当たり前だけど、ゴルフより室内空間もトランクもはるかに広い。
ボディサイズのうち全幅と全高が先代とまったく同じなのは、ルーフパネルがキャリーオーバーで、前後のドアも基本形状を変えていないから。しかしドアを貫通するショルダーラインが先代よりずっとシャープになった。シャープなラインで精緻さを表現するのは最近のVWデザインのこだわりだ。さらにベルトラインの延長上に、これまたシャープなラインを前後のフェンダーに延ばすことで、上級セダンに相応しい水平基調の落ち着いたプロポーションを強調している。
フロントマスクは4本のクローム・バーを持つグリルで、2本バーのゴルフとの車格差を表現。グリルとヘッドランプを横一文字に結んだのは、フラッグシップ・セダンの『フェートン』(日本には未導入)に共通する特徴だ。インパネの基本形状は先代から変わりないが、その中央に「高級車のお約束」のアナログ時計を新設したのもフェートンと同じ。高級感の演出は手抜かりない。
インパネとドアの加飾は、コンフォートラインは半艶シルバーの上にヘアライン風プリントを施したもの。これでも上級セダンとして充分な質感だと思うが、上級仕様のハイラインではそこがウォルナットの本杢になり、センタークラスターにはなんと本アルミを使い、シートは本革だ。本杢、本アルミ、本革の3点セットは「小さなクルマにダウンサイジング」したら、けっして得られない。「我慢しないダウンサイジング」こそ、新型パサートの意義だと思う。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★
千葉匠│デザインジャーナリスト
1954年東京生まれ。千葉大学で工業デザインを専攻。商用車メーカーのデザイナー、カーデザイン専門誌の編集部を経て88年からフリーのデザインジャーナリスト。COTY選考委員、Auto Color Award 審査委員長、東海大学非常勤講師、AJAJ理事。