【インタビュー】VW ワルター・デ・シルバ…エモーションを伝える鍵はプロポーション

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フォルクスワーゲン・グループのデザインを統括するワルター・デ・シルバ氏
フォルクスワーゲン・グループのデザインを統括するワルター・デ・シルバ氏 全 12 枚 拡大写真
かつて『ゴルフI』でコンパクトカーのスタンダードを作り上げたフォルクスワーゲンが、新世代のコンパクトカー『up!』を発表した。現在のVWデザインの集大成とも言えるコンセプトを作りあげたのは、同グループのデザインを統括する、ワルター・デ・シルバ氏だ。VWデザインの“今”、そして未来とは。up!が公開されたフランクフルトモーターショー会場で、同氏が共同インタビューに応えた。


---:『ビートル』、『up!』、そして『ブリー』も発売される予定と聞いていますが、VWデザインの第2ステージ「共感を呼ぶデザイン」とは、どんな要素で構成されるのでしょうか?

デ・シルバ:2007年以降、フォルクスワーゲンブランドのデザインが、シンプルでわかりやすい(understandable)明快な表現として取り組んで、『ゴルフVI』や『パサート』が出てきました。しかし、こうした要素は元々VWのDNAに存在したもので新しくはありません。 

VWが製品のレンジを拡大しつつあり、新しいビートルやup!、ブリーなどは、よりエモーショナルな共感を呼ぶ(sympathetic)ステージに入ったと言えるでしょう。底流にあるフィロソフィーは守り、共通なものは維持しながらも、より異なった表現やアプローチをもって差別化していくことができるし、合理的(rational)でありながらエレガントなデザインを獲得できるということです。


---:デ・シルバさんのホームタウン、ミラノは世界の「トレンド発信地」です。up!にはミラノの街に似合うような、これまでのVW車にはなかったトレンディなイメージがあるように感じますが、どうお考えでしょうか?

デ・シルバ:それは質問というより、賛辞として受け取らせていただきます。ミラノは私の愛する街であり、ファッションの中心で、素晴らしい感性、美しいものに溢れています。up!は、まさに美しいことで知られるこのミラノの中心に馴染むようにデザインしたからです。

私の人生と仕事において常に、この感性が研ぎ澄まされた街ミラノ。生き生きとして、創造的で、美しいものを愛するミラノの人々の感性に訴えるようなクルマをデザインすることを目指してきました。up!がそのミラノにフィットするといわれれば、それは質問ではなく、賛辞以外の何ものでもありません。


---:最近、「プレミアム・コンパクト」という新しいマーケットが急激に拡大しつつありますが、例えばMINIやフィアット『500』のように、バリエーション展開を拡大する可能性はあるでしょうか? そして、それに耐える素養をup!は持っているとお考えですか?

デ・シルバ:up!は、ファミリーとしてこれから製品展開が広がっていきます。2012年には、4ドアハッチバックが出ますし、その後は電気自動車という二つの展開が控えています。このプラットフォームは、全く新しいもので、今後ニュー・スモール・ファミリーとして、補完的に幅広く製品展開していきます。コーブランディングするよりは、まずup!レンジの基盤を固めることが先決です。欧州でまず確立し、世界のほかのマーケットでも販売していきます。


---:デザインでは、エモーションとファンクションがぶつかるポイントがあると思います。VWブランドの場合は、これをバランスさせ、エモーションナルであっても、アイデンティティーとして機能的に見えないといけない、といったことがあると思いますが。

デ・シルバ:デザインには、合理性とエモーショナルの二つの要素はありますが、それを複雑に考える必要はありません。鍵になるのは、プロポーションです。

プロダクトデザインの歴史は100年を超え、その中では、リチャードサパーズのアルテミデ(照明器具)や、ザヌーゾのベガのTVセットなど、エモーションと合理性を兼ね備えた製品が生まれています。エモーションを伝える鍵はプロポーションであり、共通しているのは、それがタイムレスで朽ちないデザインであるということです。

フォルクスワーゲンは、ビートルやゴルフという2つのアイコンにある、時間を越えたデザインという知恵やアイデンティティーを守らないといけません。流行やコピーに左右されることはあってはならないのです。


---:up!はやはりタイムレスなデザインを狙ったということでしょうか。

デ・シルバ:そういうことになります。それが実現されているかどうかは、時間のみが教えてくれることになりますが。サイズやパッケージング、技術、エンジニアリングなどのあらゆる要件を満たした優れたプロポーションを持つことが一番大切です。


---:VWにとって、あるいは、デ・シルバさんにとって、「エモーション」の位置づけとは? そして、「トレンド」は、デ・シルバさんのデザインに対して、どんな影響をもたらすのでしょうか?

デ・シルバ:私たちはお互いに繋がりあった世界に生きていますから、トレンドの影響はいやがおうにも受けますが、トレンドの影響を直線的に受容しすぎてはいけません。それがどういう意味合いを持つのか予想し、取り入れる際には翻訳していかないといけません。

私は2007~2008年頃にオーバーデザインの時代は終わった、バロック的な過剰な表現は衰退するといいましたが、実際に3、4年経ってそうした流れになり、デザインはクリアで理解されやすい、責任あるものに変わってきています。競合他社の中には、目立ったり、差別化するためにエモーションを過剰に表現することもありますが、それはあまり賛成できません。

それらのデザインは、長い歴史の中で培われたアーキテクチャやプロポーションを破壊してしまっており、短期的には売れたり注目を浴びても長続きはしません。4000年前のギリシアの建築家から受け継がれてきた、アーキテクチャやプロポーションの黄金律があります。それらを無視してはいけません。


---:「So klein, so schon」(直訳:とても小さい、とても美しい)という言葉がここに書かれていますが、up!のような小さなクルマを美しくデザインすることは難しかったでしょうか。

デ・シルバ:up!は私がデザインしたクルマの中で、最も小さな製品です。 ミリ単位で細部をつめ、スペースやエンジニアリング、コスト、技術といった開発要件を満たすのは確かに複雑でチャレンジングな仕事でした。皆さんのこのレコーダーやカメラといったマイクロデザインの製品をお持ちですが、それと同じように、コンポーネントの制約を、常に創造力によって乗り越えていく過程でもありました。

《宮崎壮人》

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