【池原照雄の単眼複眼】産業界には議論の余地なしのTPP参加

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日韓で新車市場3000万台の差に

日本の産業界が直面する「6重苦」のうちの経済協定について、日本自動車工業会が日本と韓国の状況を比較したデータをまとめた。両国のFTA(自由貿易協定)とEPA(経済連携協定)の発効や今後の締結見通しに基づき、協定対象国・地域の新車市場規模を比較している。

協定の締結を国家戦略として推進してきた韓国に日本は大きくリードされており、対象国・地域の新車市場は、現状でも1600万台の開きがあり、両国が協定締結で大筋合意している国・地域を含めると3000万台へと広がる見通しとなっている。昨年の世界市場のほぼ4割に相当する。政府が目下、検討している環太平洋経済連携協定(TPP)への参加は、産業界からすれば議論の余地なしという状況だ。

韓国は7月1日にEU(欧州連合)とのFTAを発効させた。今後5年間でほぼすべての関税は撤廃し、政府規制など相互が問題視する非関税障壁も順次、取り除かれる。EUは自動車に対し10%(乗用車)~22%(大型トラック)の関税を課しており、現代自動車(ヒュンダイ)などの韓国車は今後、関税撤廃の恩恵を受けることになる。

◆11月のAPECが事実上のリミット

日韓は通貨でも片やウォン安、片や史上最高値の円高という対照的なポジションとなっているだけに、欧州市場での関税撤廃は日韓メーカー間の価格競争力の差を決定的に広げる。韓国車の躍進は、こうした外的な競争要因の好転だけでなく自動車メーカーとしての実力も伴ってのものだ。それだけに一刻も早く「同じ土俵の上で闘えるようにしてもらいたい」という自動車各社首脳の声は切実である。

TPPは本来、今年6月に参加についての結論が出される予定だった。しかし、東日本大震災への対応で先送りされたままとなっている。米国や豪州、シンガポールなど9か国は11月中旬にハワイで開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で大枠合意を目指しており、この時点で協議に加わっていないと乗り遅れることとなる。事実上のタイムリミットだ。

1980年代の「牛肉・オレンジ」に始まり、貿易協定や通商交渉では常に農業が日本側の課題となってきた。今回も農業団体からは、TPPに加われば農業は壊滅状態になるといった主張が出ている。牛肉・オレンジでは農家や畜産家の努力もあって、日本国民は依然としてオレンジよりみかんが好きだし、牛肉は値の張る和牛に、尊敬のような眼差しをもっている。

◆今ある危機に直面する製造業

わが家ではせめてすき焼きの時は、そう高価でないランクでいいから「黒毛和牛」をと、ちょっと贅沢をする。ごく一般的な家庭の風景ではないだろうか。コメも新潟県産のブランド米でなく、5kgで1500~2000円程度の量販米で十分美味しい。外国産米にない安心感も、日本のコメの非価格競争力となっている。

農業団体の関係者は、こうした農畜産物が安価な外国産品の流入によって本当に国民から見放されると考えているのだろうか。通商交渉における農業分野は、いつも遠い将来の莫とした不安をあおることで、庇護を求めてきた。対して製造業は、今ある危機に直面しており、「かつて経験したことのない空洞化が静かに進みつつある」(志賀俊之自工会会長)。

6重苦がもたらす閉塞感や徒労感が、製造業を広く覆っている。TPPへの参加表明は、わずかな一条の光に過ぎないにしろ、産業界に明日への期待と展望をもたらすのは間違いない。

《池原照雄》

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