【テレマティクスジャパン 開幕直前】震災を経て変わった「リーフの存在意義」…日産 二見徹氏

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EVを蓄電池として用いる「LEAF to Home」
EVを蓄電池として用いる「LEAF to Home」 全 9 枚 拡大写真

11月29日と30日の両日、テレマティクスの専門家が集うカンファレンス「テレマティクスジャパン」。このイベントでキーノートスピーチを担当する日産自動車の電子技術開発本部・IT・ITS開発部の二見徹氏に、EVとテレマティクスがもたらす社会のあり方について話を聞いた。

画像:日産リーフのテレマティクスシステム

◆バッテリーのトレーサビリティがEVアフタービジネスの成否を分ける

自動車の場合、売ってしまえばそれでおしまいではない。交換時にいくらで売れるか、中古車市場というビジネスがある。一般に自動車は車種・年式・走行距離・事故歴でおおよその査定価格が割り出せるが、EVの場合バッテリーの状態は走行距離や年式だけでは全く分からない。

『リーフ』ではテレマティクスを装備した全車で、工場出荷されてからどう使われてきたか、というバッテリーの運用情報をすべて把握しているという。

なぜここまでトレーサビリティを重視するのかというと、単にEVの信頼性を把握するためという目的だけではない。メーカーにとってEVは、ガソリン車以上に販売後のアフタービジネスで収益構造を生み出しうる存在と見なされているからだ。

「バッテリーの状態を把握しておけば、中古車として適正に値段を付けられる。車両での使用が難しい場合は、安価な定置型の蓄電池としてリユースする方法もある。さらに内部抵抗が大きくなれば、リチウムなどを回収してバッテリー製造の原料として再利用する」(二見氏)。2010年9月に、合弁会社「フォーアールエナジー」をリチウム資源調達のパートナーでもある住友商事と共に設立した背景には、こうしたバッテリーリユース・リサイクルのビジネスを軌道に乗せるための狙いがある。また、そう遠くない将来にリーフが中古車店の店頭に並ぶことを見越して、査定時の評価基準作成に向けて動いているという。

◆東日本大震災で大きく変化したEVの役割

日産では、東日本大震災の津波でカープールに置かれていた大量の車両が流されるなど大きな被害を受けた。

流された車両の中には電気系がショートするなどのトラブルもあったが、心配されたEVの水没時にリーフはどうだったのだろう。「数十台のリーフが流されたが、ショートによる発火はなかった。通電しテレマティクスが開通している状態だったこともあり、全車すぐに発見できた。災害時はガソリン車よりもむしろ安全だったということが分かった」(二見氏)。

震災から1週間後、日産はリーフを首都圏から被災地に移送、主に病院と役所に提供した。鉄道が寸断され、ガソリンも逼迫して移動手段が確保できない状況のなかで、ライフラインの中で電気の復帰はもっとも早く、EVが被災地で活躍できた。

二見氏は「3.11のインパクトは日産のEV開発についての考え方にも大きな影響を与えた」と語る。つまり、「EV運用はモビリティシナリオに加えてエネルギーシナリオが加わった」。

売電制度の施行により住宅向けの太陽光発電システムが急速に増えているが、系統側に送る「逆潮流」の電力があまりにも大きいと、系統側の周波数や電圧に大きな影響を与える問題も指摘されている。震災時のように売電する回路自体がダウンしてしまっている場合は、せっかく発電した電力も出力制限されてしまった分しか利用できない。

また、灯油を利用するビルの非常電源も持って4〜5時間。しかも、今回の震災では灯油自体が行き渡らなくなってしまった。「つまり、創エネ機器はそこそこ普及していても、停電時の電力は供給できない。ということは、電力をためるという機能が非常に意味のあるものになってくる」(二見氏)。EVを非常時の蓄電池として利用する重要性がここにある。

◆EVが動いていない22時間にどう使うか

日産では現在、リーフから家庭用電源に放電できるPCS(パワーコントロールシステム)を開発中だ。リーフが採用しており、世界のEV充電器の標準化を働きかけているCHAdeMO規格には定義されていないスロットがいくつかあり、標準規格の汎用性を維持しながら、その空きスロットの一部を利用して独自仕様の放電機能をもたせるというもの。リーフの場合、最大60Aをカバーできるうえ、搭載する24kWhの電池容量は一般家庭の2日分程度の電力量に相当する。

コスト面を考えると、24kWhの容量をもつリーフは補助金なしで400万円、1KWhあたりで計算すればおよそ16万7000円。しかし、家電量販店だと定置型のリチウムイオンは1KWhで80万円程度が相場だ。「これまで、蓄電池が普及しなかったのは高すぎて採用できないから。EVから放電できるPCSが実現すれば容量当たりの単価は非常に安い。EVは移動手段として利用できるだけでなく、いざというときの電力の担保にもなる」(二見氏)。オフィスや集合住宅で数十台規模のEVを導入し、EVをカーシェアリングとして利用しながら、非常時の電源や発電切迫時のピークカットとして用いる、という使われ方も現実的だ。

さらに二見氏は続ける。「クルマは止まっている状態が9割。走行するのは24時間の中の2時間ちょっと、のこり22時間は停止している。日産がメッセージを出している自立分散型社会は、クルマを単なるモビリティとしてだけではなく、止まっている22時間の中に蓄電池としての利用価値を見いだして、社会的に活用していこうという考えがある。そのためにはバッテリーのSoC(State of Charge)を常に社会的に把握していなければならない」。テレマティクスはSoC管理という点でも、外すことのできない重要な機能と位置づけられるようになる。

◆クルマの価値を変えるテレマティクス

従来のスマグリは系統電力が主だったが、政令指定都市の区程度のコミュニティ単位のグリッドを構築することで、系統電力に依存しなくても1週間程度は自活できると二見氏は見ている。100%の安定性と信頼性で電力を供給する使命を持つ電力会社はなくてはならない存在ではあるが、スマートグリッド社会はインターネットの世界と同じで「ベストエフォートの世界」と二見氏は語る。「現実解は両者のミックスだろうが、いまは選択肢がない。系統電力は電力会社から供給を受けるが、コミュニティ単位でのグリッドを運用するのは電力会社である必要はない」。

もっとも、「エネルギーシナリオの現実化は、日産のようなカーメーカーだけががんばってもダメ。クルマ業界だけでも足りない」とも二見氏は言う。通信会社やハウスメーカー、さらには法整備にかかわる行政も含めた横断的なネットワークが不可欠だという。

テレマティクスと言えば、クルマに付加価値を与える“商品”の一部であったが、EV時代の到来により、テレマティクスは社会インフラの一翼を担うまでになると言えそうだ。「EV以降のテレマティクスはクルマの価値を変える存在になる。震災の経験が生まれたばかりのリーフに新しい使命を与えてくれた。それは日本発のテレマティクスの使命でもあると感じている。」(二見氏)。

《北島友和》

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