【三菱 PX-MiEV 試作車】“走る愉しさ”もたらす新世代プラグインハイブリッド

エコカー EV
三菱 PX-MiEV は、三菱が培ってきた「4WD」と「EV」技術を高次元で融合させたプラグインハイブリッドSUVだ。
三菱 PX-MiEV は、三菱が培ってきた「4WD」と「EV」技術を高次元で融合させたプラグインハイブリッドSUVだ。 全 24 枚 拡大写真

東京モーターショーに三菱自動車が出品する、外部電源からの充電が可能なプラグインハイブリッドSUVのコンセプトカー『PX-MiEV II』。大型リチウムイオン電池を搭載し、EV航続距離50km以上。エンジンは出力85kWの2リットル直4、電気モーターは出力60kW2基で、3リットルV6並みの同僚性能とJC08モード燃費60km/リットル以上という経済性の両立をうたう。

実はこのPX-MiEV、単なる“ドリームカー”ではない。2012年度の発売に向け、市販モデルの開発はすでに佳境に入っている。市販モデルのパワートレインを現行『アウトランダー』に実装した試作車に、同社の岡崎テストコースで試乗する機会を得た。

走り始めてまず感じられるのは、電動AWD(四輪駆動)方式の粘り腰とスムーズさ。モーターの制御の自由度を生かして走行状況に応じて前後輪へのトルク配分を巧みに制御するため、勢い良くスタートしても車両の姿勢はあまり後傾せず、アクティブサスペンション装備車のようにスイッとスムーズに動き出すのだ。

車両のチューニングがまだ完熟状態でないということで、パイロンスラロームや不整路などのハードなメニューは試せなかったが、高速周回路では120km/hリミットでのクルーズも試すことができた。テストカーはEV走行状態がちょうど120km/hまで維持されるようにセッティングされていたが、クルーズのフィーリングもまさにEVそのものであった。

面白いのは、高速クルーズ時に後輪にも少しトルク配分がなされていること。これは『ランサーエボリューション』の車両運動統合制御システム「S-AWC」開発で得たノウハウが生かされているとのこと。

「リアに駆動力を少し配分すると、高速でのスタビリティが格段に良くなるんです。エコだけを考えると完全にリアモーターを停止させたほうがいいのかもしれませんが、それで稼げる効率は微々たるもの。ドライビングプレジャーの観点から、現時点では四輪駆動制御にしているんです」

S-AWC開発を長年手がけてきたという駆動力チューニング担当エンジニアは語る。大型電池を床下に搭載し、重心が下がっていることも手伝ってか、クルーズのフィーリングはとてもなめらかで安定したものだった。

PX-MiEVは普段はEV、電池残量が少なくなるとエンジンを発電に使うシリーズハイブリッド状態で走行するが、アウトバーンのような高い速度での巡航や、クルーズ状態から強めに加速するときなどはエンジンを駆動系に直結させ、モーターが電動アシストに回るパラレルハイブリッドモードとなる。テストコースでパラレルハイブリッドモードに切り替わるような運転も試してみたが、クラッチ接続時のトルク変動は実に上手く処理されており、ショックはほぼ体感できないレベルであった。

新プラグインハイブリッドSUVはドライビングプレジャーを十分に持ち合わせたクルマに仕上がりつつあるというのが、試乗を終えての感想だった。三菱自はリコール問題で深刻な打撃を受け、ダイムラーから半分投げ出されたとき、クルマの電動化技術に社運を賭けた。そのときに中心的な役割を果たしたエンジニアの吉田裕明氏は「ただのEVを作っても、大手がすぐにキャッチアップしてくる。ウチが潰されないために絶対必要なのは、楽しいEVを作ること」と語っていた。

人間にとって“楽しさ”は生きる上で大変に重要なことだ。クルマ作りにおいても楽しさは最大級に重要なことなのだが「これが正しい楽しさだ」というシンプルな正解は存在しない深い世界だ。どのようなEVが楽しいのかということを、三菱自の電動化技術MiEVの開発チームは『i-MiEV』開発の初期段階から、電動車両のドライビングプレジャーについて議論を重ね、常に探求を重ねてきたという。その成果は、MiEVとしては初のエンジン装備車であるPX-MiEV作りにも十分反映されているようだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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