[福岡市]行政がデジタルコンテンツ産業をバックアップ

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行政がデジタルコンテンツ産業をバックアップ。「アジアのリーダー都市をめざす」福岡市の戦略とは?   
行政がデジタルコンテンツ産業をバックアップ。「アジアのリーダー都市をめざす」福岡市の戦略とは?   全 6 枚 拡大写真

「グランツーリスモ」シリーズの生みの親として知られる、ポリフォニーデジタルの山内一典氏は12月1日、「福岡市ビジネスセミナー デジタルコンテンツ産業の新たな展開と国際競争力強化に向けた福岡市の戦略」のパネルディスカッションに出席し、新たに開設た福岡市の開発拠点を紹介しつつ、福岡から世界に向けてゲームを作る意義などについて議論しました。

■福岡市長は1974年生まれの「ファミコン世代」

福岡市は「福岡ゲーム産業振興機構」をはじめ、産官学で「ゲームによる街おこし」を進めている、日本でも珍しいユニークな自治体として知られています。高島宗一郎市長も登壇し、福岡市の成長戦略におけるデジタルコンテンツの位置づけについて紹介。ゲームのみならず、アニメや音楽、ファッション、食文化、歴史など、デジタルコンテンツを包括的に捉えて行政として支援を打ち出していく姿勢をアピールしました。

基調講演ではエヴァンゲリオン総合プロデューサーの大月俊倫氏が、少子高齢化とデジタル時代におけるアニメコンテンツの成長戦略と課題について講演。タイ情報・通信技術省ソフトウェア産業振興庁理事のウィワット・ウォンワラウィパット氏の招待講演も行われました。パネルディスカッションでは急遽欠席となったレベルファイブ日野晃博氏によるビデオメッセージも上映されました。

1974年生まれの「ファミコン世代」で、2010年11月に史上最年少の36歳で市長に当選した高島市長。冒頭の主催者挨拶では、福岡市を「人と環境と都市が調和のとれた、アジアのリーダー都市」にするというミッションを提示し、短期的には観光やコンベンション、中期的にはデジタルコンテンツによる都市戦略を推進すると紹介しました。その上でアジア・世界に向けた国際競争力の向上を図るために、「日本一のスタートアップ都市」にしたいと抱負を掲げ、企業誘致を呼びかけました。またゲーム産業についても、あらためて「福岡ゲーム産業振興機構」の取り組みを紹介し、行政の支援ぶりを示しました。

続いてタイのウォンワラウィパット氏は、デジタルコンテンツ産業に対する政府支援について示しました。2012年の市場予測規模はオンラインゲームが50億バーツ(125億円)、モバイル&アプリ市場が40億バーツ(100億円)で、急成長を続けており、外国企業に対してもさまざまな支援策があるとのこと。中でもBOI(タイ国投資委員会)による最大8年間の法人税免除や、ビザ取得特権、経済特区内でのタックスフリー地域などの施策を紹介。あわせて親日国で日本文化との親和性が高い点もアピールされました。氏もまた、留学して博士号を取得するなど、12年間日本に住んだそうです。

大月氏は少子高齢化とデジタル配信時代をむかえて、CDやビデオソフトといったパッケージの売り上げが低下する一方で、配信市場が伸び悩んでいる現状を紹介。国内市場では資金回収が難しい中で、国際化に向けた展望や共同作品制作・販売などが不可欠だと指摘しました。昨今では仏ジャパンエキスポや米アニメエキスポなどのコンベンションに、監督や声優を連れて参加したり、現地でライブを行うなどの活動も行っているそうです。その上で▽違法サイトや海賊版の根絶▽人材育成▽海外ネットワーク構築ーーの3点が今後の課題だとまとめました。

■それまで夜型だったスタッフも朝9時から仕事を開始!?

第二部のパネルディスカッションでは、▽椎木隆太氏(ディー・エル・イー代表取締役Founder & CEO)▽竹清仁氏(空気取締役)▽山内一典(ポリフォニー・デジタル代表取締役プレジデント)▽中島淳一郎(福岡市経済振興局長)ーーの4名がパネリストとして参加し、コーディネーターの後山泰一氏(ファクト代表取締役)の司会で、福岡市とデジタルコンテンツ産業をとりまく、様々な現状や課題点について議論が行われました。議論は多岐にわたりましたが、ここではゲーム業界の登壇者を中心に要旨をかいつまんでレポートします。
 
まず今回、急遽欠席となったレベルファイブ日野氏によるビデオメッセージが上映されました。日野氏はデジタルコンテンツがパッケージから配信ビジネスに大きく変化しつつある中で、自分たちも対応を真剣に考える時期に来ているとの認識を披露。その上で通信環境が整備される中、地方都市でゲーム制作をするメリットが非常に大きくなってきていることを実感すると語りました。一方で福岡市はコンパクトにまとまっているが故に、都市自体の専門性が低く、秋葉原や銀座、新宿、原宿、青山といったポイントがないと指摘。人が集まりやすくする工夫が必要だとコメントしました。

またポリフォニーデジタル山内氏は東日本大震災がきっかけとなり、2011年7月に福岡市で開発拠点「福岡アトリエ」を開設したと説明しました。山内氏はコミュニティの希薄さと、それに伴う孤独感や責任感が東京の良さで、特に若者にとっては魅力に映ると認めつつも、次第に「ここで孤独死するのは嫌だな」という漠然とした問題意識が生まれてきたと述懐。3.11で社会システムがダウンした中で、東京以外で根を生やせる場所を探した結果、福岡市が候補に挙がったとのことです。50名の開発スタッフと共に「メイフラワー号に乗船するつもり」で福岡市に向かいましたが、結果は想像以上だったとのこと。特にクオリティライフが向上したそうです。東京では夜型になりがちだったスタッフも、みな朝9時に出社して仕事をはじめ、アフターファイブも楽しんでいると説明されました。

一方で世界に向けたモノづくりについては、「僕にもマンガやアニメの血が流れている」と説明しました。自分たちでは欧州向けに作ったつもりでも、現地メディアから「日本的だ」と評されることもあるそうです。その上でディズニーやサッカー、さらには柔道などの例をあげ、「ドメスティックが極まるとインターナショナルになるのではないか」という考えを示しました。ちなみに「グランツーリスモ」シリーズでは「それが良かったか悪かったかは別の話だが」と前置きし、シリーズの最初から世界中のどの地域でも同じパッケージ、同じ内容、同じプロモーション戦略で統一していると語りました。ただし、毎回のように現地販社とは摩擦のタネになるそうです。

最後に福岡市については、「行政の人とこんなに話をしたのは初めて。東京では皆、各企業が孤立無援で戦っている」と高く評価し、「こうした場所で話をしているのも、これまでの人生では考えられないような変化」だと振り返りました。その一方で「日本人の若者のクリエイティビティが低下しているように感じる」と説明。アジアを市場として捉えることも重要だが、より多くの留学生を学校や企業に受け入れ、彼らの力をコンテンツづくりに生かすシステムを作り上げてほしいと要望しました。また「経済成長は大事だが、福岡市はそれだけでは語れない魅力を持っている」とコメントし、第二の東京にはならないでほしいと語りました。

クールジャパン戦略をはじめ、国でもコンテンツ産業に対してさまざまな支援策を打ち出していますが、今ひとつ効果が感じられないのも事実。特にゲームはマンガ・アニメなどの「先輩コンテンツ」と比較して、継子扱いを受けている印象もあります。その一方でゲームを皮切りに、デジタルコンテンツ産業全体を包括的に支援し、都市の成長戦略に打ち出していく福岡市の姿勢は、地方分権の流れも相まって、非常に興味深い取り組みだと言えそうです。高島市長は「これからは国ではなく都市の時代」と語りましたが、確かに国という単位は参加プレイヤーの利害関係が多すぎて、まとまりにくのかもしれません。

行政がデジタルコンテンツ産業をバックアップ。「アジアのリーダー都市をめざす」福岡市の戦略とは?

《小野憲史@INSIDE》

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