東京に戻ったその日から…
1970年代半ばのヒット歌謡曲「昔の名前で出ています」は、関西の酒場を転々とした女性が横浜に戻り、元彼(?)との再開を期して昔の名前で店に出ているというストーリーだ。開催中の東京モーターショーは、24年ぶりに東京に戻った。だからというわけではないが、往年の車名や社内コードを使った日本車が3台出ている。
まず、トヨタ自動車が富士重工業(スバル)と共同開発したスポーツカーの『86』(ハチロク)。トヨタブースでは、最も注目度の高い1台となっている。車名は、1983年から87年にかけて販売されたスポーティーカー『カローラレビン』と『スプリンタートレノ』の社内コード「AE86型」に由来する。
開発責任者の多田哲哉チーフエンジニアは、名称については最初から「86しかない」と、80年代の名車の復活に想いを込めた。かつてのAE86は、1.6リットルの高出力ツインカム(DOHC)エンジンを搭載し、ユーザーがチューニングやカスタマイズを楽しめるクルマだった。
◆ユーザーが育てるスポーツカーに
多田氏は、新型86についても、ユーザーが自分だけの1台を育てるというAE86の考え方を継承し、「お客様とともに進化する」を目指して開発したという。価格もエントリーモデルは200万円そこそこと予想されており、ハイテク装備で高価なスポーツカーには背を向けて「誰もが操る楽しさを味わえる」(多田氏)クルマを狙った。
共同開発先のスバルは『BRZ』として送り出すが、富士重工の吉永泰之社長も「敷居の高くない、手軽に楽しんでいただけるスポーツカーに仕上がった」と話す。いずれも2012年春に登場する。
ホンダは東京モーターショーのプレスデーに発表し、16日に発売するハイトミニバンの軽自動車を『N BOX』と命名した。パワートレインとプラットフォーム(車台)を全面刷新しており、このモデルだけでなく今後投入する軽シリーズは「N」で統一する。
1967年から72年にかけて販売し、市場投入直後に軽のベストセラーとなった『N360』のNを復活させた。ころがるように良く走ることから「エヌコロ」の愛称で親しまれた同モデルは、ホンダ初の量産乗用車であり、同社が2輪車メーカーから自動車メーカーに脱皮する一大転機を演出した。
◆国内市場を活性化したという共通点
ホンダは、N BOXに採用した新骨格のエンジンとトランスミッションを「アース・ドリーム・テクノロジー」シリーズとして軽以外の全モデルにも展開していく。伊東孝紳社長はモーターショーで、同シリーズにより「3年以内に各カテゴリーで燃費ナンバーワンを目指す」と宣言した。同社の自動車事業の原点であったN360への回帰で、全社的な意識改革も加速したい考えだ。
3台目の昔の名前は、ズバリそのものとなる三菱自動車工業の『ミラージュ』(1978〜2002年)だ。12年3月からタイの新工場で生産するグローバルコンパクトに、伝統のネーミングが復活する。日本では12年夏の発売となる。
初代ミラージュは、78年に国内の新販売チャンネルとして立ち上げた「カープラザ店」(03年閉鎖)の主力車種として開発された。2BOXの洗練されたデザインが人気を呼び、カープラザ店を成功に導いた。当時の資本提携先であった米クライスラーにもOEM供給されるなど、海外でも実績があり、ワールドカーを目指す新モデルと符号する点も多い。
3台に託す想いはそれぞれだが、国内市場の活性化につなげたいという共通点がある。元彼だけでなく、男女を問わない幅広い層にクルマの魅力をアピールする使命を担っている。