自動車の燃費戦争は激しさを増す一方だが、改良型エンジンとアイドルストップ機構を搭載し、燃費性能を大幅に高めた“第3のエコカー”が話題となっている。果たしてスペックから期待されるような燃費が出るかどうかを『アルトエコ』で試してみた。
昨年2011年9月、ダイハツがJC08モード燃費30km/リットルを達成した初の軽乗用車『ミライース』を発売するや、2か月後の11月にはスズキが同30.2km/リットルの『アルトエコ』を出してきた。
アルトエコの燃費値は非常に良好だが、JC08モードの測定時にかけられる負荷が軽くなる車重740kg以内に収めるため、燃料タンクの容量を20リットルに減らすなど、燃費で攻勢に出るダイハツに対抗するための“戦時急造艦”のようなイメージもあるモデルだ。
そのアルトエコのマスメディア向け試乗会が行われた。果たしてスペックから期待されるような燃費が出るかどうか、またエコカーとしてのドライバビリティはどうかなど、1時間半にわたって試してみた。
試乗会の拠点は東京ディズニーランド近くのホテルオークラ東京ベイ。
最初にエンジンがほぼ冷え切ったコールドスタートの状態から東京ディズニーランド界隈を短時間走った。冷間時こそ平均燃費計は10km/リットル少々というところだったが、パワートレインが暖まった後はぐんぐん燃費が伸びた。信号の少ない空いた道路を7.2km走った結果、平均燃費計の値は25.3km/リットルであった。
また、60km/h程度で巡航したときでは、スピードが落ちない範囲でデリケートにスロットルを操作すれば、瞬間燃費計で40km/リットルオーバーはキープできる。アルトエコの場合はスロットルを薄く踏んでダラダラと時間をかけて加速するより、目標車速まできちんと加速させ、巡航で燃費を稼いだほうがいい結果が残せそうであった。
次に、朝のラッシュが始まりかけた浦安市の市街路、および速度が20~30km/hに制限された住宅街を1時間ほど走ってみた。
アルトエコはアイドルストップ機構を持つものの、発進と停止を繰り返せばそれなりに燃費も悪化すると予測していたのだが、実際に走った結果は空いた道路をコールドスタート+短距離走行した時よりも良好で、平均燃費計は26.7km/リットルまで伸びた。
アルトエコの搭載エンジンはノーマル『アルト』の「K06A」ではなく、『MRワゴン』で初採用された新世代エンジン「R06A」を搭載しているが、このアルトエコではエネルギー効率を高めるためのチューニングが相当徹底しているようで、負荷がかかっているときは急速燃焼音と思しき「チリチリ」という音が聞こえてくる。
アクセルの踏み込みを緩めると燃料カット状態となり、そのチリチリ音が聞こえなくなる。エンジンブレーキを試してみたが、15km/hまで燃料カットが継続するようだ。信号や交通の変化を予測する見越し運転が決まれば、相当燃費を伸ばせそうに思われた。
また、JATCO製の超ワイドレンジCVTは、スロットルを踏み込んでも回転をむやみに上げるのではなく、低回転トルクを生かして加速させるようなセッティングとなっており、その点でも省燃費走行は非常にやりやすかった。
住宅街では20~30km/hという微低速走行を行なってみたが、その速度域ではスロットルワークでかなりの燃費差が出そうだった。アクセルを極薄に踏んでも、それより少しだけ多めに踏み込んでも車速維持はほどんど変わらないが、多め踏み込んだ状態では瞬間燃費計は20km/リットル台前半と凡庸な数値であるのに対し、前者では瞬間燃費計が40km/リットル近く出る。アルトエコの低速クルーズでのクセを理解すると、市街地や住宅地での燃費を飛躍的に伸ばせそうに思えた。
まっさらの新型車として華々しく登場したミライースに対し、間に合わせのようなイメージもあるアルトエコだが、実際には第3のエコカーとして、想像よりずっと熟成されたモデルに仕立てられていた。
経済性重視のユーザーに最適なモデルだが、エコドライブマニアにとってもレンタカーなどで燃費アタックをしてみたくなるのではないかと思わせるようなキャラクターだった。