21世紀型スキルをいかに育成するか…日本MSら実証研究

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班ごとに分かれて実験。そのプロセスをデジタルカメラで撮影する
班ごとに分かれて実験。そのプロセスをデジタルカメラで撮影する 全 11 枚 拡大写真

 21世紀型スキルが注目されている。OECDが行っている国際学力到達度テスト(PISA)でも近い将来、21世紀型スキルが測定される可能性が高いという。

 豊島区立千川中学校では全国に先駆けて、平成23年5月に「21世紀型スキルを育成する実証・研究事業」をスタートし、6月20日にその中間報告と公開授業を行った。

21世紀型スキルとは

 まず21世紀型スキルとは何かを確認しておこう。

 国際社会を生き抜くうえで必要とされるスキルのことで、その内容や評価方法を検討するATC21s(Assessment and Teaching of 21st Century Skills)もスタートしている。ATC21sが定義する21世紀型スキルとは次の4カテゴリ10項目となっている。

・思考の方法:(1)創造力とイノベーション (2)批判的思考、問題解決、意志決定 (3)学びの学習、メタ認知(認知プロセスに関する知識)
・仕事の方法:(4)コミュニケーション (5)コラボレーション
・仕事のツール:(6)情報リテラシー (7)情報通信技術(ICT)に関するリテラシー
・社会生活:(8)地域と国際社会での市民性 (9)人生とキャリア設計 (10)個人と社会における責任(文化に関する認識と対応)

本プロジェクトの全体像

 このプロジェクトは、日本マイクロソフト(以下、日本MS)からの、「公立中学校でICTを活用して子どもたちの21世紀型スキルを育成する実証・研究事業」への参加協力依頼を受けて、千川中学校が手をあげ選ばれたことからスタートした。

 プロジェクトの体制としては、全体のコーディネートを日本MSが行い、教員研修・授業づくりを東京大学大学院情報学の山内祐平准教授を中心に、静岡大学の益川弘如准教授、専修大学の望月俊男講師が行う。また、レノボ・ジャパンから、40台のタブレットPC(ThinkPad X220 Tablet)を、日本MSからはOfficeソフト、クラウドシステムを提供。富士電機ITソリューション、ゼッタテクノロジー、ゼッタリンクス、セカンドファクトリーからも、通信システム、ソフト等が提供されている。そのほか、日本女子大学の学生ボランティアも教材研究やまとめの作業に協力している。

 タブレットPCを導入する理由について、レノボの常務執行役員 ノートブック開発研究所担当の横田聡一氏は、「タブレットPCのメリットは(1)可動性、(2)3つの入力デバイス、(3)人間工学的に研究した使いやすさ、(4)安定した無線性能、(5)堅ろう性。(2)の3つの入力デバイスとは、キーボード、ペン入力、タッチスクリーンのこと。アイデアを書き出すときは手書き、考えをまとめるときはキーボード入力というように作業タイプによって使い分けが可能。また、(5)の少々乱雑に扱っても簡単に壊れない堅ろう性は授業での使用には不可欠」と説明する。

授業から学校行事のお知らせ、新聞づくりまで

 現在、千川中学校では、すべての科目でタブレットPCやデジタルカメラ、電子黒板等、ICTを使った授業が行われている。授業だけでなく、全教室に設置された大型の電子黒板で、学校行事のお知らせや給食の献立を配信するなど、「ICTの日常的な利用」を目指している。

 「当初は『21世紀型スキルって何?』『ICTを授業でどう使ったらいいの?』と、まったくの手探りの状態からのスタートだった」と話すのは同校の小林豊茂校長だ。しかし、ICTを使った授業にはどの子も目を輝かせて取り組む。「その姿に触発されて、教員たちも頑張らなければという思いで進めてきた」のだという。

 以前は授業でICTを活用するといえば、パソコン教室に移動しなければならなかったが、タブレットPCならいつでもどこでも、使いたい場所で使えるようになる。これだけでも授業スタイルが大きく変わったのだそうだ。また、思いがけない効果もあった。「今までの授業では、集中力が足りなかった子も、ICTを活用すると1時間ずっと集中できるようになった。また文章を書くことが苦手だった子も、ICTでビジュアルを使ってなら、発表や自己表現ができる。学習が能動的になったと感じます」と小林校長は語った。現在は全校で40台のタブレットPCしかないため、各学年・クラスで交代しての利用だが、これが1人1台になったら、もっと活用の幅が広がるのではと期待しているという。

 今回、クラウド環境も実現し、特に生徒会新聞の制作に威力を発揮している。

 クラウドによって、利用するソフトや作成したデータをインターネット上に保存し、生徒は家のパソコンからアクセスして、編集作業ができる。「従来は、紙面を埋めるのが精いっぱいだったが、自宅で好きな時間に原稿を作ることができ、その分編集会議では、どのような記事を載せるか、どのように伝えたらわかりやすいかといった、より深い議論ができるようになった」という。新聞づくりを通じて、コミュニケーション、コラボレーションといった21世紀型スキルの育成につながっているのだ。

今、存在しない職業のために学ぶ

 ところで、なぜ今21世紀型スキルなのか、教員研修や授業づくり全体の指導を行った、東京大学の山内准教授は、「米デューク大学のキャシー・デビッドソン氏が『2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう』と語り大きな話題になりました。日本でも同じ状況になると考えたときに、学校は、一体何を教えたらいいのでしょうか。まだない職業に役立つ知識など今わかるはずがありません。だからこそ、どんな時代にもどんな職業にも役立つスキルを教えることが必要です。それが21世紀型スキルなのです」と言う。

ICTを積極的に活用する生徒たち。しかし課題も

 今回、2つの公開授業が行われた。一つは「総合的な学習の時間」で、尾瀬ヶ原での移動教室の事後の発表の作業をインターネットやタブレットPCを活用して行った。

 もう1つは、理科の実験で、デジタル教科書を用いた導入、実験、結果発表が行われた。実験のプロセスをデジタルカメラで撮影し、タブレットPCに画像を取り込み、実験の結果や考察を手書きもキーボード入力もできるメモソフト「OneNote」に入力し、電子黒板に提示して発表する。生徒たちは、ICT機器の操作に十分に慣れていて、教師の補助なしで滞りなく操作が進められ、パソコンスキルの高さは実感した。

 しかし、班でディスカッションして考察をまとめる場面では、不慣れなようすもうかがえた。

 活発な意見が出ることのないまま、先生の「早く結果を入力するように」との声で入力担当の生徒だけが入力し、PCをもたない生徒は手持無沙汰にも見えた。

 このことに関して山内准教授はこう語る。「これまでの授業では、ディスカッションやプレゼンテーションが必要とされる場面はほとんどなかった。急に変われと言っても半年で、そこまでは難しい。環境ができてようやくスタートラインに立った。これから1年後、3年後を見てほしい」。

世界では国をあげての取組みが始まっている

 ICTを、どのような授業のどのタイミングで、どのような使い方をすれば効果的なのか、学習指導要領の範囲でどこまでやれるのか、授業で使いやすいPCとはどのようなものなのかなど、検討しなければならない課題は山積している。

 「21世紀型スキルの育成にはICT活用は不可欠だが、ICTを導入しただけではだめ。授業スタイルを変えないと。若手の先生を中心に教員養成にも力を入れて行きたい」と小林校長は言う。

 「現在は、1人1台PC時代に向けて、できるところから少しずつ導入している段階。教育に最適なデバイスはどのようなものか、生徒たちはどのようにICTを使うのか、授業をつぶさに観察することで、見えてきたことも多い。よい先生、よい授業との出会いは子どもの未来を変える力があると信じている。研究成果をよい教育環境づくりへ活かしたい」と語るのは日本MSの業務執行役員 文京ソリューション本部長の中川哲氏だ。

 世界では、イギリス、フィンランド、シンガポール、韓国、オーストラリア、ポルトガルなどが国をあげての取組みを始めている「21世紀型スキル」だが、日本ではまだあまり知られていない。教育のガラパゴス化は何としても避けたいところ。千川中学校の取組みが起爆剤になることに期待したい。

千川中学校の「21世紀型スキル育成」公開授業…日本MSらが実証研究

《石井 栄子》

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