11代目の『カローラ』は国内専用モデルとして『ヴィッツ』系のプラットホームを採用して登場した。格下の車種と同じプラットホームなのでどんなクルマに仕上がるのか乗る前には懸念も感じられたが、想像する以上にうまくまとまっていた。
「大人4人が安心・安全・快適に長距離を移動できるミニマムサイズのクルマ」を追求し、カローラとして初めてボディサイズをやや縮小したのが特徴。結果として視界の拡大や取り回しの改善など、扱いやすいクルマになっている。
問題は外観デザインだ。余りにも平凡でつまらない。年配のユーザー向けにはこうした無難なデザインが良いのかもしれないが、そのクルマに乗ることで実年齢より若く見えるようなデザインを、年配のユーザーも望んでいる。
パッケージングはしっかり煮詰められている。従来のカローラと同じホイールベースを確保し、フロントオーバーハングを切り詰めることなどによって全長を短くした。
全長が短くなっても、前後の居住空間やラゲッジスペースが小さくなるなどの影響は受けておらず、使い勝手の面では良くできた小型セダンである。
乗降性にも不満はなく、運転席に乗り込んだときの視界も、Aピラーの角度を立てることなどによって改善されている。そのことが外観デザインをつまらなくしている面もあるので微妙だが、カローラアクシオがカッコ良さよりも視界を確保すべきクルマであるのも確かだ。
1.3リッターエンジンの実力は70kW/121N・m。従来のモデルで廃止されていた1.3リッターが復活したのは、絶版になる『ベルタ』のユーザーも取り込もうという意図があるためだ。逆に今回のアクシオでは1.8リッターエンジンが廃止された。
70kWの動力性能は平凡だが、だからといって大きなネガがあるわけではない。1.3リッターエンジンでもそこそこ良く走る感じがあって、これでも良いかなという感じにさせる部分もある。
1.3リッターは法人向けを意識して設定されたもの。もし個人で1.3Xを買うなら、快適装備が充実するGエディションを選んだ方が良いだろう。
1.5Gの走りには余裕がある。1.5リッターエンジンの動力性能は80kW/136N・mで、このクラスのエンジンとして際立った数字ではないものの、比較的軽いボディも貢献して普通に良く走るクルマである。
しかも燃費はリッター20.0キロを達成していて、アイドリングストップ機構を装着するとリッター21.4キロになる。1.5リッタークラスでトップの低燃費車だ。
足回りの印象は、1.3Xがちょっとふわふわした感覚を覚えるシーンがあったのに対し、1.5Gはタイヤサイズが1インチ大きくなることも影響してか、より落ち着きが感じられた。
コーナーの立ち上がりなどでステアリングを戻し切らないうちにラフにアクセルを開けるといったシーンでも、適度にVSCが介入して挙動に乱れは生じなかった。
新型カローラがヴィッツ系のプラットホームを採用すると聞いて、実は試乗前には操縦安定性や振動・騒音などはどんなものかと大いに心配を感じていたのだが、実際に運転してみたらそれがほとんど取り越し苦労であることが良く分かった。
ヴィッツともアクアとも違う、カローラアクシオならではのレベルの操縦安定性や振動騒音性能が確保され、それなりの走りの質を感じることができたからだ。全車のフロントにスタビライザーが装着され、防音対策がしっかり施されたことなどが、走りの質感につながっている。
アクシオに注文を付けるなら、より高い環境性能だ。トヨタは長期戦略としてフルハイブリッド化を掲げているが、だとしたら今回のカローラにはなぜハイブリッド車を設定しなかったのかが疑問として残る。
アイドリングストップ機構にしても、1.5リッターエンジン搭載車にオプション設定されるだけで標準装備しているグレードがない。余りに腰の引けた対応である。
試乗車にはアイドリングストップ機構が装着されていた。それなりに良くできた機構で、停止と再始動の設定条件なども納得の行くものだった。それだけに、全車に標準装備して低コスト化を図り、更に多くの車種に広げていくという考えがあって良い。
なお、今回のカローラでは横滑り防止装置のVSC&TRCやSRSサイド&カーテンエアバッグなどを全車に標準装備するようになった。
横滑り防止装置の標準装備化は、近く法的な規制が始まるのを先取りした形である。SRSサイド&カーテンエアバッグは、トヨタがかつて全車標準装備化を宣言しながらその約束を一方的にホゴにしていたのを改めて標準装備に戻したものだが、今回のモデルで標準装備されたことは評価したい。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★★
松下宏|自動車評論家
1951年群馬県前橋市生まれ。自動車業界誌記者、クルマ雑誌編集者を経てフリーランサーに。税金、保険、諸費用など、クルマとお金に関係する経済的な話に強いことで知られる。ほぼ毎日、ネット上に日記を執筆中。