まだ止まらない需要の地殻変動
軽自動車がどんどん面白くなる。1970年代初頭の王者だったホンダが本気で商品開発に乗り出し、ダイハツ工業、スズキの2強の間に割って入る勢いだ。2013年の夏には日産自動車と三菱自動車工業による共同開発車の第1弾も登場する。競争が商品を高めるという好循環が期待できる。
今年1~10月の軽自動車販売は170万5400台(前年同期比36%増)となり、過去最高だった06年の202万台に迫る勢いだ。登録車を含む総市場に占める軽の比率は36.8%と、昨年1年間の比率から0.7ポイント拡大している。
10月には登録車が2か月続けて前年比でマイナスになったのとは対照的に、軽は13か月連続のプラスだった。登録車から軽へという新車需要の地殻変動が止まらずに進んでいる。この1年で投入されたダイハツの『ミライース』、ホンダの『N BOX』、スズキの新型『ワゴンR』というインパクトのある新モデルが地殻を揺さぶっているのだ。
登録車キラーに仕立てる
ホンダが11月1日に発売した『N-ONE』は、登録車からのダウンサイジング移行を強く意識し、安全装備では同社の看板モデルである『フィット』を上回る内容とした。全面改良まで1年弱となったフィットを食ってもいいという割り切りだ。ユーザーが登録車から軽への移行をためらう要因を分析し、ひとつずつつぶしていったこのモデルは、登録車キラーの先兵となろう。
マーケットでは、メーカー間の勢力関係にも変動が起きている。1~10月の軽販売シェアは、昨年12月にNシリーズを投入したホンダが、前年の8.5%から一気に15.5%に伸長させ、逆に2強は少しずつシェアを落とした。まだ、2強とのシェア差は2倍前後あるものの、15年までにさらにスポーツタイプを含み5つの新モデルを計画しているホンダが投じた波紋は大きい。
07年から首位にあるダイハツの伊奈功一社長は「ダイハツらしいクルマを投入し続けることで、トップの座は堅持する」と、社内を引き締めるかのように話す。今夏には『コペン』の生産を中止したばかりだが、14年には新たなスポーツカーを復活させる計画も表明している。
厳しい競争がいい商品を生む
2位に落ちて久しいスズキも「量と質を追っていきたい。気力、体力、知力のすべてを結集し、目の色を変えないと(トップは)奪還できない」(鈴木修会長兼社長)と、巻き返しを期している。『アルト』やワゴンRで軽市場を活性化させてきた自負があるだけに、このままずるずると後退するわけにはいかないところだ。
日産と三菱は、11年に共同で設立した軽の企画会社が開発した初のモデルを来夏に、三菱は次期『ekワゴン』、日産は同『オッティ』として投入する。生産を担当する三菱の益子修社長は「計画通りに進んでおり、いいクルマが出せる」と自信を示す。
ユーザーにとっては商品選択の幅がさらに広がる。燃費性能や実用性だけでなく、デザインを重視するもの、走りに長けたスポーツカーなど、軽ではかつてないバリエーションの広がりが進む。まさに「厳しい競争がいい商品を生む」(鈴木修会長)という展開だ。