ホンダがマスメディア、ジャーナリストなどを対象に近未来の実用技術を公開した「ホンダミーティング」。今回の公開技術のなかでも注目度が高かったものとして挙げられるのが、北米向けの新型『アコード』をベースとした2モーター式の試作ストロングハイブリッドカーだ。
自動車工学用語ふうに「フルHEV(フルヘヴ)」方式とホンダが呼んでいるこの試作車は、今年北米に投入したプラグインハイブリッドカーと基本的に同じ構造。トヨタ『プリウス』、『カムリハイブリッド』などでも使われている、一部領域では熱効率がディーゼルなみに高い2リットル直4アトキンソンサイクルエンジン、発電機、駆動用モーターからなる、いわゆる2モーターハイブリッドだ。バッテリーはホンダとGSユアサの合弁会社であるブルーエナジー社製のリチウムイオン電池。
機構的な特徴は、エンジンを発電に用いるシリーズハイブリッドが基本となっていることだろう。モーターの定格出力は120kW(163馬力)と強力で、2リットルエンジン(100kW)が発電機を回して得られた電力とバッテリーの電力の両方で駆動する。シリーズハイブリッドとの違いはエンジンパワーでも走行可能なこと。巡航時にはエンジンと駆動系の間に設けられたクラッチがつながり、適宜モーターアシストを受けながら直結状態でクルマを走らせることもできるのだ。
トヨタのハイブリッドシステム「THSII」との最大の違いは、変速機構を持たないこと。ホンダは変速機構について「電気式CVT」という名称を使っているが、これは半ばシャレ。発電量、バッテリー電力量などを統合して出力制御を行うことをそう表現しているのだ。
THSIIの場合、動力分割機構によってエンジンのパワーを駆動と発電に自由に振り分けることができる。ホンダのフルHEVでは、エンジンパワーは普段はすべて発電に使われ、動力に使われるのはクラッチがつながっているときだけだ。
アトキンソンサイクルエンジンの特徴のひとつとして、効率はディーゼルに遜色ないくらい高いが、効率のいい範囲が狭いということがある。その効率の高いところを上手く使うという点では、明らかにTHSIIのほうが柔軟性が高い。
ホンダが動力分割機構や物理変速機によって効率をアップさせるというアプローチを取らなかったのは、トヨタの特許の壁があったからかと思いきや、もっと積極的な理由があるのだという。
「たしかにエンジンの効率が良いところをなるべく外さないということを最優先するなら、動力分割機構は良い方式です。ただ、遊星ギアは動力伝達や制御に伴うエネルギーロスが意外に大きいという弱点もあるんです。シリーズ方式と直結ドライブの併用では、そのロスはほとんど出ません。トータルでみればエネルギー効率で上回ることができる見通しとなったことから、この方式にしました」
本田技術研究所のエンジニアはこう説明する。実は今秋、三菱自動車が発売したSUVのプラグインハイブリッドカー『アウトランダーPHEV』も、ホンダのフルHEVと同じ原理のシステムを搭載している。開発を手がけたエンジニアの見解もホンダとほぼ同じであった。
これまでストロングハイブリッドの分野では圧倒的なトップランナーであったトヨタTHSII。ホンダのフルHEVがどのような性能を示すのか、またユーザーに認知されてTHSIIの対抗馬として育っていくことができるのか、今後に注視したい。