ホンダの技術発表イベント「ホンダミーティング」会場には今年登場したアメリカ市場向けの新型『アコード』をベースとしたフルHEV(フルヘヴ。モーターパワーでEV走行可能なストロングハイブリッド)車の試作車も用意されており、試乗することができたのでレポートする。
試乗車はすでに複数のジャーナリストによるテストドライブがなされており、ホットスタート状態であったため、メインスイッチをONにしてもエンジンは停止したまま。スロットルペダルを踏み込むと、エンジンはかからず小さなモーター音とともに推定1.6トン台の大柄なボディが軽々と動き出す。
少し勢い良く加速しようとハーフスロットル手前まで踏み込んだ時点でエンジンがかかった。システム構成自体はアメリカで発売されたアコードPHEV(プラグインハイブリッド)と共通だが、リチウムイオン電池の搭載量ははるかに少なく、バッテリー出力も小さい。PHEVがアクセルをかなり深く踏み込んでもEVのようにモーターパワーだけで加速するわけではないようだった。
加速力自体はなかなかのもの。体感的には同日試乗したアメリカ市場向けの新型アコードの2.5リットル直4モデル(136kW)より力強く、レスポンスははるかに優れていた。中低速域を得意とする電気モーターの特性が生かされていると感じられた。
PHEVと似ていたのはドライブフィールと騒音・振動だった。ホンダのフルHEVシステムは変速機がなく、エンジンのトルクがドライブシャフトに伝わるのは巡航時に動力接続用のクラッチが作動したときのみ。加速中にエンジンが発電機を回しはじめても、エンジン音が聞こえてくるだけでモーターによる加速にはまったく変化が起きない。
また、エンジンとドライブシャフトが切り離されていることが振動の発生を抑制しているのもPHEVと同じであった。FWD(前輪駆動車)の場合、とくに加速時にパワートレインからの振動がステアリングに伝わってくるという弱点がある。アコードフルHEVの場合、クルーズ時以外は駆動をほとんどモーターのみで行うため、振動レベルもEVに近いものがあった。
高速域でのクルーズやそこからの再加速、回生ブレーキなどをじっくり試す機会はなかった。そのなかで印象的だったのは、『フィットEV』にも使われている電動サーボブレーキのナチュラルな利き。停止寸前までモーターの回生による抗力だけで減速するという仕組みながら、ブレーキペダルの感触、減速フィール、踏力の微調整への追従性など、まるでディスクブレーキ車を運転しているような自然さであった。
ちなみにアコードフルHEVのモーター出力は120kW。バッテリーのエネルギー受け入れ性には限界があるためすべてを利用できるわけではないであろうが、車両の運動エネルギーをかなりの割合で回生することが可能なのは確かだろう。同日公開された『フィット』クラス向けのデュアルクラッチトランスミッション+20kW電気モーターの組み合わせと比べても、実効エネルギー効率はかなり高いものになりそうだ。
ちなみに新開発のフルHEVシステムの名称は、PHEVと同じ「i-MMD」だが、サブネームに「SPORT HYBRID」の文字が加えられていた。2013年には日本市場にも投入される予定のアコードフルHEVがどういう仕立てで登場するのか、楽しみなところである。