過去5年で最も明るい賀詞交歓会に
年初恒例となっている自動車工業4団体による賀詞交歓会は、この産業が置かれた時々の状況を会場の雰囲気から不思議なほどに感じ取れる場所だ。7日に開かれた今年、ホテル・オークラの会場は、笑顔とともに安堵、希望、期待といった出席者の心もちが総和となった雰囲気を醸していた。
リーマン・ショックを経た2009年以降のここ5年では、もっとも明るくかつ活気に溢れていた。そうした感想は、継続的にこの会に顔を出している自動車業界関係者の多くからも聞かれた。
09年と10年は自動車関連各社の業績急降下を受けての開催であり、賀詞交歓会も緊縮予算となったのがありあり。主催団体やその会員企業関係者には、会場での飲食はできるだけ控えるようにとのお達しもあったと聞いた。でなくとも世界の自動車市場の回復は遅く、陽気に飲んで語ろうという雰囲気ではなかった。
11年の交換会は前年春から進んだ超円高が、リーマン・ショックからの立ち直りを図る日本企業をはねのける重圧となっていた。そして昨12年は、東日本大震災とタイの洪水からの復興途上にあった。
4社で今期1000億円の増益効果も
トヨタ自動車の豊田章男社長が昨年暮れ、やや自虐的にこの間の4年を振り返っていた。「今年(12年)こそは平穏無事に」と願っていたが、中国の事業環境の悪化に見舞われ、そうはいかなかった。豊田社長の平穏無事とは「毎日普通に会社に通えて、毎日生産・販売ができることだけ」なのだが、09年の社長就任以来、そうした年は「1度もなかった」と苦笑した。同年に就任したホンダの伊東孝紳社長も、ほぼ同じ思いだろう。
中国問題があるものの、今年13年の賀詞交歓会が09年以降では圧倒的な明るさに満ちたのは、何といっても円高の是正が進んできたからだ。11年7月からほぼ一貫して1ドル70円台に張り付いた超円高圏からようやく脱しつつある。その是正に連動して業績の上方修正が見込まれ、自動車業界各社の株価も回復が進んでいる。
自動車メーカーのうち、円ドル変動の影響が大きいトヨタ、日産自動車、ホンダ、富士重工業(スバル)の連結営業利益への「為替感応度」は、4社合計で約790億円(1円の変動で1年間の影響)。この第4四半期(1~3月期)のレートが仮に1ドル85円になると、各社の想定よりほぼ5円の円安となり、第4四半期だけで4社合わせて1000億円近い利益押し上げ効果が期待できる。
4年の経験と知恵を総動員する時が
実際には各社ベースでの為替予約の状況や採用している会計基準の違いもあって、そう単純ではない。だが、日本の製造業が抱える「6重苦」のなかで、最も改善へのインパクトが大きくかつ即効性があるのは円高の是正だ。ホンダの経理部門をあずかる池史彦・取締役専務執行役員は「前年同期との比較で売上レート差や(海外子会社業績の)為替換算差などは決算上、為替変動がすぐに反映される」という。
もっとも、このところの円高是正は、安倍新政権の発足などムード先行の不安がぬぐえない。池専務は「急な変動であり、慎重にならざるを得ない」という。自工会の豊田会長も「安定的に推移することが重要」と、レートの推移を冷静に見ている。
とはいえ、自動車産業の最大のトゲがいま抜けようとしているのも現実だ。浮かれることなく、ここ4年の苦闘で得た経験と知恵を総動員し、世界市場で反転攻勢に乗り出す時が近づいて来た。