日産の新型軽 デイズ ルークス…デザインから読み解く全方位戦略

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日産・デイズ ルークス
日産・デイズ ルークス 全 6 枚 拡大写真

3月25日、日産は新しいスーパーハイト系軽自動車の車名を『デイズ ルークス(DAYZ ROOX)』とすると発表し、同時に外観画像を公開した。発売が来年初頭とまだかなり先なので、画像はCGで描かれたレンダリングが1点だけ。しかしこの1点が多くを語ってくれている。

既報のように、このデイズ ルークスは日産と三菱の合弁会社であるNMKVが企画し、開発しているもの。6月に発売予定の『デイズ(DAYZ)』に続く協業による新世代軽自動車の第2弾であり、『パレット』の姉妹車としてスズキからOEM供給されてきた現行『ルークス』の後継車だ。

デイズ ルークスのラインナップについて日産はまだ何も言及していないが、精悍な顔付きから見て、公開されたCGはいわゆるカスタム系のハイウェイスターに違いない。フロントグリルは『ノート』や『セレナ』、『エルグランド』を彷彿とさせるデザイン。フラットなグリル底辺から左右のヘッドランプの下へラインを跳ね上げたのが特徴で、もちろん弟分のデイズ・ハイウェイスターともイメージを一貫させている。

三菱との協業効果がデザインにも波及

これまで日産の軽自動車は三菱とスズキからOEM供給を受けてきたので、日産らしいデザイン・アイデンティティを表現するのが難しかった。そこを解消し、他の日産車と共通するイメージをデイズとデイズ ルークスに醸し出せたのは、合弁会社を設立した何よりの効用だ。グリルがヘッドランプに食い込んだような(もしくはグリルとヘッドランプを噛み合わせたような)処理は、ノートに共通するもの。グリルのワイド感とヘッドランプの精悍な眼付きを両立させたデザインである。

グリルからヘッドランプにかけてラウンドした面で構成しつつ、その勢いをサイドの彫りの深いキャラクターラインにつなげたのも特徴的。ラウンド面の下にはバンパーコーナーを張り出させ、短いフロントオーバーハングのなかで立体感豊かなフロントマスクを実現した。ホンダ『N BOX』もグリル/ヘッドランプをラウンドさせているが、デイズ ルークスの個性は線の勢いや面の立体感を活かしたスポーティさにあると言えるだろう。

ボディサイドに目を移せば、すべてのピラーをブラックアウトし、そこに水平基調のフローティングルーフが載るのは現行ルークス(=パレット)と同じ。ベルトラインも水平基調だが、ただ真っ直ぐに通すのではなく、Aピラーの根元でいったん下げ、リヤドアの途中で跳ね上げる、という変化を付けている。

フロントフェンダーの峰を盛り上げ、その稜線を仮想的にベルトライン後端につなげつつ、乗員の視界に関わるところのベルトラインは一段下げるテーマのようだ。フロントフェンダーとベルトライン後端を結ぶ仮想線、そしてその下のキャラクターラインが、ボクシーな基本フォルムに伸びやかさを与えていることに注目したい。

スライドドア採用もCGにスライドレールが描かれていない理由

リヤドアはもちろんスライド式。公表されたCGはボディ左側面を描いたものだが、当然ながらN BOXや『スペーシア』と同様に、右側のリヤドアもスライドだろう。興味深いのはこのCGにドアのスライドレールが描かれていないことだ。

まだ“イメージCG”だから省略した…のでは、おそらくない。三菱の現行『eKワゴン』のスライドドアは、レールがエクステリアに露出しないインナーレール方式。これは初代『RVR』から三菱がこだわってきた技術であり、デイズ ルークスにそれが採用される可能性は高い。

CGをよく見ると、ドア下からリヤフェンダーへ跳ね上がるラインがある。デザイナーとしては、このラインがスライドレールで分断されるのは避けたいはず。逆に言えば、インナーレール方式だからこそこのラインを入れた、と解釈できるのだ。

激戦区で日産が選んだ戦略

ダイハツの初代『タント』が03年に開拓したスーパーハイト系は、今や軽市場の主力カテゴリーのひとつ。後発のN BOXが大ヒットし、スズキはパレット改めスペーシアを送り出した。タントも年末までにはモデルチェンジするらしい。間違いなく激戦区ではあるが、少なくともそれぞれのベース車を見る限り、巧く棲み分けているようにも思える。

現行タントはホノボノとした表情。クルマ臭いスポーティさなど一切ないことが、子育てママたちの心を惹き付ける。パレットはサイドウインドウがタントより寝ていたり、ベルトラインがウエッジしているなど、逆にお父さん好みのスポーティさを持っていたが、スペーシアはそこを抑えて中性的なテイストに改めた。お母さんに「いいね!」と言ってもらいつつ、お父さんにとっても受け入れやすいというのがスペーシアのデザインの狙いだ。

N BOXはグリルを高く置いた堂々とした顔付きや“ハコ感”を強調したフォルムで、「男の道具」とも言うべきイメージを醸し出す。この道具感によって従来は軽自動車に関心を寄せなかった男性やアクティブ女子を魅了したことが、N BOXのヒットの一因ではないだろうか。

では、デイズ ルークスはどうか?

ハイウェイスターがスポーティなのは当たり前だが、ベース車との形状の違いはフロントまわりに限られるはず。彫りの深いキャラクターラインやドア下から跳ね上がるラインはベース車も共通だろう。とすれば、ライバルたちよりスポーティな位置づけということになる。

ちなみにデイズを見ると、ベース車はグリル底辺の跳ね上げがハイウェイスターより控え目で、グリルとヘッドランプの食い込み処理もなく、大きめのヘッドランプがネアカで健康的な眼付き。しかし『ワゴンR』や『ムーヴ』より線の使い方が伸びやかで、スポーティな表情だ。デイズ ルークスのベース車も同じような方向でライバルと差異化するのではないか?

タントやスペーシアより男性ターゲットの比重が強いが、道具感のN BOXとも狙いが違う。広さが商品性の決め手となるスーパーハイト系でありながら、使い勝手だけでなく、クルマ好きの心をくすぐるスポーティさを忘れない。たった1点だけのCG画像から、デイズ ルークスのそんなキャラクターが見えてくる。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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