【マクラーレン MP4-12C 試乗】F1マシンの伝統に則って打ち立てたロードゴーイングカーの新基準…金子浩久

試乗記 輸入車
マクラーレン MP4-12C
マクラーレン MP4-12C 全 12 枚 拡大写真

マクラーレン MP4-12Cには驚かされた。

よく知られているように、MP4-12Cは現役でF1グランプリを戦っているマクラーレン(の関連会社)がつくり始めたスーパーカーだ。3.8リットルV8ツインターボから625馬力ものハイパワーを発生し、0-100km/h加速3.3秒、最高速度は330km/hにも達するという性能も超絶的である。

シャシーは軽く強固なカーボンファイバー製のモノコックタブ。そこに、アルミニウム製サブフレームを介してサスペンションやパワートレインなどを取り付けてある。

スペックから想像して、ガチガチの乗り心地や重いハンドルを半ば条件反射的に覚悟していたが、まったくそれは杞憂に終わった。フェラーリでもポルシェでも、最近のスーパーカーは乗りにくいことはない。しかし、MP4-12Cはそれを超えていて、積極的に乗り心地がいいのだ。

路面の凹凸や細かな突起などからの振動や衝撃をサスペンションが受け止めて吸収しているのだけれども、それが一切ボディには伝わってこない。このクルマに乗ると、今まで他のクルマはそうした振動や衝撃をサスペンションだけで吸収し切れずにボディも一緒に動いていたことがよくわかる。

ハンドルも軽い。軽いけれども、路面の様子を正確に手の平に伝え、クルマの重量と運動量をダイレクトに意識させてくれる。ただ軽いだけでなく、サスペンションはよく動き、フラットな姿勢を保ちながらクルマは機敏に向きを変え続ける。これも、強固なシャシーと、4輪のダンパーを連関させて電子制御する「プロアクティブ・シャシーコントロール」のおかげだ。

強固なシャシーとよく動くサスペンションは、乗り心地の快適性だけでなく、タイヤの路面への追従性をも大幅に高めている。これまでも、このふたつを備えた優れたクルマはあったが、MP4-12Cは次元が違う。

ひと昔前だったらレーシングカーのような超高性能を備えているのに、快適かつ簡単に
誰でもがそれを発揮することができるようになった。

MP4-12Cは大変に優れた“機械”であるが、同時にとても魅力ある“商品”にも仕上がっている。それはインテリアの新しさに現れている。スーパースポーツカーに限らず、クルマのインテリアというものはドライバーが直接に触れて操作するインターフェイスだから、混乱を生じさせないように“常識”や“文法”に則っている。しかし、それに従うだけでは退屈に陥ってしまう。気分を高揚させてくれたり、他のクルマとは違う特別な何かを持っていなくては顧客の喜びと驚きを喚び起こすことはできない。

マクラーレンはそうした常識や文法に囚われ、思考停止に陥ることを忌み嫌ったようだ。今まで誰もが解決済みとしてスルーしていたことを吟味し直している。たとえば、エアコンの吹きだし口と操作部分はダッシュボードにではなく、左右ドアハンドルにある。カーナビのモニター画面は縦長に配置してある。

ドアハンドルにあった方がドライバーとパッセンジャー別々に操作するのに使いやすいだろうし、縦長に配置した方が理にかなってもいる。

それらは、乗員を少しでも車体中央寄りに座らせ、重量バランスを向上させるという目的のためでもあるのだが、そうだったとしても常識に囚われずに新しい道を見出そうという気概が感じられて頼もしくなってしまう。

その気概というのは、フェラーリやランボルギーニ、アストンマーチンなどの老舗たちに対する対抗心の現れであり、既存のマーケットへの新参者である自らの出自を旗色鮮明にしたことだろう。それは、チームの創始者であるブルース・マクラーレン亡き後、チームを再興し、ロードカーをも生み出せるマクラーレン帝国を築き上げたロン・デニスの依って立つアイデンティティに違いない。

そう考えると、MP4-12Cは1990年代初頭に少しだけ造られた「F1」を除いて、スーパースポーツカー造りの歴史と経験の浅さを逆手に取って成功しているとも言えるが、反対に1981年シーズン用F1マシン「MP4/1」の伝統に則っているとも解釈できるのである。いずれにせよ、ここにひとつの新しいスタンダードを備えた傑作が誕生したことは間違いない。2700万円は高くない。

パッケージング:★★★★★
インテリア・居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

金子浩久|モータリングライター
1961年、東京生まれ。主な著書に、『10年10万キロストーリー 1~4』 『セナと日本人』『地球自動車旅行』『ニッポン・ミニ・ストーリー』『レクサスのジレンマ』『力説自動車』(共著)など。

《金子浩久》

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