ボルボのCセグメント全車の主査を務めるホーカン・エイブラハムソン氏が来日したのを機に、V40の開発の狙いなどを聞いた。
エイブラハムソン氏は入社以来、R&D、プロダクトデザイン、プロダクトプランニングなど多方面にわたる業務を担当し、現在は、V40向けの新しいプログラムを含むボルボのCセグメント全車の主査である。
---:エイブラハムソンさんは1978年の入社以来、ボルボ一筋で過ごしてこられました。あなたをそこまで惹きつける、ボルボの魅力は何なのでしょう。
エイブラハムソン:私は基本的にクルマが大好きなのです(笑)。一定期間与えられた自分の仕事が終わる頃、そろそろ違うことをやってみたいなと思うと、常に社内に新しい仕事やチャンスがあったのです。つまり、自分の挑戦課題が終わらない環境なのです。特に開発の課題として、新しいものを作るということになると、それまで市場に存在していなかったコンセプトや、全く新しいものを考えてなければいけませんので、とてもチャレンジングで楽しみでした。
---:具体的に一番チャレンジングだった仕事は何ですか。
エイブラハムソン:やはり自分が最初に手掛けた仕事です。最初ですから、経験も何もない、全く何も知らない状態で開発するということでしたので、一番チャレンジングでした。具体的には94年から97年に担当した、C70コンバーチブル/クーペです。一方で、実際のタスクの大きさという客観的な意味でのチャレンジでいえば、今回のV40のように、世界中で競合がとても激しい市場に向けて、開発を行うということが最大のチャレンジとして挙げられると思います。
---:このV40はいま仰ったように競合の激しい市場で売っていくクルマです。そこで、開発するにあたって最も重要視したことは何でしょう。
エイブラハムソン:大きく2つあり、まずは安全性です。規制の意味でも、市場の要望という意味でも、安全性をボルボとして最高水準のものをやらなければいけませんでした。そしてデザインです。それも単にいいデザインということではなく、飛び切りいいデザインにしなければいけません。この2つの相反するところを、ひとつのクルマで実現するためのバランスが一番大事なことでした。
例えばデザインのみを重視すると、ボンネットも車高も低くしスタイリッシュなイメージに出来ます。しかし、歩行者保護の観点からすると、ボンネットは高くならざるを得ません。そこで、歩行者エアバッグを導入することによってボンネットを低くすることが出来たのです。ただし、これは新しい技術で、どこにも実証されていませんでしたので、新しい技術を信じてコンセプトに取り入れていかなければなりませんでした。
---: V40のデザインには、サイドなどにP1800のデザインエレメントが使われており、クロスカントリーではフロントグリルでも使われています。なぜそこまでP1800にこだわったのでしょうか。
エイブラハムソン:P1800はボルボにとってアイコン的な意味を持つデザインキューです。デザイン部の中でもV40に限らず常に何とかしてP1800のデザインキューを表現したいと思っています。V40でキーエレメントとなっているP1800フックというものは、P1800のBピラーあたりから上に向かってキャラクターラインがフックするモチーフで、ワイド感やエッジ感を感じさせ、このようなデザイン意匠を持っているクルマはありませんでした。どのクルマでも再現できることが理想ですが、今回初めてV40のデザイン意匠として取り入れることが出来ました。フロントからの直線基調のスピーディなデザインから、フックにいたるところで非常に筋肉質に感じさせるデザインに仕上がっています。
V40クロスカントリーのフロントグリルは、偶然というか、たまたまラッキーにも実現できたものです(笑)。ノーマルのV40は低くスリムでワイドなスタンスを取っています。そこからクロスカントリーにするために、車高を上げなければなりません。そこで、(グリルを)クロームフレームにして一度車高を上げてみたところ、たまたまP1800のデザインモチーフにあてはまったのです。本当にたまたまでした(笑)。
常に我々のデザイン部ではP1800が頭にあります。どこかでP1800からデザインのインスピレーションを取り入れたいと常にマインドセットとして持っていたからこそ、あてはまったのでしょうね。
---:最後に昨年のパリショーでデビューし、5月7日に日本でも発表されたV40クロスカントリーのユーザー像について教えてください。
エイブラハムソン:標準のV40は、郊外に住んでいて、郊外から都会へ出かけて行く、都会でスタイリッシュに乗りたいというユーザーイメージです。V40クロスカントリーは、逆に都会に住んでいて、週末などにアウトドアとかハイキングに行く、もしくは、実際には行かないのだが、行きたいという憧れがあるユーザーです。そのアウトドアイメージをちょっと控えめに主張したいユーザーがターゲットと考えています。もちろん、これはわれわれの勝手なイメージですけれど。