日本では現在VWの『ジェッタ』自体が販売されていないが、世界的には良く売れているモデルであり、中でもアメリカやヨーロッパではハイブリッド車も販売している。ヨーロッパで試乗した『ジェッタ ハイブリッド』についてレポートしたい。
アメリカではセダンの人気が高く、しかもハイブリッド車が広く受け入れられている。フォルクスワーゲンがアメリカ市場にジェッタのハイブリッド車を投入したのはごく自然な戦略展開である。
逆にゴルフは売れるのにジェッタは売れない日本では、ジェッタそのものが廃止されてしまうのも、また当然のことである。
ハイブリッドシステムは、1.4リッターのTSI(直噴ターボ)仕様のエンジンがベース。『ゴルフ』(VII)で搭載されたのと同じ新世代のエンジンで、直噴ターボ仕様によって110kW/250Nmのパワー&トルクを発生する。
エンジンと7速DSGのトランスミッションの中間に、モーターなどハイブリッドモジュールを搭載する1モーター2クラッチ方式のパラレルハイブリッドだ。
電気モーターは20kW/150N・mのパワー&トルクを発生し、エンジンとモーター合わせたハイブリッドシステムとしては170hp(125kw)/250Nmを発生する。リチウムイオン電池の搭載量1.1kW/hだからプリウスよりは少し少ない。燃費は、4.1リッター/100kmというから、単純に換算すると日本式にはリッター当たり24.4kmいうことになる。
外観デザインはフロントのグリル回りやエンブレムなどに違いが設けられている程度で、ぱっと見ただけだと普通のジェッタと変わらない感じだが、良く見るとハイブリッド車であることが分かる。
インテリアも基本はジェッタのものながら、パワーメーターを備えるなどメーターパネルが異なるほか、カーナビ用の液晶画面がエネルギー・フロー・ディスプレーになる点などに違いがある。
内装ではほかに、シート地やデコラティブパネルなどがハイブリッド車に専用のものとされていた。
発進時にはモーターを使って走り出す。いかにもハイブリッド車らしいハイブリッド車らしいスムーズな発進だ。ボタンを押してEVモードを選択すると、2kmくらいまでの距離を時速70kmまでの速度で走ることが可能という。
逆に思い切りアクセルを踏み込んで、エンジンと電気モーターの性能を足し算して走ると、0-100km/h加速を8.6秒でこなすというから、けっこうスポーティな実力を持つハイブリッド車である。
クルージング中に急な加速を試したときには、アクセルの踏み込みに対して多少の反応の後れをあったものの、目立ったギクシャク感を生じさせることなく加速していく。7速DSGによるダイレクト感がプリウスなどとの違いで、ヨーロッパで作られたハイブリッド車らしい走行感覚である。
プリウスが燃費志向をはっきりさせたハイブリッド車であるのに対し、ジェッタ・ハイブリッドは格段にパワフルなエンジンを搭載するとともに、DSGとの組み合わせによる走りのダイレクト感など、スポーティな志向も合わせ持つのが特徴だ。
走行中のエンジンの停止とエネルギー回生や再始動など、エネルギーのマネジメントはプリウスには及ばないものの十分に洗練されたレベルにある。モニターの表示を見ていないとどんな状態で走っているのかが分からなくなるくらいのスムーズさだった。
走行中の静粛性や乗り心地など、快適性の面でも満足できる仕上がりになっていて、完成度の高さは相当なレベルにあった。それもプリウスのような燃費重視の設定ではなく、スポーティな走りと燃費をバランスさせたのがヨーロッパ車らしい部分である。
これなら日本でも売れるのでは、と思わせるような一面もあったが、ゴルフVIをベースにしたジェッタで作られたハイブリッド車なので、ゴルフVIIが登場する今となってはタイミングを失した感じである。導入の予定はないという。
また価格もけっこう高い。ヨーロッパでの価格はコンフォートラインが31,300ユーロで、充実装備のハイラインは33,500ユーロとのことだった。円安が進んだ今では単純計算するとベース車でも400万円を超える。そのことも含めると、日本への導入はますます厳しいものになる。
絶対的な燃費性能ではプリウスに及ばないものの、走りの楽しさなども含めて総合的な魅力では互角。アメリカでもユーザーの志向でどちらを選ぶかというような選択になっているようだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
松下宏|自動車評論家
1951年群馬県前橋市生まれ。自動車業界誌記者、クルマ雑誌編集者を経てフリーランサーに。税金、保険、諸費用など、クルマとお金に関係する経済的な話に強いことで知られる。ほぼ毎日、ネット上に日記を執筆中。