年間来館者の3割を会期中に動員
猛暑とゲリラ豪雨に翻弄された夏も終わりが近づいた。先週、今夏の宿題と定めていた取材のため、愛知県長久手市のトヨタ博物館を訪ねた。夏の企画展として7回目を数え、人気も定着しているという「はたらく自動車」展を見るためだ。子どもたちに「クルマを好きになってもらいたい」という同博物館学芸員の発案で始まったものだが、「クルマ離れ」といった根深いテーマにも対処する地道な取組みとなっていた。
この企画展の会期は、小学生の夏休みを挟む7月上旬から9月下旬にかけての2か月余りで、今年は9月23日まで開かれている。中心となる館内での車両展示のほか、毎週末には屋外での車両実演、さらに模型の工作イベントなども併催されている。学校が夏休みの間は、小学生の入館料は無料(通常は400円)としていることも人気を呼んでいる。
トヨタ博物館は国内外の1世紀余りにおよぶ貴重な車両をコレクションし、世界の「自動車の歴史」を常設展示している。毎年20万人を超える来館者があり、2012年の実績は22万人、うち「はたらく自動車」の会期中には6万7000人が訪れた。2か月余りの同展の開催期間に、年間来館者の3割が集中するようになっている。
出発は、クルマを好きになってもらいたい
2006年の初回展示から企画してきた藤井麻希トヨタ博物館学芸員(教育普及担当)は、「子どもさんたちにクルマを好きになってもらいたいというのが出発点。始める以前は子ども向けの企画展がなく、博物館に親しんでもらう狙いもあった」と振り返る。
「はたらく自動車」にスポットを当てたのは、子どもがとっつきやすいからで「そこからクルマへの関心を広げてもらえたら」と考えた。もっとも、当初は試行錯誤の連続だった。毎年6台ほどのクルマを展示しているが、最初はその車両の借り受けから苦労した。会期は2か月余りであり、提供する側からは、はたらくクルマを長期間休ますことに難色を示すケースが少なくなかったという。
車両の選択での失敗もあった。さまざまなクルマを紹介したいと、ある年にパトカーを外したら、来館者が激減したことも。「パトカーは、はたらく自動車のシンボルなんですね」と藤井さんは苦笑する。今では車両提供者との信頼関係も構築され、今年のタクシーは、東京の日本交通から寄贈されたものだ。
「クルマ離れ」にも立ち向かうアプローチ
クルマへの関心を高めてもらう工夫も年を追って充実させてきた。09年からは、消防車やパトカー、レッカー車などによる実演を敷地内で行うようにした。また、10年からは館内でのパネル展示と連動させたワークブック(「調査隊ノート」など)を支給し、クイズ形式の学習で理解を深める仕組みとした。見学後の調査によると「ワークブックの導入で、理解度は飛躍的に高まった」(藤井さん)そうだ。
来館者アンケートによると、「はたらく自動車」を夏休みの自由研究のテーマにする子どもたちも増えているという。会場では未来の自動車ユーザー候補者たちが、歓声をあげながら駆け回っていた。微力であったとしても、このイベントが若年層の「クルマ離れ」にも立ち向かう、重要なアプローチのひとつと実感した。