【木暮祐一のモバイルウォッチ】第37回 3キャリアがiPhone発売!勝負は地方で決まる!?

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会場に用意された「iPhone5c」にdocomoの文字が
会場に用意された「iPhone5c」にdocomoの文字が 全 3 枚 拡大写真

 iPhoneの新シリーズ「iPhone 5s」「iPhone 5c」が正式に発表された。すでに主要メディアがその概要を報じているところだが、中でも話題になっているのは「NTTドコモでも取扱いを始める」という点であろう。9月20日から全国の主要ドコモ取扱店で販売が開始され、これによりわが国の主要3キャリアでiPhoneを利用することができるようになる。今さらNTTドコモが取り扱うことに意味があるのか、加入者離れを食い止める有効策となるのかといった話題が散見される。

 NTTドコモによるiPhone取扱によって、わが国のモバイルサービス競争環境、さらにスマートフォン活用環境にどのような変化が起きてくるのだろうか。

 同型でサービス内容も基本的に遜色がない端末が各通信キャリアで販売されるということは、ユーザーにとって比較対象となるのは「通信品質」とその「利用料金」のバランスだ。この2点に関しては、今後各通信キャリア同士、ますます競争が激化していくことが想定される。

 まず通信料金に関してだが、じつは本稿を執筆している時点(11日午後)で、各通信キャリアのiPhone 5cの予約受付日時は公表されたものの、利用料金や販売価格が未定となったままだ。通信キャリア同士、お互いに他社の手の内を探りながらギリギリのところまで検討を続けるということなのだろう。じつは現行モデルのiPhone 5発売時もソフトバンクとKDDIの絶妙な駆け引きが演じられた。ソフトバンクが料金プラン等を発表後、KDDIは同額のパケット定額通信料ながらテザリングを解禁することで優位性をアピールし差別化を図ろうとした。ソフトバンクはこのあと苦渋の決断を下し、テザリングを追従したという経緯がある。

 通信品質に関しては各通信キャリアに割り当てられた周波数帯域と、それら帯域の中で運用されている通信方式、および加入者数(データ通信を利用するユーザー数)に左右される。今回わが国で市販される新型iPhoneでは、新たに800MHz帯のLTE方式をサポートすることが判明し、NTTドコモとKDDIがその恩恵を受けることになったものの、両通信キャリアが展開している1.5GHz帯のLTE方式には対応しないことも分かった。800MHz帯のLTE方式ではKDDIがエリア、通信速度で有利とされているが、これはその周波数と通信方式に対応したスマートフォンを利用しているユーザー数が少ないからであり、新型iPhone発売後にKDDIがこの通信品質をどこまで維持できるかが注目すべきポイントとなる。

 一方、NTTドコモはすでに多くの加入者を抱える中で通信ネットワークを運用しており、とくに都心部でのLTE方式(Xi)の混雑ぶりが目に余る。同じエリア内にユーザーが多いほど通信速度は低下し接続率も落ちるためだ。加入者数が減少しているとはいえ、それでもわが国最大の通信キャリアだけに、人口が集中するエリアにおいてはiPhoneの取扱いで混雑にさらなる拍車がかかる懸念もあり、混雑の解消が急務とされる。NTTドコモは東名阪エリアで1.7GHz帯の割当も受けているが、新型iPhoneでも対応するこの1.7GHz帯でのLTEエリア充実が鍵となってくる。なお、地方都市ではNTTドコモのネットワークは快適に利用できている。後述するが、これは地方エリアにおいてまだスマートフォンが十分に普及していないことが要因である。

 今回のiPhone発表では、これらLTE方式のネットワークばかりに目が向くが、LTE方式は現状ではデータ通信専用のため、日常利用で音声通話も多いユーザーはiPhone対応の3G方式通信エリアも考慮する必要がある。いずれにしても、頻繁に利用する場所で電波状態(通信エリア)や混雑度合いがどのような状態にあるのかを見極めて、通信キャリアを選ぶべきである。また今後各通信キャリアがどれだけの投資をしてエリアを拡充させていくかにも注目が集まるだろう。既存のエリア充実度や混雑度、今後のエリア拡張の見込みを考慮した上で、バランスが取れた通信料金であるかどうかをユーザーが判断していくことになる。

 次に、NTTドコモによるiPhone取扱によって、ユーザーのスマートフォン利活用はどう変化していくのだろう。

 筆者はNTTドコモのiPhone販売開始が地方エリアでのスマートフォン普及率の底上げと、そうした地域でのICT利活用のさらなる加速につながるものと期待している。総務省が公表している「平成24年通信利用動向調査」を見ても、スマートフォンを用いたインターネット利用率では地域差が見受けられる。利用率トップの神奈川県が38.5%、2位の東京都37.8%などに対し、最下位の秋田県は21.8%、続く高知県、岩手県、青森県が22.0%など、半数近くの県が20%台にとどまっている。しかし実際にそれぞれの地方に足を運んでみると、その差はデータ以上のものであることを痛感させられるはずだ。公共交通機関の乗客が利用している端末をチェックしてみると、都市部と地方都市では状況は大きく異なる。都市部ではすでに大半のユーザーがスマートフォンを利用しているが、地方エリアではスマートフォンの普及はまだまだこれからといった感じなのだ。

 こうした地方エリアのユーザーに話を聞くと、通話主体の利用においてNTTドコモの通信品質への信頼が厚いことが分かる。またスマートフォンへの買い替えもきっかけをつかめていないような状況だ。NTTドコモでもこれまでAndroid OSを搭載したスマートフォンを発売してきているが、地方エリアではやや敷居が高い存在だったのだろう。一方でiPhoneへの関心はそれなりに高く「他の通信キャリアに乗り換えてまでiPhoneを欲しいとは思わなかったが、NTTドコモでiPhoneが出るなら購入したい」というユーザーが、じつは潜在的にかなりいるのではないかと感じるのである。こうした層を中心に従来型携帯電話からiPhoneへの乗り換えが急速に進むことで、地方エリアのスマートフォン普及率を飛躍的に高めるのではないかと考える。

 スマートフォンが十分に普及していけば、スマートフォンを活用した様々なサービスの利用にも拍車がかかる。すなわち地方エリアでのICT利活用のさらなる推進に期待が持てる。じつはICTの利活用というのは、公共インフラが十分に整備された都市部よりも、整備が行き届いていない地方エリアのほうでメリットを活かせるはずなのだが、ユーザー側のアクセス端末となるスマートフォンの普及が遅れているためにこれまで有効に活用されてこなかった一面がある。しかも、教育分野や医療分野におけるタブレット等の活用の例に見るように、ICT利活用のためのソリューションの中にはiOSでの利用を想定して作られたものも少なくない。NTTドコモがiPhoneを取り扱うということは、いずれiPadも取り扱うに違いないことになろうから、法人ビジネスにも強いNTTドコモがiOS端末を扱っていくことで社会でのICT利活用シーンは一段と活性化していくものと思われる。

 これまで独自端末や独自サービスで差別化を図ることで顧客獲得合戦を繰り広げてきたわが国の通信キャリアにとっては、独自サービスを入れ込む余地がないiPhoneの全通信キャリア導入により本来の通信インフラでの勝負を迫られることになった。しかしこれはユーザーから見れば、ようやく健全な競争環境が整ったといえる。これまで通信キャリア同士が加入者数やMNP数といった数値目標に振り回され、消費者を置き去りにした競争を繰り広げてきたわけだが、新型iPhoneの発売がこうした販売方法の見直しも含むキャリア施策の転換点となることを期待したいものだ。

《木暮祐一@RBB TODAY》

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