気仙沼線BRT、専用道の「効果」は?…所定時刻と実際の運行時刻の差

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運行開始から1年が経過した気仙沼線BRT。線路敷地を活用したバス専用道を走る。
運行開始から1年が経過した気仙沼線BRT。線路敷地を活用したバス専用道を走る。 全 8 枚 拡大写真

東日本大震災の津波で甚大な被害が発生した気仙沼線柳津(宮城県登米市)~気仙沼(気仙沼市)間55.3kmは、バス高速輸送システム(BRT)を導入した「気仙沼線BRT」として再スタートを切ってから1年が経過した。

気仙沼線BRTは、鉄道復旧までの暫定策という位置づけで運行されているJR東日本の代行バス。気仙沼線に並行している一般道を走行するが、一部の区間では津波による路盤の流失を免れた線路敷地を改築したバス専用道を走る。2012年8月20日から運行を開始した。

バス専用道は文字通りバス専用の道路で、一般道と異なり渋滞が発生することはなく、定時運転率も向上する。また、気仙沼線BRTの専用道は急カーブや急勾配が少ない鉄道の敷地を転用しており、安定した速度で運行しやすいといった利点もある。

気仙沼線BRTの所要時間は、専用道が約2kmしかなかった2012年8月暫定開業の時点で柳津~気仙沼間が1時間57分~2時間3分だった。その後、専用道区間の増加とともに所要時間も少しずつ短縮され、今年9月5日のダイヤ改正では1時間46~56分に。最も遅い便でも2時間を切った。

これに対して震災前の気仙沼線の所要時間は、各駅停車の普通列車が柳津~気仙沼間で1時間21~34分。依然として20~30分程度の差があるものの、鉄道にかなり近づいたといえる。比較的利用者が多い本吉~気仙沼間に限ってみれば、普通列車が33~39分だったのに対し、気仙沼線BRTは41~42分。ほぼ鉄道並みの水準に収まっている。

ただし、この所要時間はあくまで所定ダイヤの話。専用道が増えたとはいえ、依然として一般道に乗り入れる区間も存在し、所定ダイヤ通りの定時運転を完全に実施することは難しいはずだ。そこで9月8・9日の2日間、現地を訪れて所定時刻と実際の運行時刻の差を調べてみた。

通勤通学ラッシュの時間帯から外れた平日(9日)の日中と日曜(8日)は、全体的にほぼ定刻に近い時刻で運転されていた。ただ、9日に全区間乗車した気仙沼8時56分発の柳津行きは、終点に近い陸前戸倉駅と陸前横山駅を発車した時点で5分の遅れを出していた。一般道での信号待ちなどが蓄積し、遅れが徐々に拡大したようだ。

ただ、全駅の発車時刻をつぶさに見ていくと、一般道区間の陸前小泉駅では2分の遅れだったのに対し、その次の専用道内にある蔵内駅では遅れが1分に縮小している。専用道は遅れを大きく拡大しないという点で一定の効果が見られる。

一方、平日の朝ラッシュ時はバスの遅れが目立った。陸前階上駅を7時台に発車する気仙沼行きバスを実地で確認したところ、いずれも5分以上の遅れ。同駅を7時29分に発車する気仙沼行きに至っては、実際には11分遅れの7時40分に発車した。

後で運転手に聞いたところ、朝ラッシュ時の気仙沼行きは一般道区間の大谷海岸駅付近の交差点で渋滞に巻き込まれ、遅れが発生しやすいという。駅に設置されている運行情報を見ても、本吉駅から大谷海岸駅の間を走っている気仙沼行きは「定刻」の表示が出ているのに対し、その先を走るバスは「遅れ10分」の表示が出ていた。

この遅れは、大谷海岸駅付近の線路敷地を専用道に改築すれば解消できるはずだ。しかし、このあたりの線路敷地は津波で壊滅的な打撃を被っている。しかも線路敷地は海岸にかなり近く、そのまま専用道を整備するのは津波対策の観点からも難しい。かといって内陸寄りの新ルートで専用道を整備するとなれば新たな用地買収が必要となり、膨大な費用がかかる。「津波の被害を免れた線路敷地を活用した専用道」を基本とする気仙沼線BRTの難しさが、ここに凝縮されている。

一方、陸前階上駅から乗車した7時48分発の気仙沼行きは8分遅れの7時56分に発車し、気仙沼市の中心部である南気仙沼駅(市立病院入口)付近ではのろのろ運転となったが、それでも遅れが大きく拡大することはなく、不動の沢駅に到着した時点では6分遅れに縮小していた。5日のダイヤ改正で平日朝ラッシュ時のみ所定の走行時間を延ばした影響もあるが、陸前階上駅から松岩駅の少し手前まで専用道を走行し、並行する国道45号の渋滞を回避した効果が大きい。

陸前階上駅で気仙沼行きのバスを待っていた高校生は「(専用道が増えて)遅れが減ったような気がします」と話していた。課題はいくつか残っているものの、少しずつ改善が進んでいるといえるだろう。

《草町義和》

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