【トヨタ クラウンマジェスタ 試乗】良くも悪くもクラウンと変わりなし、試乗燃費は“追い風参考”で14.7km/リットル…井元康一郎

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トヨタ クラウン マジェスタ
トヨタ クラウン マジェスタ 全 12 枚 拡大写真

9月にフルモデルチェンジされたトヨタ自動車のプレステージセダン『クラウンマジェスタ』に試乗する機会を得たのでリポートする。

◆従来までは別デザインが与えられていたが、新型は現行クラウンのストレッチ版に

クラウンマジェスタの初代モデルは20年以上前の1991年、『クラウン』のV型8気筒エンジン搭載モデルが分化する格好でデビューした。代によっては6気筒モデルも存在したが、販売上の主力はV8で、“気筒数が多いほど偉い”という観念が支配的だった当時の世相に合わせた商品だった。販売は常に苦戦気味で、上の価格帯のトップモデル『セルシオ』と下のクラスのクラウンに挟撃され、存在感を示すことができないまま今日に至っている。

今回登場した第5世代の新型マジェスタは、クラウンと大きく異るデザインを与えられてきた歴代モデルから一転、内外装ともクラウンファミリーそのものという仕立てで登場した。ホイールベースはクラウン比75mm増の2925mm、全長も同じく75mm増の4970mmで、全幅はクラウンと同じ1800mm。ボディのフォルムはストレッチを意識させないナチュラルな仕上がりで、クルマをよほどジロジロ見る人でもないかぎり、一見して普通のクラウンと識別するのは難しかろう。

変わり映えのしない印象はインテリアも同じだ。インパネをはじめ内装の造形はクラウンとほぼ同一で、配色も似たようなもの。クラウンが高所得階層のファミリーカー的存在であるのに対し、マジェスタは社用やハイヤーとして使われるケースが多く、リアシートにヒーターが仕込まれるなど、後席のアメニティが充実。また先進安全装備にも一部違いがあるが、大きな違いはない。もちろん各部はプレステージセダンとして十分な作りこみがなされているが、こちらもエクステリアと同様、後席の足元空間は広いが特別感は薄い。

◆ロングホイールベースの恩恵で直進性やコーナリングの落ち着きは良好

実際に走り始めてみると、乗り心地や騒音・振動のレベルは現行クラウンとほとんど変わらない。路上の突起を踏んだ時の突き上げ感やアンジュレーション(路面のうねり)を拾った時の乗り心地の滑らかさに関しては、足回りの仕上げが丁寧だった旧型にくらべてやや退歩した感がある。

コクピットのデザインやシート設計、ステアリングの形状、フロントガラスやサイドガラスを通した風景の見え方など、ドライビングフォメーションに関する部分がクラウンと同じであるため、乗り味も現行クラウンとほとんど変わるところがない。ただ、ホイールベースが長くなったことが奏功してか、首都高速を走った時の直進性やコーナリングの落ち着きは良好で、高級車としてはややピックアップが過剰なセッティングのクラウンより好感が持てた。

◆新型にも受け継がれたパワーのゆとり

パワートレインはレクサス『GS450h』と基本的に同じ、3.5リットルV6直噴+2モーターハイブリッド。エンジンとバッテリーが同時に発揮できるパワーは最大で343馬力と、出力的には全長5m未満のサルーンとしては相当に強力な部類だ。

首都高速道路みなとみらいランプのETCゲートを低速で通過後、本線車道への合流時に全開加速を試みたが、2秒もしないうちに本線のクルマの流れに乗れるほどのダッシュ力である。もともとこのパワーユニットは燃費はそこそこにパワーを追い求めたもので、改良前のシステムを積む旧型クラウンハイブリッドは、とりわけ中間加速域で輸入車の4~5リットル級エンジン搭載モデルと互角の、暴力的ともいえる加速力を発揮していた。そのパワーのゆとりは新型マジェスタにきっちり受け継がれている。

が、ショーファードリブン(運転手付きの運用)がメインというモデルの性格に、このパワーユニットが似合っているかどうかという点は話が別だ。第4世代までのマジェスタに4リットルオーバーのV8が搭載されていたのは、低回転域でゆとりのトルクを得るには排気量の大きなエンジンが必要だったからで、エンジン回転数の制約が小さいハイブリッドシステムの搭載が前提であれば、とくに速度レンジの低い日本においては大排気量はあまり意味がない。

後席の乗り心地を考慮したマイルドな加速が求められるマジェスタでは、クラウン用の2.5リットルハイブリッドのほうがスペック的にもエネルギー効率的にもずっと向いている。直列4気筒の持つ騒音・振動は、エンジンと車内の隔壁にもう1枚、薄い遮音材をかませば十分に遮断できるだろう。

また、エンジンマウントの仕様のためか、もともとちょっと荒れたサウンドを持つ3.5リットル直噴V6の騒音が旧型より若干派手に車内に伝わってくる傾向があり、騒音面のネガは小さいだろう。3.5リットルハイブリッドはマジェスタより、むしろクラウンアスリートのトップモデルあたりに搭載したほうが、性格的にずっと合っているように思われた。

◆試乗ショートトリップでの燃費表示は14.7km/リットル

横浜・みなとみらい地区の一般道7.1km、首都高速道路3.5kmの、計10.6kmを走った結果、オンボードコンピュータの燃費表示は14.7km/リットルとなった。平均車速23.5km/hと比較的順調なドライブながら、大出力パワーユニットを積んだプレステージサルーンとしては良好な部類に属する数値といえるが、バッテリーレベルゲージが出発前には下から5目盛目だったのに対して帰着時は3目盛で、そのぶんは割り引いて考える必要があろう。

総じてクラウンマジェスタは、スターティングプライスが600万円台前半のハイパワーサルーンとしては、性能的には必要十分なものに仕上がっていたる。が、これがマジェスタである必要があったかといえば疑問符が残る。クラウンロングといった名前のほうがよほどしっくりくるというものだ。

トヨタのある幹部によれば、現在トヨタは守旧的なラインナップを革新的なものにシフトしていくための取り組みを行っているという。数年後には、まったく新しいコンセプトのプレステージモデルが出てくる可能性もある。新型マジェスタはそれまで間をもたせる“セットアッパー”的なモデルなのかもしれない。

ネガティブ要素ばかりではない。これまでマジェスタは一般ユーザーにほとんど縁がなく、社用車やハイヤーとしての需要がメインだったが、新型は見かけがクラウンとほとんど変わることがないだけに、クラウンが欲しいがモアパワー、あるいはモアスペースがほしいというユーザーにとっては、パーソナルカーとして選びやすくなったとも言える。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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