日本初 ペンシルロケットを探せ! スクラップから見つかった例も

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国立科学博物館に収蔵のペンシルロケット実機。元は鉄スクラップとして廃棄され、個人が所蔵していたもの。
国立科学博物館に収蔵のペンシルロケット実機。元は鉄スクラップとして廃棄され、個人が所蔵していたもの。 全 4 枚 拡大写真

鳥取県米子市で2013年10月9日から11日まで開催された第57回宇宙科学技術連合講演会にて、JAXA宇宙科学研究所 阪本成一教授が「ペンシルロケットの発掘と鑑定」テーマで講演した。

日本初のロケット実験機『ペンシルロケット』は、現在では来歴を知らない個人の所有物となっている可能性があるという。『ペンシルロケット』は、1955年4月に当時の東京大学生産技術研究所で糸川英夫博士が水平発射実験を行った、日本の宇宙開発の始まりとなるロケット試験機だ。ペンシルロケットには、全長23センチの「標準型ペンシル」、全長が30センチの「ペンシル300」、標準型を重ねた「2段式ペンシル」などいくつかのバリエーションがある。大きさだけでなく、推薬の量によって「ハーフ」「フル」といった種別があり、先端部分の材質も鉄、ジュラルミン、真鍮など異なる材料が使われている。

例えば方式『Full-25D』といえば推薬を全量、2ピース構造で尾翼の取りつけ角度が5度、先端はジェラルミン製を意味する。全部で200機ほど製作され、150機ほどが実際に発射された。水槽を使った実験も行われ、地上実験後に多くは回収されているはずなのだという。

標準型ペンシル実機は、国立科学博物館、日産荻窪工場跡(日産自動車航空宇宙部門は、前身である富士精密工業時代にペンシルロケット製作にあたった。現在はIHIエアロスペース)に展示されていた。米ワシントンD.C.、スミソニアン博物館にも展示されているとの情報があったが、阪本教授が問い合わせたところ、レプリカであることが確認された。

数多く製作されたものの、所在が知れないペンシルロケットはどこへ行ってしまったのか。情報が得られたのは、2010年に東京・上野の科学博物館で開催された「空と宇宙展」でのことだった。同館に展示されているペンシルロケットはもともと個人所有物だったものだというのだ。阪本教授に情報を寄せた廣川賢二氏の父親は1950年代、60年代に東京都内で鉄スクラップ問屋を営んでおり、東大生産研から出た廃棄物の中からペンシルロケット数機を見つけて保存。1機は科学博物館へ寄贈されたが、他にも個人の所有物として保管していた。その後、廣川氏からペンシルロケット1機が神奈川県相模原市のJAXA相模原キャンパス展示室に寄贈され、現在も公開展示されている。

ほかにも、同様の経緯で個人の手に渡ったペンシルロケットがあるかもしれない。そう考えた阪本教授は、日本宇宙開発史の重要な実物資料を「何とかまとめて収集しなくては、散逸してしまう」と危機意識を抱いた。2012年、糸川英夫博士生誕100年の記念の年に合わせ、所在の確認と鑑定を行った。

その結果、得られたペンシルロケットのほとんどは東大生産研の元職員、宇宙科学研究所のOBらが個人的に所蔵していたものであることがわかった。実験で小学校の敷地を利用した際に寄贈された例もある。機体に書き込まれた数字などについて、所有者が口頭で得た情報のまま間違って記憶していた例も多数あった。例えば、機体に「6」という数字があっても「6号機」を意味するのではなく、記録と照合すると26回目の飛翔実験に使われたものであったとのことだ。

糸川博士自身の証言も記録と突き合わせると間違っていることがあり、記録の確認にはかなりの手間を要したという。長らく模型と思われて保存されてきたものもあり、JAXA内之浦宇宙科学資料館収蔵の1機は、展示と保存のためにメッキ処理が行われているという。このため表面の番号などは確認できない状態となっているが、尾翼のひねりなど模型で再現されるとは考えにくい特徴を備えている。

こうした確認作業を経て、現在17機のペンシルロケット実機の所在が確認された。しかし、それでも全200機の1割程度である。阪本教授は、他にもまだ埋もれたペンシルロケットがあると考えている。入手した個人の家族はその来歴を知らない、という可能性もある。実際に発射実験を経た機体については「汚いやつが本物に近い」と使用の痕跡を留めている可能性が高いということだ。阪本教授は、日本の宇宙開発史ゆかりの地、東京都国分寺市、千葉県、秋田県周辺でそうした情報を持っている場合は、ぜひ知らせてほしいと呼び掛けている。ご存じの方は、JAXA 宇宙科学研究所ホームページ記載の連絡先まで。

《秋山 文野》

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