【インタビュー】PHEV前提がアウトランダー“メタルコクーン”の造形…三菱自動車 デザイン本部 松岡亮介氏

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三菱自動車 デザイン本部 松岡亮介氏
三菱自動車 デザイン本部 松岡亮介氏 全 18 枚 拡大写真

三菱が2009年の東京モーターショーで披露した『PX-MiEV』は、今にして思えば新型『アウトランダー』を予告するコンセプトカーだった。

PXのPはプラグイン・ハイブリッド、Xはクロスオーバーの頭文字で、ボディサイズはほぼアウトランダー級。当時から三菱は次世代アウトランダーにPHEVを搭載することを示唆していたのだ。

◆PHEVありきのデザイン

新型のエクステリア・デザインを手掛けた松岡亮介さんは、実はPX-MiEVのエクステリアも担当した。「PX-MiEVのときから、PHEVを前提にデザインを考えていた」という。

しかし、電気駆動で走るPHEVのクリーンなイメージに対し、クロスオーバーSUVにはアウトドアで泥にまみれるようなイメージもある。そこにデザイナーとして矛盾は感じなかったのだろうか?

「最近はクロスオーバーSUVもいろいろで、それこそクーペとSUVのクロスオーバーもある。そのなかでアウトランダーが目指すべきは、従来のSUVのようなゴツゴツしたデザインではなく、シンプルで、クリーンで、だけどどこか力強いデザイン。それによってPHEVのクロスオーバーという新しい価値を提案したい、と考えました」

「お客様の満足度という意味でも、アドオン的なオーバーフェンダーを付けて、ぶつけても交換できますよ…ということより、先進感や高級感、上質感を狙うべきだろう。そう決めて、デザイン開発をスタートしています」

◆デザインテーマは”メタルコクーン”

PX-MiEVで松岡氏がキーワードにしたのが”シンプル”、”セイフティ”、”ソリッド”。それを発展させて、アウトランダーでは”メタルコクーン”をエクステリアのデザインテーマにした。「繭(コクーン)のように乗員を優しく包み、シンプルな造形でありながらも安心感がある。金属の硬質さと人に対する優しさを両立しよう」という主旨だ。

先代アウトランダーは後ろ下がりのルーフラインやクッキリと張り出したフェンダー・フレアなどで、SUVのスポーティさや力強さを訴求していた。それに対して新型は水平基調のプロポーションになり、ボディサイドはまさにコクーンのように滑らかな連続面で構成。そのぶんSUVらしさは、少し薄れたと言えるだろう。これは「デザインテイストを定めるにあたって、やはりPHEVの存在が大きかった」からだが、松岡さんはさらにこう告げる。

「先代を出した当時とは、時代にニーズが変わってきたと思う。SUVを乗用車として使うお客様が増えてきたし、環境性能を追求するなかでは空力が大事なので、フェンダーを張り出してカッコいいという時代ではなくなってきた。スムーズに風を流すという意味でも、シンプル&クリーンな方向に行くべきだろう。それに、シンプル&クリーンなデザインのほうがお客様に飽きられず、長く使っていただけると思います」

◆乗る人の気持ちに応えるシンプルさ

シンプル指向はカーデザインの世界の最新トレンドだ。人々の生活がどんどん複雑になっている今、クルマがそれをさらに複雑にしてはいけない。人とクルマの関係をシンプルにするために、まずはクルマのカタチをシンプルにしよう。欧米のデザイナーにインタビューして、そんな思いを感じる機会が増えてきた。松岡さんも同じような気持ちでアウトランダーをデザインしたという。

「PHEVは複雑なシステムで、乗り手に与える情報量が多い。だからこそシンプルなデザインにしたいと考えた。ベルトラインひとつでも、強くウエッジさせたりカーブさせたりせず、なるべく水平に引こう、と。Aピラーについても、空力を考えれば寝かせたほうが有利だが、運転しやすい視界を重視してあえて少し立たせています。乗る人に余計な神経を使わせない、ということを意識してデザインしました」

「デザイナーがスケッチを描くとき、勢いのあるカーブを引くように手が動きがち。コンパクトカーなら、そういうカーブを多用して元気なデザインにするのもよいのですが、今回は狙いが違う。それなりに売価も高いクルマなので、シンプル&クリーンななかに車格感を表現したい。そこでフロント側にテンション(曲率のピーク)を持たせつつ、リヤに向かって水平に抜けていくというカーブを使っています」

例えばフロントフェンダーからベルトラインへつながるラインは、フェンダーのところにテンションがあり、そこから後ろは水平に抜けていく。ルーフラインも同様のカーブだ。「水平に抜くことで、クルマが長く見える。実際の外形寸法は先代とほとんど同じなのに、『大きくなった?』と言われることが多いのは、我々の狙い通りです」と松岡さん。

◆プロテクト感の新表現

シンプルなフォルムとはいえ、フロントの顔付きは個性的だ。ヘッドランプから降りてくるラインがS字カーブを描きながらバンパー下端へと至る。これはPX-MiEVから受け継ぐ特徴でもある。

「フロントフェンダーの立体がフロントのフェイシアを左右から包み込み、プロテクト感を表現している。プロテクター的なフェンダーがあり、フェイシアがある、ということを示すために、そのラインで立体を区切った」と松岡さん。従来的なSUVのゴツゴツ感を否定しながらも、プロテクト感=安全感を表現する。”メタルコクーン”のテーマが新鮮で個性的な造形を生み出したのだ。

「ヘッドランプは、その下に少しバンパー面を残すことで、バンパーに守られているイメージを表現した。フォグランプもあえてバンパーとフラッシュサーフェスにせず、しっかりとしたベゼルを設けて、ぶつかってもレンズが割れないようなイメージにしました。三菱が作るSUVとして、そういう配慮は大事だと思っています」

◆PHEVならではの先進感

フロントのアッパーグリルはガソリン車もPHEVも2本のクロームバーを持つが、ガソリン車がスリーダイヤに合わせてバーを折り曲げている一方、PHEVのバーは2本とも直線だ。これによって、三菱SUVのフラッグシップである『パジェロ』との距離感の違いを表現している。

「ガソリン車のグリルはパジェロと関連づけたデザイン。PHEVはそこから少し離すために、先進感を狙って差異化しました」と松岡さん。もともとPHEVを意識したデザインとはいえ、ガソリン車もあるので、それとの違いをどこで見せるかは大事なテーマ。PHEVはバンパー開口部にクロームを追加すると共に、ボディの裾回りをボディ共色にした。

「ガソリン車は裾回りをブラックアウトし、ボディがリフトアップされたように見せることでSUV感を演出した。それに対してPHEVは、ボディ共色の裾回りでより都会的かつ乗用車ライクにしています」

リヤコンビランプも、PHEVは専用デザインだ。どちらもアウターレンズは透明だが、ガソリン車が白熱球と赤いインナーレンズの組み合わせなのに対し、PHEVはLEDを光源とし、非点灯時に赤い色が見えないフルクリアのデザイン。点灯時はLEDの赤い光をアクリルで導光してライン状に光らせると共に、インナーレンズに施したドット状のパターンでその光を拡散させる。

「ライン発光に加えて、半透明の面があるような光り方もする。これをライトカーテンと呼んでいます」と松岡さん。PHEVならではの先進感表現は、こうしたディテールにまで及んでいるのである。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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