オープンハードウェアの時代が来ている。モビリティもその例外ではない。ハードウェアの製造・開発はこれからどのように変化するか、そしてイノベーションはいかにして実現するか。あらゆる製造業に問われている課題といえる。
MITメディアラボ所長伊藤穣一氏が「イノベーション、ネットワークそしてクルマの未来」をテーマに考えを語った。
自動車が好例だが、モビリティデザインは芸術からインスパイアされ成功する事例もある。またモビリティデザインはデザイナーだけによる仕事でない。伊藤氏によれば、MITメディアラボ流プロセスでは、分野横断的思考が重要であり、ビジネス面での懸念をする前にまずはモノを作り、カタチにすることが先決と説く。
◆聖域なきイノベーションコストの暴落
伊藤氏は米MITでの研究所内での具体例をあげ、半導体をはじめ研究員個人による開発・製造が実現しつつあることを説明。たとえば、通信機器製造はこれまで巨額の資金源を有する企業が100万人単位で取り組んできたが、いまでは一般個人にもつくれる時代になっている。通信インフラが安く使えるようになったことでまず流通コストとコラボレーションコストが下がり、さらにコンピューティングコストが低くなったため「イノベーションコスト」も下がったと伊藤氏は指摘する。
したがってこれまで資金集め、それから開発というプロセスを踏んでいたもの作りのプロセスにも変化が起きているという。グーグルが2人のエンジニアが「とりあえずソフトを作った」ことに端を発する例をあげ、「エンジニアが先に動きビジネスマンがその次にくる。プロダクトを先にやってしまうのが今の流れ」と指摘した。
これはいわば「プロダクトアウト」的な手法と言えるが、伊藤氏によれば、このメリットは2つあるという。一つは、実践するかどうかを検討するコスト(伊藤氏は「役員会10分に相当」と指摘)が現在の最低商品ローンチ費用に追いついてしまうこと。もう一つは、作ってみないと出来ない議論が多くあるからだという。「デザイン、テスト、デザインの繰り返しが必要である。」この点、大企業は舵きりが遅いため不利に働きうる。大企業ほど最初の型をすてきれない。だから「地図ではなく磁石をもつことが大事」(伊藤氏)と例える。具体的には、Youtubeが2005年のデフォルトをすぐに捨て成功に至った経緯に触れながら説明した。
◆MITメデイアラボは未来交通をどうみる?
ではこれからのクルマづくりにおいては何が重要か。
伊藤氏は大切にすべき姿勢を「Embrace serendipity」と表現。「なにを作るべきか、という部分にあまりにも集中してしまうと、すぐ隣のラッキーをゲットできないことがある。偶然性は新しいビジネスには重要である。したがって直接繋がっていないものを見ることができることが重要だ」。さらにこのような分野横断的視点を無駄にしないためにもデザイナーと工場(生産現場)の一体化が重要だと、伊藤氏は主張する。
最後にMITメディアラボでの開発内容に話がすすんだ。
伊藤氏がモビリティを開発する際には、これからの都市環境を考慮してつくっているという。ではまず伊藤氏が考える未来の都市はどのようなものか。
伊藤氏はインターネットとモビリティの視点から、「自分のカレンダーの情報を都市がもっていたとしたら何がおこるだろう?都市がバスをアレンジする時代がくるかもしれない。そうするとバス停というコンセプトがいらなくなる日も近いかもしれない。」と話す。
ラボでは、モビリティ自体の研究は“自動運転がくる前提でなにをしなければならないか”、を考えているという。また都市人口集中化を考慮して、駐車スペースの効率的な利用についても研究を進めているとのこと。
先のITS世界会議で各社が発表した自動運転車のように、長年話が出てきた未来のキーワードがここにきて現実のものになりつつある。伊藤氏の講演は、そう遠からず訪れるであろう未来の交通社会におけるモノづくりの変化への示唆を与えてくれたといえるだろう。