【東京モーターショー13】血中パジェロ濃度…三菱 デザイン部長 松原雅樹×エンリコ・フミア

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エンリコ・フミア氏(左)と三菱自動車 デザイン部長 松原雅樹氏(右)
エンリコ・フミア氏(左)と三菱自動車 デザイン部長 松原雅樹氏(右) 全 36 枚 拡大写真

11月23日から12月1日まで開催された東京モーターショー13の三菱自動車ブースを彩っていたのは、3台のコンセプトカーだ。

FFのPHEVシステムを採用した次世代コンパクトSUV『XR-PHEV』、FRベースのプラットフォームを持つラージSUVモデル『GC-PHEV』、6名乗車のコンパクトMPV『AR』の各車には共通したメッセージを込めつつ、異なるアレンジで展開したという。

日本カー・オブ・ザ・イヤー(JCOTY)では"環境、安全その他の革新技術を持つクルマ"として『アウトランダー PHEV』が「イノベーション部門賞」を受賞した。本来得意とするスポーティーな走行性能に環境への配慮を加えたモデルが存在感を示す三菱だが、発表されたデザインテーマは今後どのように組み込まれていくのか。

モーターショー会場でイタリア人デザイナー エンリコ・フミア氏がデザイン部長の松原雅樹氏に聞いた。

重工業メーカーがルーツ

フミア氏(以下敬称略):三菱とはどういうブランドなのでしょうか?

松原氏(以下敬称略):三菱自動車というのは「古くて新しい会社」だと思っています。前身は三菱重工で、ここではさまざまな工業製品、航空機や船舶なども作っていました。そうした部分に私たちはヘリテージを感じているのです。これが「古い」と言う理由です。その一方でクルマの大量生産を始めたのは、他の日本メーカーより遅い。最初にA型という自動車を作ったのは1917年ですが、乗用車を大衆に向けて売るようになったのはずっと後のことです。また、三菱重工から独立したのは1970年ですから、まだ40年ほどしか経っていません。自動車としては新しいブランドです。

フミア:A型は私も見たことがあります。以前、御社を訪れたときに展示されていました。

松原:三菱はいろいろと特徴のあるブランドだと思っています。現在はEVやPHEVを展開していますが、以前はモータースポーツに力を入れていて、WRCやパリダカといったラリーに強みを持っていました。やがて環境問題がクローズアップされてきたことを受けて、細々と開発していたEVを前面に打ち出すことになりました。まず『i-MiEV』を発売し、その技術を元にしてアウトランダーPHEVを作った、というのがいまの状況です。ただEVも環境に優しいというだけではないのです。パワーと瞬発力がものすごい。だからEVのレースに参戦するなどしてモータースポーツの伝統を引き継ぎつつ、新しいスピリットを発信しています。

ブランドの強みはSUV

フミア:今回は同じデザインテーマを持つ3台のコンセプトカーを公開しましたが、どれがもっとも強く今後の三菱デザインの方向を示しているのでしょうか?

松原:3台にファミリー・フィーリングを感じていただけているようですが、それが私たちの狙いです。もっとも強く表現されている、ということでしたらコンセプトXR-PHEVじゃないかと思います。

フミア:そうすると、これから登場する量産車のデザインを示唆するのはXR-PHEVということになるわけですか。

松原:それについては、まだはっきりお答えすることはできません。今回はSUVとSUVテイストのMPVを提案しましたが、これはトライアルなのです。狙いを表現してはいますが、もしかしたらそれは作り手のただの思い込みかもしれない。そこで一般のお客さんが「ああ、三菱らしいね」と感じてくれている、という手ごたえがあれば、疑うことなく量産車にも盛り込んでゆくことができます。

フミア:コンセプトGC-PHEVやコンセプトARのフロントエンドのほうがいいという反応が多ければ、そちらのデザインにするということになりますか?

松原:そうなるかもしれませんね。ただ、3台ともデザインのコンセプトは同じで、カテゴリーごとに表現を変えてみたということなんです。それぞれパジェロ、RVRに相当するクラスのSUV、それに6人乗りのMPVですね。アイデンティティは共通だけれども、商品のキャラクターに合わせてアレンジを変えている、ということ。セダンやハッチバックでなくSUVとMPVにしたのは、これが三菱の強みだからです。ブランドのメッセージを強く打ち出したかった。

狙いはパジェロらしさの再構築

フミア:たしかにヘッドランプには共通したメソッド(方法)を感じますが、グリルは各車でかなり形状が違うように見えます。ヘッドランプの「目尻」あたりを出発点として、各車ごとにアレンジしているのでしょうか?

松原:そうです。スタイリングの取り組みのポイントは2つあります。ひとつはSUVとしてのフロントフェイスのアイデンティティを、もう一度構築しようということ。もうひとつは「フォーム・ランゲージ」を追求するということです。

フミア:そのポイントを具体的に教えてください。

松原:三菱には、歴史と大きなネームバリューを持つ車種としてパジェロがあります。そこでパジェロのどの要素がお客さんに伝わり、価値として認められたのかというのを紐解いていったんです。フロントフェイスではまず、スリーダイヤを中心にして左右に伸びるグラフィックス。私たちは「バンド・シェイプ」と呼んでいます。それからバンパーを下側から守るような「ガード・シェイプ」、ヘッドランプの端が切れ上がった「キャッツ・アイ」。これら歴代パジェロが持っている要素をそのままに、新しい表現方法に置き換えたのが今回のコンセプトカーのデザインなのです。

硬質でいて筋肉質なイメージ

フミア:なるほど、たしかに三菱といえばパジェロですね。もうひとつの「フォーム・ランゲージ」についても教えてください。

松原:ボディサイドの表現です。まず、張りのあるボディの塊に彫刻刀で刻み込んだような、鋭利で「硬さ」を感じるキャラクターラインがあります。そしてこの上下にある、ぎゅっと絞り込んだようなキャビンと力強いリアフェンダーで、マスキュラー(筋肉質)なデザインを表現しています。つまり3台ともスタイリングのテーマは共通で、表現方法をいろいろトライしていると考えてください。SUVの2台とコンセプトARでグリルのイメージが違うということですが、たしかにその通り。これは造形のフレキシビリティを残したかったからなのです。

フミア:共通テーマだけれども、いろいろな可能性を残したかったということですね。ブランドとしての共通性を持たせようとする姿勢は素晴らしいと思います。でもセダンやハッチバックなど普通の乗用車には、このデザインをどう展開しますか?

松原:SUVで確立したイメージを全車種に展開するか、まったくデザインを変えるか。どちらも可能性があり、現在スケッチを描いて可能性を探っている段階です。

フミア:私はコンセプトARのデザインが、いちばんフレッシュに感じましたよ(笑)。

外見と内面の両方に魅力が必要

フミア:EVなどの環境フレンドリーな車種のデザインはどう考えているのでしょうか。

松原:アウトランダーPHEVでは、現行パジェロのイメージを出しつつ、環境に優しいことが感じられるような、ややソフトな印象の面構成にしました。これは上手く表現できたと思っています。ただ、少しエコを意識しすぎた部分もあったかなという反省もあります。それで強い存在感を持った新しい表現に挑戦しようと、今回公開した3台のコンセプトカーを作りました。

フミア:たしかにアウトランダーPHEVは、少し遠慮がちなデザインに感じます。他社にはないイメージやメカニズムの強みを生かしたデザインとなるよう、恐れずに挑戦していってほしいですね。

松原:今後の三菱車は、インテリアの先進装備も含めてクルマ全体で「いままでとは違う」という雰囲気を醸し出したい。

フミア:人間と同じですね。外見で一目惚れして、付き合って内面を知ったらさらに好きになった、というのがいい。

松原:長く付き合う商品ですからね。最初の印象で気に入って買って、乗っているうちに「ずっと手元に置いておきたい」と考えるようになる。そういうデザインを実現したいですね。

松原雅樹|三菱自動車 デザイン本部 デザイン部長
1964年生まれ。東海大学 教養学部 芸術学科卒業後、1986年三菱自動車工業入社。2000~2003年と2007~2010年には、欧州三菱自動車R&D会社の独トレーブールデザインスタジオに駐在し、デザイン部ゼネラルマネージャーを務めた。2010年よりデザイン本部に帰任し、デザイン部長兼スタイリングダイレクターとなる。担当した主な車種は、『ミラージュ・ランサー』(7代目、インテリア)、『RVR』(2代目)『パジェロ』(3代目)、『ギャランフォルティス』、『ランサーエボリューションシリーズ』(デザイン取りまとめ)など。

エンリコ・フミア|カーデザイナー インダストリアルデザイナー
1948年トリノ生まれ。76年にピニンファリーナに入社し、88年には同社のデザイン開発部長に就任。91 年にフィアットに移籍してランチアのデザインセンター所長に、96 年には同社のアドバンスデザイン部長となる。99年に独立、2002年にはデザイン開発やエンジニアリングのアドバイザリーとして フミア・デザイン・アソチャーティを設立した。手掛けたモデルは、アルファロメオ『164』『スパイダー』、ランチア『イプシロン』、マセラティ『3200GT』など。

《古庄 速人》

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