【ゼンリン 地図づくり現場レポート】リアル3D-CG技術が実現する新時代ナビ…ジオ研

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3Dレンダリングミドルウェア『WAREM』
3Dレンダリングミドルウェア『WAREM』 全 6 枚 拡大写真

昨年10月に開催されたITS世界会議 東京2013。ゼンリンのブースでは自動運転にも有効な「高精度地図データ」に混じって、近い将来、実現が期待されるコンテンツや新技術が数多く出展されていた。ここでは、その中から3Dマップを得意とするジオ技術研究所の活躍に注目した。

◆ジオ技術研究所 リアル3D-CG動画技術が実現する新時代ナビゲーションとは

ジオ技術研究所はゼンリンの100%子会社として2001年に設立された若い会社である。3次元デジタル地図や3次元地図データの調査製造販売を業とし、その成果はゼンリンが提供する地図データにも数多く採用されて来た。中でも同社の存在を否応なく意識させたのが、今から10年近く前の2004年、ソニーから登場したHDDナビ「XYZ(ジーゼット)」に搭載されたリアル3D-CG動画技術だった。東京・渋谷駅前からファッションビル「109」へ通じるルートを、まさに実写映像と見まがうほどリアルなCGによって描きながらナビゲーションしてみせる。そのリアル感はまさに新世代のナビゲーションを感じさせてくれるのに十分だったと記憶する。

このリアルな地図表現こそ、ジオ技術研究所が会社設立以来、独自に手掛けてきたもの。このデータはやがて『ウォークアイマップ(WalkeyeMap)』へと発展し、ITS世界会議 東京2013でも目を引くリアル3D-CG表示の代表的なコンテンツとなった。その特徴は、ビルや道路の形状を調査データに基づいてモデリングし、信号やガードレールなどまでも描き、とくにナビゲーションで重要な交差点付近の状況をリアルに表現可能としていることにある。この実現には、マルチアングルのカメラを搭載した車両を全国主要都市で走らせ、そこで取得したデータを元に作成するといった気が遠くなるような作業が必要。それを繰り返し作業することで、同社を代表するコンテンツが完成したというわけだ。

とはいえ、カメラで撮影したからといって、その情報がそのまますぐに地図データに変換できていくわけじゃない。完成までには、撮影したデータを元に各パーツを組み合わせるという気が遠くなるような作業が伴う。それでもチェーン店の看板などはパターン化させることで作業効率の向上を図ってきているとは言うが、それをさらに毎年更新しているというのだから恐れ入る。ジオ技術研究所管理部の三毛洋一郎氏によると「更新を2年に一度行うのが一般的なのに対し、弊社は年に1度は必ず更新を行う。この鮮度が他社にはマネができない」のだという。

また、リアルな表現は建物の壁面や質感にまで及び、それは『ウォークアイマップ』の大きな武器にもなっている。そして、出来上がった3D-CGは動画だけの展開に止まらない。今や都市部の交差点ガイドでは常識となっているリアル3D交差点ガイドもこの動画の一部を切り出して活用。さらに高速道路状での分岐点ガイドや一般道のレーンガイドを展開するに当たってもこのデータは活かされる。ゼンリンの地図データに対する高い信頼性はこうした不断の積み重ねが功を奏したものと言っていいだろう。

◆低コスト低負荷なマルチプラットフォーム 新たな3Dマップ技術『WAREM』を開発

ジオ技術研究所がITS世界会議 東京2013に向けて開発した技術はもう一つある。それが『WAREM(ワレム)』と呼ばれる今までの常識を覆す新たな3Dマップ技術だ。“今までの常識”とは、従来の3Dマップは2Dマップをそのままアングル変更して表示するというもの。2Dマップは自車位置から離れた場所でも同位置縮尺なら均一に情報を表示するから、それを3Dマップ化しても遠近感は伴わない。それに対してこの『WAREM』では、1枚の地図画面上で異なった縮尺の地図表示を行う。つまり、近くは詳細図で、遠くは広域図でというふうに、人間が俯瞰して遠くを見渡したときの状況そのままに地図を表現できるようにしたのだ。

その表現力は明らかに今までの3Dマップとは違う。手前では都市部の詳細な情報が表示されているのに、遠くにある山並みの様子がハッキリと描かれているのがわかる。今までの3Dマップだったら、手前の詳細情報を見ようとすれば遠くの風景は割愛されるのが普通だった。それがこのマップには一切ない。人間は空を飛べないのが残念だが、その表現力はまさに鳥の目線で風景を見下ろした「鳥瞰図」そのものが描かれているのだ。

だけど、これほどの処理をリアルタイムでカーナビが行えるのだろうか。三毛氏はこの点について「『WAREM』は動きが軽く、カーナビ側のCPUに負荷をかけない独自の関数をかけて対応している。このアプリを動かすのがたとえCPUパワーが低いPNDであってもサクサクと動くことを目指して設計されている」と話す。この日、デモとして使用したのはタブレット端末であったが、確かに操作してみればその動きは軽快そのもの。スクロールも回転も、スケールチェンジをしても確かにサクサクと動く。

ではコストはどうか。これについても三毛氏は「様々なOSに対応できるマルチプラットフォームとなっていて、低コストで三次元化できているとともに、デザインののカスタマイズも簡単」なのだという。確かに『WAREM』では地名は横書きで、施設名はタテ表示として文字の重なりを減らしていたが、これも『WAREM』カスタマイズ機能を活かしたものだったというわけだ。このように組み合わせる端末によって多彩なデザインで対応できるのもこのアプリの大きな特徴となっている。このアプリの期待値は相当に高いと言っていいだろう。

そして、ジオ技術研究所が開発したもので、見逃せないもう一つのアプリが『Pegasus eye Map for AR』だ。このアプリは主としてビル街が多い都市部で役立つ技術で、たとえビル陰に隠れてしまった施設でも実映像上にその所在を明らかにする。もともとは立体視用地図コンテンツとして開発された「Pegasus eye Map 」をベースとするが、都市部ではコンビニや郵便局などがビル内に入居していることが珍しくない。そこでよりリアリティに富んだガイド方法として導入されたものだ。

すでにこれに近いことをポータブル型ナビやスマートフォン用アプリで実現した例はあるが、これらは単に施設の位置情報をARで捉えた映像に重ね合わせただけ。そのため、表示する範囲をしてする手間もある上、平面上の情報を無理矢理ARに重ねるものだから、なかなか施設の位置が正確に表現されない。その点、3次元デジタル地図をベースとすることでその位置関係をより明確にし、高精度なARガイドを実現しているのだ。

ここに紹介したアプリはいずれもジオ技術研究所が得意とする3Dデジタルマップの技術と、ゼンリンが60年もの間、地図調査の基礎として来た足で調査するスタイルを組み合わせることでもたらされたものだ。現在、全国各地を歩き回る調査員は1日約1000人。いくら技術が進んでも、この人海戦術によって得られたリアルな情報に勝るものはない。ゼンリンが目指す「ドアtoドア」ガイドもこの高精度な情報があるからこそ実現できたものに他ならない。この徹底した調査へのこだわりこそが、ゼンリンが生み出す高精度地図の原動力となっているのだ。

《会田肇》

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