年始めのホットなイベント、東京オートサロンが今年もやってきた。トヨタ『ハイエース』は、ここでも人気モデルの1台として、あちこちで華やかにブースを彩っている。
◆レース現場で活躍する“走る司令塔”をイメージ
そんなカスタマイズされたハイエースが何台も集う中、異彩を放つ1台がある。GAZOO Racingのブースに飾られた、その名も『コマンドハイエース』と名付けられたモデルだ。
ご存知の方も多いと思うがGAZOO Racingとは、トヨタ車でレース活動を行なう傍ら、ストリートマシンのプロデュースも行なっている。スポーツ派ユーザーの目線で、クルマで走ることを楽しむ提案を行っているスペシャリスト集団である。
ニュルブルクリンク24時間耐久レースに『LFA』で何度も参戦し、モリゾウこと豊田章男トヨタ社長も自らドライバーを務めたことはメディアでもしばしば取り上げられてきた。
今回、オートサロンに出展されたコマンドハイエースは、そんなGAZOO Racingのレース活動をサポートするクルマとして提案されたコンセプトモデル。GAZOO Racingではこれまでも国内のレース活動のサポートにハイエースを使っており、その発展的な提案が、このコマンドハイエースなのである。
◆「機能性と快適性のバランスに気を配った」
このクルマを企画したのは、今回のハイエースのモデルチェンジを担当した包原功開発主査。
「ハイエースのマイナーチェンジの開発が進む中で、年末に発売する新型ハイエースをアピールできるイベントとして、東京オートサロンにカスタマイズしたモデルを披露しようということになったんです。そこで、ウチの技術部で企画し、GAZOO Racingでアレンジを施して完成させました」。
文字通り、これはレース活動における作戦司令部としての機能が与えられている。ワイドボディのハイエースをベースに、リヤの荷室空間を大胆にモディファイ。サイドウインドウ部分には合計4基もの22インチワイド液晶モニターが設置され、シートは対座で4脚のキャプテンシートを置いている。セカンドシートを回転させてテーブルをセットすれば、そこはじっくりと落ち着いてレース戦略を練ることができる空間となるのだ。
「機能的な部分と快適さのバランスをどう取るかに気を配りました。モニターの大きさはあまり大きすぎても圧迫感がありますし、文字などが大きくなり過ぎても読みにくいので、シートとの距離と大きさをバランスさせています」(包原主査)
ちなみにルーフの間接照明に用いられているLEDは、色調を自由に変化させることができるほか、レース中のアクシデントなどを直感的に知らせるように赤に自動的に切り替える機能も盛り込まれている。
◆主査自身のレース体験から生まれた工夫
レーシングノイズに満たされたピットロードでは会話もままならないし、じっくりと作戦を練るためには落ち着いて考え、話し合える空間が必要だ。それに耐久レースなどでは交代したドライバーの休息の場として冷暖房を完備したスペースがあるのは、疲労回復に役立つハズだ。
スーパーGTやスーパーフォーミュラのようなトップカテゴリーのレースでは、大きなモーターホームをミーティングルームとして利用しているチームも多い。しかしGAZOO Racingが参戦しているレースやサポートしているプライベーター主体のモータースポーツでは、ハイエースがジャストサイズと考え、こんなモデルが理想として作り上げられたのだ。
包原主査自身、オートバイでレース活動を行なっていた経験があり、GAZOO Racingが行なっているレース活動には憧れに近い気持ちもある。そんな包原主査からGAZOO Racingへのプレゼントとも言えそうなモデルなのである。
「キャプテンシートはタイで販売している高級グレードに採用しているもので、本来はサードシートはベンチシートになっていますが、コマンドハイエースは4脚のキャプテンシートとすることでミーティングやリラックスに適した空間にしています」。
◆マイナーチェンジで変更された箇所のオリジナリティは守る
カスタマイズを指揮する一方で、ハイエースのオリジナルを守ってほしいとリクエストした部分もあったそうだ。
「今回のマイナーチェンジはフロントグリルと前後のランプが特徴ですから、そこは純正を使ってほしいとお願いしました。LEDテールランプを装着されてしまうとリヤはマイチェン前と見分けが付きませんから」。
改めて新しいハイエースのワイドボディを見ると、バンパーに合わせてフロントグリルが斜めに突き出ていることで迫力のフォルムを作り上げている。この逞しい力こぶのようなフロントグリルの隆起が、新しいハイエースワイドのイメージなのだ。
「あまり派手な外観にはして欲しくない、というのもありましたね。全体的には落ち着いたイメージにして欲しいと言っていました」。
仕上がったコマンドハイエースを見ると、パールホワイトの上品なボディカラーにGRロゴが入った黒/赤の太いストライプがボディサイドを駆け上がるように斜めに走っている。ルーフはチェッカー柄だ。エクステリアで変更されているのは、鋭く突き出たフロントのリップスポイラーとアルミホイール、マフラーカッターと、屋外での使い勝手を高めるサイドオーニング程度。レースの躍動感、情熱を感じさせながらも、軽々しさのないスッキリしたフォルムでまとめられている。
◆素材として認められているハイエース
ハイエース開発主査の包原氏には、GAZOO Racingのカスタマイズモデルを手がけるというイメージは薄いが、実は『アルテッツァ』開発時にもTRDやモデリスタと共にカスタマイズを手がけた経験があり、東京オートサロンも何度か訪れたことがあるそうだ。
「こういうイベントでハイエースを見ると、本当に驚かされますよね。よくぞこんな仕様を思い付いたな、と思わせてくれるものが多いんですよ。素材として認められているというのが実感できるので、ハイエースを作っている者として嬉しく思いますね」。
そんなショップやユーザーにも、新しいハイエースの乗り味をぜひ試して欲しいと言う。
「このコマンドハイエースもマイチェン後のしっとりとした乗り味だから、この仕様が実現できたんです」。
九州から北海道まで全国のサーキットを巡るようなシーズンを送っても、ドライバーや乗員の疲労を最小限に抑える、そんなクルマなのである。
残念ながら、このコマンドハイエースはあくまでもコンセプトモデルとして製作されたものであり、市販化の予定はないそうだ。しかし、望めばこれと同じ仕様を作ることは決して不可能ではない。さらに、より自分の理想にアレンジすることだって可能なハズだ。
「ぜひ、自分だけのハイエースを作るヒントにしていただきたいですね。ハイエースを乗用車的感覚でもっと楽しんで下さい」。