メルセデスが『Cクラス』ワールドプレミアの場として選んだのはアメリカだった。
プレスコンファレンスの中で、CEOのディーター・ツェッチェ氏は、「Cクラスは単一市場としてはアメリカが世界で最も販売台数の多いマーケット。だからこのクルマをアメリカで作ります」と、Cクラスの北米での生産を発表した。
現在アラバマ州タスカルーザのメルセデス工場では、『Mクラス』『Rクラス』それに『GLクラス』の生産が行われている。ここにCクラスの生産が加わる。そしてメルセデスは、2015年にはもう1車種、北米での生産を決めていて、合計5車種が北米で生産されることになるのである。
合理化と先進技術の導入
思えばCクラスは、メルセデスベンツというクルマを現在の方向性に導いた最初のクルマであった。『190』の名で親しまれた「W201」のコードネームを持つコンパクトなメルセデスが、Cクラスとして生まれ変わったのは1993年、今から21年前のことである。Cクラス誕生前のメルセデスは徹底的に自社生産にこだわり、部品の大半を内製していた。
機械技術に頼っていたメルセデスだけに、ある意味では電子制御技術の導入に遅れを生じさせていたのである。Cクラスは徹底的な合理化と、電子制御技術の導入を進めたメルセデス初のクルマであったといってよい。
以来世代を重ねて今回登場したのは、「W205」のコードネームを持つ4世代目のモデルだ。最初に電子制御化に先鞭をつけたのはCクラスだったが、その後は『Eクラス』や『Sクラス』に次々と新しい技術が導入されるようになり、いつしかCクラスは上級車種で導入された技術のおすそ分けを貰うという、メルセデス内部のヒエラルキーにおける、末席のセダンとしての地位に戻っていた。だが、W205は違う。勿論今はメルセデスラインナップにおいてもCクラスは末席ではなく、その下に複数のラインナップを持つ。特に同じセダンの『CLA』が登場したのは、Cクラスを上級移行させるための大きな要因となったことは間違いない。
まずは電子技術という側面から見ると、新たにタッチパッド方式の直観操作ができるまさにタブレットのような機能が導入されている。これだけではない。全体の骨格も新たにアルミとスチールを使ったハイブリッド構造に改め、ドア、トランク、エンジンフードなど、いわゆるハングオンパーツと呼ばれる部品をアルミとし、その総量はボディの体積ベースで50%に及ぶという。
この結果、車重は新旧スタンダードのC180で比較して実に100kgもの軽量化に成功した。しかもボディは旧型と比較して全長で95mm、全幅で40mm拡大しているにも関わらず、である。
コスト見直しで実現した装備向上
合理化と電子技術の積極的採用は高級車なら高くて当たり前という、それまでメルセデスがごく当たり前に考えていたクルマ作りの概念を変化させた。そして、それまで掲げていた「Die Beste oder Nichts」、ドイツ語で「最善か無か」というメルセデスのキャッチフレーズも消えて、「The best for custmer」に変化させたのだが、価格競争に打ち勝ちながらなおかつ、最高の製品を作り上げる技術を確立、再び「最善か無か」のキャッチフレーズを甦らせるまでになったのである。
その確かな例が、サスペンションにあった。実は初代Cクラスには新しいW205に採用されているのと同じ4リンクのフロントサスペンションが使われていたのだが、2代目以降それは消え、ごく一般的なマクファーソンストラットストラットに変更されていた。しかし、4リンクの方がサスペンションチューニングの幅が広かることは初代C クラス発表の時にメルセデス自身が話していたこと。プロジェクト責任者であるティーフェン・バッハー氏に質問をぶつけてみた。
その「何故」に対する答えはやはり、コスト管理にある。宗旨替えしたのは明らかにコストの問題であった。しかし今、パーツごとの素材を見直すなどの結果、再び4リンクのフロントサスペンションが使えるようになったのである。そればかりではない。オプションながら、EクラスやSクラスに装備されるエアマチックすら、今回はCクラスに導入している。つまり、開発段階で、部材の見直しや生産方法の効率化などコストに直結するありとあらゆる見直しが行われた結果、上級モデルSクラス、Eクラスに装備されるすべてのアシスタンスシステムが装備されるようになり、ヘッドアップディスプレイすら初めて付くようになったというわけだ。
小ベンツの揶揄はもはやできない。ディーター・ツェッチェCEOはコンファレンスの中で、「大型化し豪華になったCクラスは新たにDクラスにすればいいじゃないかという意見もあるが、CはこれからもCクラスであり続け、Dセグメントのベンチマーク的存在として、クラスをリードする」と話していた。先代のモデルに試乗した時も、これを上回るモデルは出来ないと思ったものだ。しかし、メルセデスはSクラスでもEクラスでもあっさりとその無理をやり遂げてきた。まさにミッション・インポッシブルを常にポッシブルにするメーカーなのである。