【ダイハツ タント & ホンダ N-BOX+ 350km試乗】“モアスペース軽”のパイオニア vs 2013年軽販売トップとの頂上対決

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ダイハツ タントカスタム(左)とホンダ N-BOX+カスタム
ダイハツ タントカスタム(左)とホンダ N-BOX+カスタム 全 40 枚 拡大写真

ダイハツ タント…「第3の柱」として登場したモアスペースの開拓車

もはや日本の自動車マーケットを語る上で重要なポジションを占めるほどに成長したのが“軽自動車”。そもそもボディサイズに上限のある軽自動車に対し、これまでは全長3395mm、全幅1475mmの規格内一杯までボディを拡大してきた。本来であればそこでクルマ作りは一定のゴールであったはずだったが、そこは世界に誇る日本の自動車メーカーである。全長と全幅が限界ならば上(全高)を伸ばすクルマ作りをすればいいじゃないか、と考えたわけだ。

2003年、そこに彗星のごとく登場したのがダイハツ『タント』である。それまでも世の中には「ハイトワゴン」と呼ばれるカテゴリーが確立しており、同社にも『ムーヴ』という基幹モデルがランナップされていた。しかし今後の市場を考えると、軽自動車の本流であった2BOXタイプの『ミラ』シリーズ、勢いに乗るハイト系のムーヴシリーズに加えて新たな『第3の柱』が必要であったのである。

そしてその狙いは見事に市場にミートした。全高の拡大、つまり室内高を大幅な拡大によりコンパクトカーと同等、いやそれ以上の広さを手に入れた、いわゆる「モアスペース」モデルの誕生はまさに新しい軽自動車市場を創造することに成功したのである。

タントの高い商品力は他メーカーに与えた影響は大きい。結果として初代が登場した際には7%程度であったモアスペース市場は2代目タントにバトンタッチしてからさらに19%に成長、そして2012年には31%と軽自動車における主要カテゴリーまでに成長したのである。

そして2013年10月、モアスペース市場を開拓し成長させた立役者であるタントが3代目にフルモデルチェンジを行った。すでに2代目で「ミラクルオープンドア」という驚きの発想で使い勝手を大幅に向上させ、大ヒットしたモデルを3代目ではどのように進化させてきたのかは誰もが興味を抱くところだろう。

◆ホンダ N-BOX/N-BOX+…後出しの強みを発揮して2013年軽自動車売上げトップに

ただ、他社も指をくわえて見ているわけではない。その急先鋒と言えるのがホンダ『N-BOX』『N-BOX+』である。当然タント(2代目)を研究し尽くし開発されたモデルゆえに大ヒット。2013年における軽四輪車の新販売台数トップはダテではないだろう。

今回フルモデルチェンジを受けた新型タントと、現状におけるディフェンディングチャンピオンであるN-BOXにおける“走り”とこのカテゴリーで最も求められる“使い勝手”についてロングドライブを通じて比較してみることにした。

用意したモデルはタントの中でも人気の高い「カスタム RS“SA”」、そしてN-BOXは、荷室空間の使い勝手に優れた『N-BOX+カスタム』をチョイス。試乗車の都合で自然吸気(NA)モデルとなったが、タントと同様に先進安全装備を搭載した「G・Aパッケージ」を選んだ。試乗に関しては街乗り(市街地)から高速道路、そして軽自動車にとってはやや厳しいステージとなる山岳路のワインディングロードを組み合わせた約300kmの行程とした。

◆高速道路ステージ…“軽”の先入観と背高ボディのハンデ覆す高速安定性

東京をスタート後、まずは東名高速道路を走行して感じたのが両車ともすでに小型車に迫る、いや部分的にはそれすら超える程の操縦安定性と乗り心地の良さを実現していることだ。

高速道路では「追い越し時も含めた加速フィーリング」「ハイスピードで道路の継ぎ目を超えた時の突き上げ感」「室内における音の聴こえ方」。そしてモアスペース系が最も苦手とする「レーンチェンジ時のボディのフラつき」などが重要なチェックポイントとなる。

まずタントの加速フィーリングだが、正直ここまで洗練されているとは思わなかった。搭載するエンジンは直3DOHCにインタークーラーターボを装着したKF型だが、一言で言うと「アクセルをあまり踏み込まなくても速度コントロールが容易に行える」ということである。それまでもターボを装着したクルマは数多く存在していたし、ましてやタントのようなモアスペース系は高速道路で“空気の壁”つまり前衛投影面積の大きさなどが走りに影響する。しかしタントはそれらを苦にせず、軽くアクセルを踏み込むだけでスーッと加速することができる。もちろんこれはエンジンの性能だけでなく、CVTとの協調制御、さらに言えば空力性能の改善による部分も大きいのだが、660cc+ターボというよりは1リットルクラスのエンジンを搭載しているような感覚である。

一方のN-BOXは用意したクルマがNA車だったということもあり、加速面では不利になるのは否めない。ただこの部分を補正してチェックしてみて感じるのは「常に元気」というフィーリングである。N-BOXもCVTを搭載しているが、ここ一発加速が欲しいと想った際にはエンジンのパワー不足をCVTの制御でうまくフォローしてくれる。もちろん速度をキープして走れば当然エンジン回転数は抑えられるので騒音や燃費面でも十分な性能を発揮してくれるはずだ。

次に操縦安定性能についてチェックしてみた。まずタントだが、エンジン&CVTに負けることなく、旧型から大きな進化、そして小型車を凌駕するほどの性能を身につけたと言っても過言ではない。

そもそも最近のダイハツ車のNVH(騒音、振動、ハーシュネス)性能は大きく進化している。その代表格が2012年12月にビッグマイナーチェンジを行ったムーヴである。後述する燃費性能に同社自慢の「e:Sテクノロジー」の改良版を搭載したほか、何よりもクルマの基本となる「走り、曲がり、止まる」を乗った誰もがわかるほど大きくレベルを上げたのは記憶に新しい。当然新型タントにも同様の手法が採用されているわけだが、前述したように空力的には不利となるモアスペース系でもAピラー周辺で発生し乗員に聞こえやすい風切音の軽減(これはかなり顕著)、またエンジンやフロア下から入ってくるいわゆる“透過音”自体の低減などは高速走行時だからこそさらに体感することができる。

次にレーンチェンジ時についてだが、この部分に関してもかなりフィーリングは向上している。そもそも重心高が必然的に高くなるモアスペース系はどうしてもレーンチェンジを終えた瞬間のグラっとくる感じ、いわゆる「揺り戻し感」が気になる部分だ。この部分が大きければ大きいほど、快適性は損なわれるし、乗員全員が不安になる要素は増えることになる。しかし、タントの場合、サスペンションのロール剛性のバランスを向上させているのだろう。レーンチェンジ終了時の収まりが非常に優れている。もちろんボディ上部は揺れるわけだが、スッとステアリングを戻した際に下半身、つまり足回りが路面をよく追従してくれることでボディもスッと収まり、ドライバーは次の動作をスムーズに行うことができるわけである。

一方のN-BOX+は全体的に車内への透過音は大きめ、ただホンダ車全般に言えることだが、入ってきたノイズのいわゆる“質”の部分、言い換えれば「音は大きくても不快な音質でない」ということである。操縦安定性に関してはタントには一歩譲るものの、レーンチェンジにはフロントがよく踏ん張り操舵フィーリングも悪くない。ただパワステのフィーリングに関してもタントが速度を上げていくに対し、しっとりと適度な重さを出していくのに対し、N-BOX+はデジタル的というか、重い時と軽い時のメリハリが付きすぎている感じを受けた。もう少しグッと手応えのある部分も欲しいと感じるのだ。

◆一般道ステージ…燃費に効くアイドリングストップ、自然なフィールをいかに実現するかがキモ

ステージを一般道に移して感じたのはやはりタントの“街乗り性能”の高さである。それを一番感じるのがアイドリングストップ機構である。もはや現在のエコカーには必須とも言えるこの機構ゆえに、今後は作動時のフィーリングなどが購入時のポイントとなる。

タントには“新エコアイドル”と呼ばれる機構が搭載されているが、試乗車のRS“SA”は車速が約7km/h以下になるとエンジンが自動停止する(ちなみに約9km/h以下で動作するグレードもある)。最近はその作動速度がどんどん上げられているが、正直言えばただ上げればいいというものではない。確かに作動速度を上げれば当然燃料は早めにカットされるので燃費向上には効果があるはずだ。しかし問題はエンジンを停止してから車両が停まるまでのわずかではあるが数秒間のフィーリングである。車種によってはブレーキペダルに違和感を覚えるようなものも存在することは覚えておいたほうがいいだろう。

しかしタントは作動速度がそれほど高くないことはもちろん、渋滞時や駐車時などクルマが前後に切り返すようなシーンなど「ここではエンジンが止まらないで欲しい」と言った時では逆にエンジンを作動するなど、実際の利用シーンを考慮した制御を行っている点は評価できる。さらに言えばエンジン始動時のショックも少なめで好印象、N-BOXはこの部分は少し大きめだ。もちろんスイッチによる任意のオンオフは可能だし、動作中もオーディオやナビも使用可能であることは言うまでもない。

◆山岳路ステージ…軽快なN-BOXと重厚なタント、ハンドリングにメーカーらしさ

最後にワインディングロードにステージを移してみたのが、これは両車ともなかなかの走りを見せてくれた。

まずN-BOX+だが高速道路同様、NAのデメリットを良く回るエンジンとCVTでカバー。フロントを中心にこの手のクルマとしては結構スポーティに走れる。今回の試乗車には設定が無いが、ターボ車には珍しいパドルシフトが標準装備される。自分の好みのギア(とはいえCVTだが)をセレクトして時にはエンジンブレーキを利かせながら走るのも結構楽しいはずだ。エンジン音は決して静かではないが不快なノイズではなくホンダエンジンらしくストレスなく回りきる。中間加速ではさすがにターボに後れを取るが高回転を維持して走ればアップダウンあるワインディングでもなかなかのパフォーマンスを発揮してくれた。

N-BOX+のハンドリングは、フロントサスの剛性が高いのでステアリング操作に対しクルマの動きが結構機敏に反応する。ステアリングのギア比自体はスローだが、優れた接地感をもたらしてくれる前後サスペンションの恩恵で、常識的な速度域であればアンダーステアに陥ることはまずない。先に「手応えのある部分も欲しい」と書いたが、逆にこの軽やかさがワンディングでは武器になっている。この辺はホンダらしい味付けと言える。

ヒラリヒラリと軽快にコーナーをクリアしていくN-BOX+に対して、タントはより安定志向で乗り味は重厚だ。ターボパワーを活かして急勾配の上り坂も苦にせず、体感的にはリッタカークラスを超える加速だ。ハンドリングはN-BOX+同様にフロントサスの剛性も高いのだが、リアサスの動きが非常にわかりやすく、コーナリング時でも「後ろがサポートしてくれているな」というのが顕著。具体的に言えば連続したコーナーの切り返し時にボディ後端の応答遅れが少ないので安定したコーナリングも可能だし、さらに後席での快適性も高くなる。ボディ剛性の高さも優秀で、不正路面を乗り越えた際のショックなども上手にいなす。ひとつオーダーさせてもらうとすればこれだけ走りが良いのであればぜひパドルシフトを設定してほしい。これによりカスタムにさらに走りの楽しさが加われば鬼に金棒である。

今回はおよそ350kmを走破。気になる燃費に関してだが、満タン法でタントは17.8km/リットル、N-BOX+は16.4km/リットルだった。今回のコースは雪解け水のためウェットコンディションが多く、高速や山岳路などエンジンに負荷のかかる条件がおよそ8割を占めたため、自然吸気エンジンには若干不利な条件だったことを付け加えておこう。この燃費はあくまでも参考程度ではあるが、乗員は常に2名以上、これに撮影機材を積んでエアコンは常に25度で設定、さらに言えば燃費運転などを気にせず相当元気に走ってこの数値だったのでもう少し丁寧な走りをすれば過去の実績からも20km/リットル超えは余裕である。

乗り心地に関してまとめると、高速道、一般道問わずギャップを超えた際に感じる「ガツン」というショックも入力を素早く分散させることでドライバーだけでなく、乗員全員が快適性が高まっているのは大きな進化だ。多くの軽自動車は従来、この部分で馬脚を表す、というか「ああ、やっぱり軽自動車ってこんなものか」という印象を受けがちであったのだが、新型タントは目で見ることのできないクルマの本質となる部分をしっかり磨きこんできた点が高く評価できるのである。

《高山 正寛》

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