ガソリン、ディーゼル、ハイブリッド(HV)と3種のパワートレインをラインアップした新型『アクセラ』に注目している。
1車種でこのような3つのパワートレインを持つのはメルセデスやBMWなどの一部の輸入車くらいで国産乗用車としては初となるだろう。その分ユーザーは難しい選択を迫られることになりそうだが、ここではその一助となるようなレポートを寄稿したい。
新型アクセラにはセダンと5ドアハッチバックの二つのボディバリエーションがある。どちらも最近のマツダらしいスタイリッシュで面構成が美しくクルマ好きのハートを射抜くカッコ良さを持ち合わせている。セダンかハッチバックかでまず悩む事になるのだが、実は同じセダンでもHVとガソリンでは使い勝手が異なり、かつセダンにはディーゼルが設定されていないなど注意しなければならないポイントがあるのだ。
では詳しく見てみよう。セダン派の方はそのパワーユニットとしてHVかガソリンかの選択肢がある。燃費性能では当然HVに利がある。今回アクセラで採用されたHVシステムはトヨタ自動車との技術提携により実現したトヨタ方式。
『プリウス』に代表されるFFの2モーターフルHVシステムで実績のあるニッケル水素バッテリーで駆動している。だが多くのコンポーネンツはトヨタ自動車から供給されるのではなくマツダが自社で開発し生産しているという。組み合わされるエンジンは2リットルの直噴エンジンでプリウスの1.8リットルより強力だ。そうしたことからアクセラはプリウスと燃費競争するのでははなく、マツダらしい走行性能を備えたHVモデルとすべく走りに注力した。その甲斐あってか実際アクセラHVの走りは力強くスポーティだ。贅沢なクロスメンバーを持つリアマルチリンクサスペンションの採用と相まって、プリウスより高い質感としなやかな路面追従性を持つ1ランクグレードの高い走行フィールを実現している。
だがこの贅沢なサスペンションを採用した弊害もある。それは車体後部に搭載するHVバッテリーの搭載位置がクロスメンバーにより高くなりトランクスルー機能を省かれてしまったことだ。リアトランクは十分な容量があるがセダンパッケージングとしてトランクスルー機能が備わらないのは実用上厳しい。トヨタの多くのHVセダンも同様の問題を抱えている。
一方ガソリンエンジン搭載モデルを選べばトランクスルーが備わるので実用度は大きく向上する。セダンで選べるガソリンエンジンは1.5リットル直噴直4のみ。絶対的動力性能の非力さは否めないが試乗した印象では実用上気にならないレベル。前後重量配分とマルチリンクサスの優秀さを考えると1.5リットルクラスとしては他にない上質なセダンになっているといえる。
では好評のスカイアクティブディーゼルエンジンを搭載すればパワーも燃費もトランクスルーも装備できて最高ではないか!と期待したが残念ながらセダンにディーゼルエンジンの設定がない。ディーゼルエンジンを求めるならはハッチバックを選ばなければならない。ハッチバックモデルはスポーティで実用的。おそらく多くのユーザーのハートを射止める中心的モデルになるだろう。
『CX-5』や『アテンザ』でおなじみとなったスカイアクティブディーゼルは完成度が高まりスポーティかつ低燃費でシャープな吹け上がりには乗るたびに感心させられる。アテンザで気になった電動パワーアシストステアリングの操舵フィールもアクセラではCX-5と同様品が採用され問題ない。さらにハッチバックでは2リットルの直噴直4ガソリンエンジン搭載車も選択でき、155psのハイパワースポーツグレードとしてシリーズを牽引する役目を与えている。このハッチバックモデルにはHVの設定がなくガソリンとディーゼルから選ぶことになる。
一方、今回のアクセラで忘れてはならないのがHVモデル以外の全モデルに6速マニュアルトランスミッション(6速MT)の設定があることだ。通常のHパターンで3ペダルの6速MTが新設計されスポーツ指向ユーザーの大きな支持を受けそうだ。この6速MTは操作フィールがすこぶる良い。ショートストロークでシフトゲートが明確で小気味よく操作できる。大きな横Gがかかっていても操作性は変わらなくスポーツ走行に適しているといえる。ディーゼル+6MTの組み合わせは欧州では常識で国内でも普及しそうだ。
さて新型アクセラ。僕ならセダン+ディーゼル+6MTかセダン+HV+トランクスルー付きで乗りたいがどちらも設定がない。さあ困った。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★
中谷明彦|レース&テストドライバー/自動車関連コンサルタント
大学在学中よりレーサー/モータージャーナリストとして活動。1988年全日本F3選手権覇者となるなど国内外で活躍。1997年よりドライビング理論研究会「中谷塾」を開設、2009年より東京大学と自動車新技術の共同研究に取組む。自動車関連の開発、イベント運営など様々な分野でのコンサルタントも行っている。