あらゆる業界に新ビジネスの可能性を秘めるIoT…「データを武器にエコシステム築け」

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NRI基盤ソリューション企画部 主任研究員 武居輝好氏「Internet of Thingsによる新ビジネスの可能性」(5月27日「ITロードマップセミナー SPRING 2014」)
NRI基盤ソリューション企画部 主任研究員 武居輝好氏「Internet of Thingsによる新ビジネスの可能性」(5月27日「ITロードマップセミナー SPRING 2014」) 全 32 枚 拡大写真

ウェブの世界では読者データの分析はもはや当たり前。「どの検索サービスから来たのか」「どのページを見てブラウザを閉じたのか」「サイト滞在時間はどれくらいか」「クリック率の高い広告クリエイティブはどれか」などなど、たちどころに一目瞭然な形で表示できる。A/Bテストを活用したランディングページ最適化や、そしてDSP(Demand Side Platform)に代表されるリターゲティング広告も高度化が著しい。

「リアルの世界でのデータ活用はそううまくはいかない」というのがいままでだった。通信をどうするか、データ処理のためのシステムをどう整備するかなど、莫大な投資が必要だったからだ。しかし今は違う。もはや製造業を含むあらゆる業種の企業が、全てのモノがネットワーク化されたInternet of Things(IoT)の時代を見据えたビジネスの構築を迫られている。もしコンビニで売られる雑誌に通信チップが載ったら…、歯にセンサーと通信機が埋め込まれたら…そう想像するだけでもビジネスの種は無限に生まれてくる。データと縁遠いと思われていた業種こそ、大きな可能性を秘めている。

このような思いに至ったのは、「Internet of Thingsによる新ビジネスの可能性」と題する講演を聴いたからだ。本稿では、5月27日に東京国際フォーラムでおこなわれた「ITロードマップセミナー SPRING 2014」のトリとして登場したNRI基盤ソリューション企画部 主任研究員の武居輝好氏によるこのプレゼンテーションを要約してお届けしよう。

◆M2MとIoTの違いは“人が介在するか否か”

武居氏は昨今話題になっているInternet of Things(IoT)と混同して使われがちな「Machine to Machine(M2M)」との違いについて、次のように説明する。「ネットワークに接続することで価値あるサービスが生み出されるモノ(Things)であれば、どんな形態でもIoTと呼べる。M2Mは、モノとモノとのあいだに人が介在しないケースに限定されているが、IoTは端末から収集したデータを人が活用する場合や人がネットワークに接続されたものをコントロールするケースも含んでいる」と説明し、IoTがより広義な用語であると位置づける。

「IoTが注目されるようになった背景には、プロセッサや通信モジュールといったデバイスの進化に加えて、Bluetooth LE(Low Energy)や3G/4G、Wi-Fiなどネットワークの多様化によって、ウェアラブル端末に代表される小型軽量なものにも搭載できるようになったことが大きい」と武居氏は指摘した。

たとえば、Googleはコンタクトレンズにセンサー/CPU/通信モジュールを格納してレンズを着けている人の健康状態をモニタリングする「Smart Contact Lens」を試作したし、歯ブラシに加速度センサーやジャイロセンサーを内蔵してブラッシングを最適化する「Kolibree」という、言わば“スマート歯ブラシ”も登場している。

◆ITビッグプレイヤーが狙う次の主戦場

「私たちの使っているものが全てネットワークされることはそう遠くはない」という武居氏は、ITビッグプレイヤーが次の主戦場としてIoTを位置づけ、端末(OS/半導体)からネットワーク(機器/回線)、クラウド、アプリケーションの各レイヤーでビジネスを始めていると説明する。その象徴が、先頃開催されたマイクロソフトのプライベートイベント「Bluid 2014」での発表だ。マイクロソフトはこのイベントで、9インチ以下のWindows OS無償化とそれに伴うIoT向けWindowsの登場、Azure インテリジェントシステムサービスの限定パブリックプレビュー公開といった大胆な施策を打ち出した。「マイクロソフトはいち早く端末にWindowsを埋め込むことによって、モノから得られるデータを抑えるためのプラットフォームを握り、データ管理や分析などサービスビジネスへの拡大を本気で取り組もうとしている」(武居氏)。検索やモバイル進出に遅れをとったマイクロソフトは、WindowsやOfficeに並ぶ本命として、IoTに本腰を据えて取り組む姿勢を見せている。

こうしたIoTビジネスの拡大に伴い、標準化にむけた活動も活発化しつつある。IETE(The Institution of Electronics and Telecommunication Engineers)や3GPP(Third Generation Partnership Project)、ITU(International Telecommunication Union)といった標準化団体のみならず、民間企業がIoTビジネスに向けたアライアンス締結やコンソーシアム設立に動いている。

その一例としては、デバイス間P2P通信をベースとしたフレームワーク策定を目的として設立された「ALL SEEN ALLIANCE」(クアルコム/LG/シャープ/シスコなど)や、機器間での互換性を持たせるための共通アーキテクチャを策定する「Industrial Internet Consortium」(AT&T/シスコ/GE/IBM/インテルなど)が挙げられる。

◆製品・サービスの付加価値向上/アフターサービスの充実/オペレーションの改善

では、IoTの先行ユーザー企業はどのような取り組みをおこなっているのか。武居氏は、利用シーンの種別として(1)製品・サービスの付加価値向上、(2)アフターサービスの充実、(3)オペレーションの改善という3パターンに分類して紹介していたが、ここで挙げられた事例は多岐に渡るので、モビリティ関連分野の事例を2つに絞って紹介する。

製品・サービス付加価値向上の事例として挙げられたのは、エアバスが実証実験をおこなった預入荷物リアルタイム追跡サービスの「Bag2Go」だ。これは、空港でのスーツケースレンタルサービスやドアトゥドアの配達サービスを想定したもので、2Gのモバイル通信ユニットとGPS、RFID、重量センサーをスーツケース内に内蔵しており、利用者が荷物の位置情報やステータスをスマートフォンで確認できる。年間2600万件発生し、航空会社に25億円もの損失を与えているというロストバゲージ低減の効果が期待できるという。エアバスによれば、通常のスーツケースの20%増しのコストで実装可能とアナウンスしている。

もう一つ、アフターサービスの充実に寄与するものとして紹介されたのは、電気自動車(EV)メーカーのテスラモーターズが実施したネットワーク経由によるリコール対応だ。テスラは2014年1月、高級サルーンの『モデルS』3万台弱を対象に、充電機の不具合によるリコールを発表した。モデルSは全車に3G通信モジュールを搭載しているが、今回メーカーはリコール対応のソフトウェアアップデートを通信経由で実施した。ネットワークによるアップデート機能によって、メーカーはパーツの異常診断や車両の機能強化をリアルタイムで実施できる。また、販売店はリコール対応に対する人件費を削減でき、ユーザーはリコール通知の受け取りや来店の手間を省けるなどの負担軽減が実現できるメリットがある。

◆IoTのセキュリティ問題の解決は困難

では今後、IoT活用のビジネスに参入または強化しようとする企業が直面するシステムアーキテクチャ面での課題はどのようなものか。武居氏は「IoTと他システムの連携」「リアルタイムなデータ収集と処理」「組込機器に対するセキュリティ対策」の3点を挙げる。

まず、IoTと他システムの連携について。「端末から集められるデータは仕様が端末側に依存し、固有仕様になりやすく、CRMやSCMなど既存のシステム仕様とのデータ連携が難しい」(武居氏)。この点については、たとえばSalesforce.comがマシンデータ管理クラウド(Heroku1)と顧客データ管理クラウド(Force.com)を同一プラットフォーム上に統合した「SalesForce1」を2013年に発表している。

またリアルタイムなデータ収集と処理については、サーバーで集中処理していた機能の一部をゲートウェイ(シスコ「Fog Computing」など)や端末(オラクル「Event Processing」など)に分散することで、サーバ側の負荷や処理遅れを減らす技術が登場しているという。

セキュリティ対策については、「組込機器はメモリやCPUのリソースが限られていたり、IDの管理もされていなかったりと、PCやスマートデバイス向けのセキュリティサービスのように画一的なセキュリティソリューションは存在しないので、個別対応しかないというのが現状」と述べ、決定的な打開策はいまのところないという認識を示した。

最後に武居氏は、IoTのビジネス展望について説明した。

武居氏は、自社製品/サービスのネットワーク化から(1)蓄積されたデータの活用によるサービスの高度化、(2)他社製品・サービスとのリアルタイム連携、最終的には(3)モノのネットワーク化を中心とした新たなエコシステムの構築を目指すシナリオを提示する。

「ユーザー企業は遠隔からセンシングすることでどういった業務に使えるのか、そういったシステムを構築する上でどういったアーキテクチャが効率的なのか、セキュリティを軽視せずに考えていってほしい」とアドバイスした。

「データを集めはしたが(または集めてみたいが)、それをどのようにビジネスに活かしてしかし、いけばいいのか」と悩む担当者は多いだろう。とりわけtoC向けサービスの拡大を狙う企業にとっては、Salesforce1の例が挙げられたように、マシンデータとCRMを接合する技術が広がれば一気にIoTのビジネスは拡大していくはずだ。データを扱うエンジニアとサービスを運用するディレクターは、お互いの領域をにらみながら設計をせねばならず、いずれも相応のスキルセットと知識が要求されるため、人材の育成も急務の課題と感じた。

《北島友和》

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